概要
エンジンと走行装置を有する機体上の、油圧シリンダーで作動する腕(ブーム、アーム)の先端にバケットを取り付け、土砂などを掘削または整地する自走式掘削機の中でも、油圧ポンプと油圧シリンダーを用いる機械のこと。バックホーやユンボ等、多数の異称がある。(後述)
近年では板金加工技術の進歩からか、曲面を多用するボディデザインものが多いが、一昔前の旧世代モデルでは直線的な角ばったボディが多く見られるのが特徴である。
構成
油圧モーターで旋回する操縦席と腕の付いた上部フレームを、クローラーを油圧モーターで駆動させる下部のフレームに乗せているのが多く見られる構成だが、小型のブルドーザー、トラクターやホイールローダーのオプションとして後背部に備え付けられたものや、他の車両に牽引させる前提で自走機能を持たないものも存在する(海外メーカー製など)。今日では衰退気味のトラックの荷台に架装したものなどもある。
下部走行体
クローラー装置等が組まれた部位。その名の通り走行に必要な部品が結集している。
主に油圧モーター、駆動輪、誘導輪、トラックローラー、キャリアローラーで構成されている。
小型の機種はここにドーザーブレードと油圧シリンダーが加わることもある。
- 足回りは無限軌道を装備したものが多いが、タイヤを装備したホイール式ショベルもある。
- 転倒防止の効果を得ることを目的に左右のクローラー幅を油圧で変更できる機能を装備したモデルもある。
- 無限軌道は小型機ではゴム製の事が多いが、大型の車両では金属製が多い。
- 舗装路を通過する際はゴム製の保護履帯などを取り付ける、あるいは鉄板などを敷いて路面を保護する必要がある。
- 下部走行フレームにドーザーブレードを装備し、ブルドーザーのように使用できるが、本体を支えるアウトリガーとしての役割が大きく、比較的小型の機体に備え付けられている。
- 油圧ショベルは構造上、ブルドーザーよりも小回りが利くため小規模な作業ではブルドーザーのお株を奪う場面も多い。
上部旋回体
作業アームや運転席、エンジン等が搭載されている部位。
エンジン、油圧ポンプ、旋回モーター、コントロールバルブ、燃料タンク、作動油タンク、運転席などが搭載され、アーム、ブーム、バケットといった作業機部(後述)もここに接続されている。
エンジン
エンジンにはディーゼルを使用するものが多いが、近年では油圧ポンプを電気モーターで回転させ加圧する方式のものが開発されている。今日ではバッテリーを搭載したEV式や有線で給電するものなどが製品として販売されているが、非公式に改造したものならばより以前から存在していたようである。
- ガソリンエンジン
燃料としてガソリンを用いるエンジン。車重1トン未満の比較的小型、300kg程度の小型のモデルに搭載される傾向がある。
軽量機でこそ効率が良いが、大きなものになればより効率の良いディーゼルエンジンにその座を譲ることになる。
- ディーゼルエンジン
軽油を燃料として用いるエンジン。
ディーゼルエンジンの傾向としてある程度大きいほどに効率が良いため、超小型機では搭載される例は極めて少ない。
- 電動式
一酸化炭素中毒が懸念されるような閉所、狭隘な現場での活用に適する駆動方式。環境問題にも一定の貢献があると見込まれている。
バッテリーを積んだEV式、有線での給電を行うものなどがあるが、。
近年はエンジンで発電機とオイルポンプを回し、電気モーターで上部フレームの旋回など慣性力のかかる動作を行い、回生ブレーキで電気を回収するものもある。
作業機部
ブーム、アーム、バケット、それらを動かす油圧シリンダーとホースで構成された部位。
比較的小型の機種ではスイング機構や、オフセット機構が伴うこともある。
- ブーム
『腕』の根元側、ひらがなの『く』に似た部分。機種によってはオフセット機構を持たせたものもある。
過去、この部分が直線状のモデルも存在していたが今日では衰退し、現在ではほぼ『く』の字状のものが殆どである。
比較的小型のモデルではこの付け根にスイング機構があるものも。
- アーム
根本がブームに、先端がバケットに接続された部位。ここに伸縮機構を持つモデルも存在している。
- バケット
一番先端にある部位。主に掘削用のバケットが備わっているが、作業目的に合わせ用途に応じたアタッチメントに付け替えられる。そのため土木工事はもちろん、各種の解体工事、金属リサイクル、荷役、林業など多岐にわたる作業に使用されており、それらの作業に特化した数多くのアタッチメントが存在する。
