男の世界をブチ破れ、
愛の「玉砕カミソリボール」で!
概要
2023年8月19日に公開。
日本大学芸術学部映画学科出身の映画監督・小野峻志が在学中に結成した映画制作チーム「カブ研究会」(通称:かぶけん)によるインディーズ映画作品。本編60分のオール・カラー。
草野球の投手となった若き未亡人とチーム監督との熱き特訓の日々を、「男どアホウ甲子園」を捩った作品タイトルをはじめ、昭和の数々のスポ根・野球作品にロマンポルノ映画風のエッセンスをかけあわせて描く野球ドラマである。
確かに「野球ドラマ」ではあるが…。
映画業界者からのありがたい応援コメントの一部。
「とにかく早く水島新司先生に謝りにおいきなさい。」
「観客がバッターとしたら、3連続大暴投を投げられてその後3連続三振したような作品。」
「この映画みたいなシナリオ書いて、とオーダーされても書ける自信が微塵もない。」
実のところ
- 野球観戦もプレイするのも趣味ではない小野峻志監督をはじめ、殆どのスタッフ・キャストは野球未経験者。
- にもかかわらず野球作品を作ろうとしたのは、「脚本家の佐々木守も野球全く知らないのに、男どアホウ甲子園の原作を手掛けのだから問題ない」と思ったから。
- 本作の企画書にも「こんなの野球じゃない、という批判は可能な限り無視をする」と盛り込む。
- あまつさえパンフレットでの解説にも「野球に対して特別思い入れのない人間たちが作る野球の映画」「リアリティが凄い野球描写はつまらないものとして切り捨てる」とわざわざ太文字で強調して豪語する。
など、「野球にさほど興味がない人達」が作った作品なだけに、作中での野球の描写は従来の野球作品と比べると(意図的ではあるが)かなりいい加減。
- ヒロインが最初に課せられた野球の基礎特訓がキャッチボールやバッティングではなく、「ボール(の気持ち)になれ」と河川敷の土手で延々とでんぐり返しさせられる。
- 野球といえば最低9人の選手が居ないと出来ないのにもかかわらず、野球の特訓や試合のシーンでは基本ヒロイン(または夫)と監督の2人しか出てこない。
- 一応チームメイトも2~3人出てはいるが、脇からヒロインの特訓を冷ややかにツッコむだけの出番で物語の本筋には殆ど関わらない。
- そもそも劇中の出演者数はメイン脇役関係なく後述の登場人物の項目に書かれている8人が全てである。野球のチーム最低人数の9人よりも少ない出演者数ってわけがわからないよ…。
- 出演者が全8人→映像作品には欠かせないエキストラも誰一人雇っていないので、エキストラによる演出が必然な筈の野球の試合シーンでさえも自チームと相手チームの選手に観客の姿が一切描かれていないので、試合の経過をテロップ表記や歓声の効果音でそれっぽく済まされる。
など最早開き直りの野球描写で、ギャグコメディとして観ればツッコミどころが満載の内容である。
しかし一方では
- 大リーグボール養成ギプスやエースをねらえ!に丹下段平など、往年のスポ根作品をリスペクトしたパロディの数々。
- 懐かしい昭和のロマンポルノ映画を彷彿とさせるキービジュアルポスターやテロップ演出。
- 劇中何度か触れられる「肝っ玉には金の玉」等の下ネタ・お色気描写に、仏具の鈴(りん)の音と共に映し出される笑顔に溢れた遺影など、思わず声を出して笑わずにはいられないコミカルな演出の数々。
- 東映のオープニングで知られる犬吠埼までのロケを敢行して、「かぶけん」のロゴでオープニングを再現。
- 元々映画ファンであった小野監督の拘りを感じさせる、尊敬する古今東西の映画監督の技法をリスペクトしたスローモーションや同じシーンの繰り返し映像による演出。
- 確かに野球作品として観るにはツッコミどころ満載ながらも、スポ根作品として観ればヒロインの成長に宿敵との対決など物語としては破綻なくしっかり(?)と描かれている。
と小野監督と「カブ研究会」が今まで培ってきたインディーズ映画制作に対する情熱が観客に所々と伝わってくる作品であるのも確か。
公開当初は「カブ研究会」の過去作品を上映した事がある東京池袋の老舗映画館「ロサ・シネマ」1館のみでの上映だったものの、「バカとエロの場外ホームラン映画」と謳った喜劇っぶりが徐々に映画ファンやマニアの口コミにより評判が広がり、その後は愛知の「刈谷日劇」や大阪十三の「シアターセブン」など地方のミニ映画館にも上映が拡大。
