七瀬君から聞いたんだが、君のおじいさんは有名な探偵だったそうだね
そんな君がこうした事件に出くわしたのも天命かもしれんな…
そう… きっとこの許しがたい犯罪を暴くために、神が君をこの地に送り込んだのだ…
戦いたまえ! 金田一君!
遠野君の死を むだにしないためにも!
人物
悲恋湖バスツアー参加者の壮年の男性。
職業は医者。特に無医村や限界集落の医療維持活動、また海外の戦乱地域や貧村への医療支援も行っており、その手で救った命は数知れない。
金田一少年の事件簿シリーズの登場人物においては、とても珍しいぐう聖医師。
遠野英治の死に直面した結果、彼を送り出した判断を悔い自らを無闇に責め、心の折れかけた金田一一に冒頭の言葉を与え、その魂を奮い立たせて救った人物であり、この言葉によって、はじめちゃんは真の意味での探偵の使命と覚悟に目覚めた。ある意味では「巻き込まれ高校生の金田一くん」を「真なる高校生探偵・金田一少年」へと導いた人物と言えなくもない。
また、上記の台詞は、『探偵もので事件現場に探偵が現れる「探偵=死神」の図式を覆す、探偵の存在意義への解答』にも当てられる。
しかし、過去にある罪を犯しており、医師としての活動はその贖罪の意味もあるという。また、今回のツアーでの会員権取得の権利も、会員権そのものより、もし取れたらその利権を元に自身の医療行為のために使おうと考え、参加している。
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※この先は、事件の終盤におけるネタバレ注意
「私の魂は今もまだあの暗い海で、波間に消え行く少女の姿を見つめて彷徨っているんだよ……」
実は他のツアー参加者同様、過去に豪華客船「オリエンタル号」に乗船しており、その水難事故に遭遇していた1人。
真犯人であるジェイソンこと遠野英治の妹である小泉螢子を救命ボートから突き飛ばして引き離し見殺しにした張本人でもある。
彼本人としては、他の人員を優先しての行動であった。
もちろん螢子を救命ボートから引き離す事に逡巡もした。しかし、螢子を引き上げようとした際に大きくボートが傾いでしまった。その事で「自分が、この少女を引き上げる事で、他の多くの人を殺すことになる」という現実に気付き、その責任の恐怖にかられた。その結果、自分を含むボートに乗った人たちの命と螢子一人の命を数の天秤にかけてしまい、結果、非情の手段を取らざるをえなかったのである。
(ドラマ版など他メディア版では螢子を引き上げるか否かを逡巡する際に、気づいた乗客たちから「みんなを殺す気か!」「もう無理だ! 突き放せ!」「突き放しても他のボートが助けるだろ!」という罵声を浴びせられた上で螢子に差し伸べた甲田の手を他の乗客たちが全員で強引にほどこうとしたため、さらにボートのバランスが崩れて悪化し予断を挟めない状況に追い込まれた、という集団心理(集団圧力)による駄目押しが加わった旨が描かれている)
それは、思考の余裕すら許されない予断を挟めぬ状況下ではやむない選択であった。
それでも―――一人の少女を犠牲に生き残った。その事実は人を救うことを誇りに生きてきた医師であった甲田には耐え難い事であった。
あるいはここで甲田に公的な贖罪の機会が与えられれば、また話は違ったかもしれない。
だが、そんな機会は与えられなかった。刑法37条『緊急避難』―――「自己又は他人の生命、身体、自由又は財産に対する現在の危難を避けるため、やむを得ずにした行為は、これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り、罰しない。 ただし、その程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。」甲田の行動はこれに該当する事例と認められてしまう。そして甲田がこれまで多くの人を救い続けた本当に実績ある医師であったがゆえに、彼に救われた乗客たちのみならず、彼の患者たちや同僚上司後輩たち、多くの人たちの善意によって甲田の行いに対する罪は「やむをえなかった事」として免除されてしまった。
しかし、螢子の命が奪われた事は紛れもない事実。その全てを「仕方のないこと」としてしまった、この現実は遠野の復讐心に火を付けさせ、凶行へと至らしめてしまう。
極限下のやむない事とはいえ、結果的には甲田こそが遠野が悲恋湖バスツアーにおける殺人事件を引き起こす元凶を作ったとも言える人物であった。
事件の終盤で、その真実が公になった事で、遠野に一生拭えない罪の意識を告白し、償いのために自害しようとする(遠野は糾弾された腹いせに、よりにもよって復讐に最も関係がない金田一に甲田を殺せと脅迫しているのも大きい)も金田一に贖罪の生き方を指摘されて庇われる。さらに高熱から意識を取り戻した美雪も遠野に「どうして、あの優しい先輩が、こんなひどい事をするの?」と涙ながらに問うた。
美雪の姿に心優しい螢子の面影を見るとともに「螢子は復讐など求めてはいなかった」事を悟り、正気を取り戻した遠野は、そのやりきれない復讐心を抱えながらも、そのけじめのためか悲恋湖にて逃亡のために乗ったボートを自ら爆破させて自害した。(遺体は上がらなかったが……)
しかし、螢子を死に追いやり遠野を凶行へと追い詰めてしまった甲田の背負った罪は、今後もぬぐいうる事はない。この事件は、結局は彼の心を縛る罪の十字架の重さを増しただけであった……。
なお、遠野の行動は基本的にあちこちに盗聴器を仕掛けて、孤立した(=襲いやすかった)人間から殺していくものだったため、温厚で協調性が高い上に、美雪の治療のため甲田は基本孤立した行動を取らなかったことで、標的になりにくくかった。
また、その生還は甲田自身をより苦しめる結果となったが、逆に解決編で螢子の手を突き放した者が判明し、残るSKの人物への危険性が下がったことにも繋がっており、色々と皮肉な道を辿っている。