プロローグ
「残念ながら、人は生まれながらにして様々な不公平にさらされて、生きています。しかし、その中でも、たった一つだけ平等なものがあります。それは、時間です。時間だけはたとえ一国の国王であろうと、庶民であろうと1日24時間に変わりはないのです。しかし、その感じ方となると人それぞれです。同じ1分がある人にとっては長く、別の人にとっては短く感じられます。とくにこの奇妙な世界では…」
そう言って、砂時計を置くタモリ。
概要
『世にも奇妙な物語』1998年秋の特別編で放送されたストーリー。主演は三上博史。共演者に松重豊や小日向文世がいる。
世にも奇妙な物語の中でもかなりのトラウマ物のエピソードとして知られている。その内容から長らく再放送はされていなかったが、2014年10月17日深夜に約16年ぶりに放送された。
また、2015年に行われた「『世にも奇妙な物語』25周年記念一番好きな奇妙作品大募集」という人気作品投票企画では第8位にランクインした。
ストーリー
死刑制度が廃止された未来。7人の人間を殺害した凶悪犯の男が逮捕された。
男の態度はふてぶてしく、反省の色は見えない。裁判にかけられ、当然終身刑かと思われたが、彼に下された判決はなんと懲役30日。思いもよらない結果に男は歓喜する。
身体検査が終わった後、数名の医師が待ち受ける部屋に連行され、怪しい薬を注射された男は時計が午後4時になったことを確認した後、眠りに落ちていき、目が覚めた後、刑務所に連れて行かれ、303号としての懲役30日が始まった。
軍人のような恰好をした看守長に叩き起こされ、屋上に連行されると炎天下の中、縛り付けられた状態で日没まで立たされる。これが303号への懲役であった。楽勝だと高を括る303号だったが想像を超えるキツさな上、気を失っても水をかけられ、気絶すら許されない。
さらに独房の水すらも与えられず、看守長が目の前で水を飲むのにも耐え、靴を脱がされ、屋上の床の熱で足を焼かれ、全身や顔に塩をすり込まれ、水に濡らした革紐を首に巻かれて首を絞められる。
この繰り返しに303号は日に日に弱っていく。それでも日にちをカウントし、看守長たちへの復讐心を支えに必死で耐え続けるのだった。
30日目。いつもの屋上ではなく、薄暗い部屋に連れてこられ、電気椅子に拘束される303号。
実は死刑は廃止されておらず、秘密裏に行われており、刑期を終えた人間が出所後に行方を晦ますのは珍しくないことと処刑後の遺体は証拠隠滅のために溶かされていたことも明かされる。
必死で命乞いをする303号に対し、看守長は「殺さないでくれ?お前が殺した人間が聞いたらなんていうんだろうなあ!…しかしがっかりだなあ。君も命乞いをするんだ…おやすみ」と言い放ち、死刑は執行された。
303号が目を覚ますと1日目のベッドの上におり、30日の懲役が終わったと安堵するが医師たちは衝撃の真実を告げる。
「まだだ。君がここに来てから、まだ5分しか経っていない」
時計を見ると時計がさしていた時間は4時5分。まだ5分しかたっていなかったのだ。
懲役30日の正体は薬で眠らされた後、5分で30日分の懲役を仮想世界で体験するというものであり、5分で30日、1時間で1年、24時間で24年と感じさせられるのであった。
つまり、30日となれば「720年の懲役刑」となる。
「さあ、先を続けようか。君にはあと、29日と23時間55分の懲役が残っている…」
怯える303号を無視して、薬品が再び注射された…
現実での30日後。出所する彼を待っている相棒の女の前を白髪で痩せこけた男が通り過ぎた。
女は、それを無視したが、彼女は気づいていなかった。目の前を通り過ぎた男が変わり果てた姿の彼であったということに…
現実には……
2007年に向精神薬・シロシビンを用いた実験で被験者の体感時間の歪みがあったとする論文が発表されており、現在の薬学でも実際の時間の流れよりも体感時間を緩やかにする事は(安全性を別にすれば)不可能でもない。もちろん、これに加えて拷問やら処刑やらの幻覚を見せるとなると、流石にフィクションの域を出ない話ではあるのだが。
「懲役1000年を8時間で」?
オックスフォード大学の哲学者レベッカ・ローチェは懲役30年を刑罰の上限としているイギリスの量刑システムに対し、2013年に大学のブログ記事で「コンピューターに人間の心をアップロードし、処理速度を100万倍にすれば懲役1000年の刑を8時間半で済ませられるのではないか」という意見を表明。またこの記事に関する2014年のAEON誌によるインタビューで、「凶悪犯に体感1000年の刑を科すのは非倫理的か」という問いに対し「現在でも体感時間を歪ませられる薬剤がある以上、1000年の刑を受けているように感じさせられる薬剤の開発が出来るであろう事も想像に難くない」と答えている。
以上はあくまで哲学的な観点での議論であったのだが、これをイギリスのゴシップ誌『デイリー・メール』が「オックスフォード大学の科学者が『懲役8時間、体感1000年を実現可能な薬は開発可能』と主張」と報じ、これが日本に伝わって2017年にはtwitter上で「イギリスでは薬剤を使った懲役1000年の刑が考えられ始めている」として大きく話題になってしまう事態となってしまった。無論、実際にイギリスで刑罰に薬剤を導入しようなどという議論が起こっている訳ではない。
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こいつおまわりさんです:幻覚作用のある薬物を刑に使うのは流石にこれと言わざるを得ない