また小野監督と出演俳優による舞台挨拶が何度も積極的に敢行され、そこから更に撮影エピソードの数々に小野監督の拘りの映画愛溢れるトークが披露される事も話題になり、ミニ映画館主体で上映されるインディーズ映画としては異例の注目を集めている。
あらすじ
若き主婦・水原夏子は最近自分よりも草野球に夢中の夫・賢一に不満を感じ、草野球チーム「多摩川メッツ」の監督・重野と野球そのものに憎しみを募らせていた。
「夫を野球から返してください」
しかし、賢一が野球の試合中に不慮の事故で突然帰らぬ人となってしまう。
憔悴しきった夏子の元へ重野が現れ、賢一が重野に対して借金がある事実を告げたうえでその弱みにつけ込んで「多摩川メッツ」の選手になるよう夏子に迫る。
「奥さんが私のもとで野球をしてくださるのであれば、借金はなかったことにしましょう」
夫の借金返済のためやむを得ず草野球の投手となった夏子であったが、重野から課せられた激しい野球特訓を重ねるうちに、いつしか憎んでいた筈の「野球」という名の快楽に取り憑かれるようになっていく。
「ああ、野球って気持ちいい!」
義理の妹・春代やプロ野球のスカウトマン・吉田など一癖二癖もある面々にも囲まれて草野球の未亡人エースとして活躍する夏子であったが、重野が夏子をスカウトした真の狙いが明らかになった事により夏子の未亡人野球道は予想だにしない更なる狂気の方向へと進んでいく。
青春野球どアホウ喜劇の決定版、ここに誕生!
登場人物
水原夏子(みずはら なつこ)
演:森山みつき
主人公の若き主婦。「乳酸菌飲料のオカルト」の配達員をしながら草野球に夢中の夫・賢一を支える貞淑な妻。
夫に先立たれた事により若くして未亡人となり、重野に野球の才能を見出されてなし崩しに草野球チーム「多摩川メッツ」の投手となる。厳しい野球の特訓を重ねていくうちに憎んでいたはずの野球の快楽に取り憑かれるようになり、草野球のエースとして活躍するようになっていく。
得意技は打者の股間を直撃する「玉砕カミソリボール」。
重野進(しげの しん)
演:藤田健彦
もう一人の主人公的な人物で草野球チーム「多摩川メッツ」の監督。
普段は「昭和カラー印刷」に務める課長職のサラリーマンで、自身の野球論を纏めた「野球狂人万事快調」「野球狂人、神出鬼没」なる自費出版本も出している。
愛弟子であった亡き賢一の妻である夏子を野球の道に引きずりこみ、宗方仁ばりのスパルタ特訓で夏子を草野球のエースとして育て上げるが、その真の狙いは自身の野球論を実証する為の陰謀が隠されてるようで…?
水原春代(みずはら はるよ)
演:井筒しま
賢一の妹。義理の姉である夏子も「姉さん」と呼んで慕っている。
九州の方言っぽい喋りとメガネが特徴の高校生で柔道部に所属している(黒帯)。
柔道の試合帰りに夏子の元へ寄り道した際に夏子と重野の野球特訓を目撃して以来、重野を夏子を誑かす悪い奴と怪しむようになり、やがて夏子に取り憑いた野球の狂気にも振り回されるようになっていく。
登場当初はセーラー服姿だったが途中からは柔道着姿に着替えている。
グリフィス吉田(ぐりふぃす よしだ)
演:工藤潤矢
プロ野球のスカウトマンであり、夏子をプロ野球初の女性選手としてスカウトすべく注目している。
重野とは同じ高校の野球部からの旧友であり、その時の過去の出来事から重野の野球論には危惧を感じている。
水原賢一(みずはら けんいち)
演:秋斗
夏子の夫。
元高校球児で、重野の著書を読んだのがキッカケで愛弟子になってからは妻や仕事よりも草野球に夢中になっていた。
夏子もそんな夫に呆れながらも慕っていたが、ある日草野球の試合中に事故に遭い突然死した事で夏子の平凡な人生に終わりを告げる事となる。
多摩川メッツの選手たち
演:田中陸、関英雄、柳涼(友情出演)
前述の通りチームメイトとして(従来の野球作品みたいに)野球の特訓や試合に参加する描写はほぼなく、夏子の特訓を冷ややかにツッコミながら傍観したり「玉砕カミソリボール」の相手として付き合うだけの出番に留まっている。
関連動画
- 予告編PV(映画ナタリー)
外部リンク
※公式サイトは未開設。