概要
1890年(明治23年)に発表された、森鴎外の初期の代表作。現代では多くの高校で3年生時に学習する。
明治時代に書かれた作品のため、原文のまま理解するには古文の知識が必須である。
1884年から4年間ドイツへ医学を学ぶために留学した時の体験を下敷きとする。
主人公・太田豊太郎の波乱の留学生活を、豊太郎の一人称視点で描いている。
あらすじ
帰国の船の中、自室で官吏の太田豊太郎はドイツでの留学生活を思い返していた。
下宿先の近い教会の前で、豊太郎はエリスという美少女に心を奪われ、涙する彼女の相談に乗り、彼女の父親のために病院や葬儀のための資金を工面してやることにした。
しかし、彼を芳しく思わない同僚によって讒言を立てられ、仕事を失脚してしまう。
その後、エリスとの同棲生活が始まり、豊太郎は新聞社の通信員として翻訳にいそしむ日々を送り、エリスはヰクトリア(ヴィクトリア)座の踊り子として舞台に立った。果てには豊太郎はエリスを妊娠させてしまう。
そんなある日、友人である相沢謙吉の取り計らいにより、復職のチャンスが巡ってくるが・・・。
論争を呼んだ顛末
この作品について、発表された同年に文芸評論家の石橋忍月が豊太郎の人間性を批評し、これに森鴎外が対抗するように彼を批評する著作を表し、二人の間に論争を呼んだ。
忍月が一方的に筆を絶ったことから、この論争の決着は付かずに終わっている。
この出来事は、近代文学における最初の文学論争とされている。
実際、読後の後味は決して良い作品とは言えない。
はっきり言って結末はバッドエンドであり、従来のように決して最後に救いを見い出そうとする作品ではないため、読者によっては不快感を表す人もいるだろう。
しかし、等身大の人物たちの愛と欲望と葛藤に彩られた物語は、のちの文学の在り方に一つの指針を表しともいえるかもしれない。
明治41年に書かれた「蛮カラ奇旅行」なる島村隼人というバンカラ青年が世界を旅してハイカラの気取り屋どもをぶん殴っていくという小説では、織部欽哉という豊太郎そのままの設定の人物が出てきて、気が狂ってしまったエリスらしき外国人女性に同情した隼人にぶん殴られる一幕がある。なおエリスの狂気は隼人が欽哉をボコボコにしたら何故か治った。
(なお、純粋に小説としての出来に関してであれば、人にも依るだろうが、「舞姫」の結末が気に入らない人でも「蛮カラ奇旅行」より「舞姫」の方が出来が遥かに上だと認める場合がほとんどであろう)
なお、エリスは、男側の身勝手のせいで、おそらく十代でシングルマザーになった訳なので、当時の基準でも、あまりと言えばあまりな事態と言える。
関連イラスト
関連タグ
サクラ大戦3…製作者が、本作を「舞姫」のオマージュと語っている。
闘神伝…踊り子の「エリス」というキャラが登場する。