概要
電極の加熱によって生ずる熱電子を電極に高電圧をかけて引き寄せて加速したり、粒子加速器を使うなどして人為的に加速した電子。一般的なベータ崩壊(β⁻崩壊)で放出される粒子と実体は同じだが、発生方法が異なるため区別される。
用途
電子ビーム溶接
真空中に対象物をいれ、その対象物に加速した電子ビームを照射すると対象物に衝突して加熱される。この現象を利用して溶接を行う。ただし、対象物への衝突時に電子に大きな加速度変化が生じ、そのときに制動放射によるX線が放出されるため、その防護が必要。
必要なエネルギー(熱)と余分なエネルギー(X線)の関係が下記のX線管とは逆の関係にある。
X線管
レントゲン撮影などに必要なX線を出す電子管。真空中で電子を加速して陽極の金属に衝突させると制動放射と特性X線放射(補足参照)によりX線が放出される。このときエネルギーの殆ど(99%以上)が熱に変わってしまい陽極が高温になるため、陽極はタングステンやモリブデンなど融点の高い金属で作られており、陽極内部に冷却水を通したり陽極を傘状にして回転させ電子線が当たる場所を時々刻々と変化させるなど高温になる陽極を冷やす工夫も施されている。
それゆえ必要なエネルギー(X線)と余分なエネルギー(熱)の関係が上記の電子ビーム溶接とは逆である。
補足
特性X線放射・・・電子を原子に衝突させた際に、弾き飛ばされた電子を埋めるために原子核内の他の軌道から電子が遷移する際にX線が放射される現象のことで、制動放射によるX線と異なり衝突した原子によって決まった波長とエネルギーのX線が放射される。
ブラウン管
真空中で電子を加速して目的の場所に電子線を当てるとその場所に塗られた蛍光体が発光する。ここでも弱いながら制動X線が放出されるため、ブラウン管は放射線を通さない鉛ガラスで出来ている。
電子顕微鏡
加速した電子を強力な電磁石で収束・走査して対象物に当て、散乱した電子や貫通した電子を蛍光体に当てて微小な構造を観察する。以前は1台数億円が当たり前だったのだが、現在は安い機種であれば数百万円台から購入できるようである。ただし、電源については少なくとも数百Aクラスの大電流が供給できる電源が必要。
物理の授業・実習における実験
物理の教育にて、電子の流れが磁場や電場で曲がることを示す実験。電子線が見えるようにガラス容器の中は低圧のガスが封入してあり、電子の流れが目で見えるようにしてある。
電子の流れを見る実験なので電子線のエネルギー自体が低く、制動X線放射については無視できるほど弱いので、実験による被曝を心配する必要は無い。