以下に主なものを簡単に記す。
- バケット
- リッパー
- 爪状で、木の根を抜いたり、固く締まった土壌を掘り起こすために使用。
- 油圧ブレーカー
- 削岩機。タガネを打ち付けるアタッチメント。油圧で主に斫り(はつり)や採石場での石の小割り、岩盤の掘削作業に使用。また、トンネルの掘削時に発破ができない場所で使用されることがある。
- 油圧クラッシャー
- 鉄骨カッター
- グラップル
- 嘴状で物が掴める。林業や家屋の解体、廃棄物の分別やダンプへの積み込みなどにも使用。くちばしのような二股に開くものや花弁状に開くものなどがある。
- マグネット(電磁石)
- くず鉄(スクラップ)の荷役や分別に用いる。
- その他
- 草刈りや林業、転圧や穿孔などさまざまな分野に特化したアタッチメントが存在している。
名称
「パワーショベル」
小松製作所の商標のバックホー、あるいは手前から前面に向けて押し出して掬う方式のショベル機構の名称でもある。(蒸気機関や内燃機関を用いたケーブル式ショベルで、油圧式でないものも含まれる)ホイールローダーやドーザーショベルなどは別の分類となる。
「ユンボ」
「ユンボ」はSICAM社(フランス)の商標で、固有の商品名である。SICAM社と当時技術提携していた三菱重工が同名の商品の製造販売も行っていた。現在はレンタルのニッケンが商標登録している。土木業界などを中心にこの呼称が一般名詞のように定着している。
「ショベルカー」
「ショベルカー」は放送などで商標名を回避するために生まれた言葉であり、その性質上建設業や官公庁で使われる機会は極めて少ない。俗語の中でもさらに本流から外れた呼び名と言っていい。その利便性からマスコミやおもちゃ業界では多用される。
「ドラッグショベル(ドラグショベル)」、「バックホー(back hoe)」
ショベルの作用面が手前を向き、操縦者側に引き寄せるように作業するものを「ドラッグショベル」、地表より下の掘削に適するドラッグショベルを「バックホー」と呼ぶこともある。耳慣れない呼び名だが、官公庁公的機関ではこの呼名で書類を作ることが多い。公共工事の積算などでは頻出するだろう。(表記揺れ→バックホウ)
操作
スロットル
主にエンジンの回転数を変え出力調整に用いる。
アーム、ブーム、バケット
左右アームレストの部分に操作用のレバーがある。
操作パターンはJIS式とコマツ・日立パターンが主流で、メーカー出荷時はJIS式に設定されている(三菱パターンや旧・ヤンマーパターンもあるが少数派である)。
- JIS
アームダンプ | ブーム下降 | |||||
左旋回 | 右旋回 | バケット掘削 | バケットダンプ | |||
アーム掘削 | ブーム上昇 |
右レバーの操作
左右でバケット操作(左:掘削、右:開放)、前後でブーム操作(前:下げる、後ろ:上げる)
左レバーの操作
JIS式では前後でアーム操作(前:伸ばす、後ろ:曲げる)左右で旋回(左:左旋回、右:右旋回)。
コマツ・日立パターンではレバーの左右と前後の役割が逆で、(前:右旋回、後:左旋回、左:アーム伸ばし、右:アーム曲げ)。
左レバーの操作が混在している地域では、JIS式を横旋回、コマツ・日立パターンを縦旋回と呼ぶことがある。
無限軌道
無限軌道を装備する機種は走行時の操作が統一されており、中央に二本ある走行用のレバーがそれぞれ右のカタピラと左のカタピラに対応し、前へ倒せば前進、後ろに倒せば後退する。ペダルがレバーと直結されていることもある。
【操作例】 前進・後退は車体から見てであり、操縦席が旋回して後を向いている時は逆になる。
左レバー | 右レバー | 動作 |
---|---|---|
前 | 前 | 前へ直進 |
前 | 前へ少し倒す | 右へ曲がりながら前進 |
前 | 中立 | 右へ信地旋回 |
前 | 後 | 超信地旋回(時計回り) |
後 | 前 | 超信地旋回(反時計回り) |
余談
- 油圧シリンダー作動は大型化に限界があり、作業半径が20mを超えるような大規模な掘削機械には、動力源に電気を用い、ウインチとワイアーで作動する昔ながらのケーブル式ショベルやバケットホイールエクスカベーター、バケットチェーンエクスカベーターなどの特殊な方式のものが使用されているが、近年ではバケット容量が40立方メートル超えの超大型の油圧ショベルも開発されている。
- 「油圧ショベル」は、1990年代に入ってから、社団法人日本建設機械工業会により制定された統一名称である。