概要
放射線の一種であり、波長の短い電磁波である。ガンマ線と同様に実体が電磁波である事とガンマ線の波長(大体10pm(1億分の1mm)以下)と重複するので、波長からX線であるかガンマ線であるかを判別する事はできない。電磁波の波長によって区別する場合、波長が1pm~10nm(10億分の1mm~1000億分の1mm)ものをさし、発生起源によって区別する場合は軌道電子の遷移による電磁波をさす。
X線のエネルギーが非常に低い(超軟X線)とその性質が紫外線に近くなり、エネルギーが非常に高くなると(超硬X線)電磁波としてより粒子としての性質が大きくなってくる。
ちなみに、日本の法令上の表記では「エックス線」または「エツクス線」(「ツ」が大きい文字)といった片仮名と漢字による表記と定められている。
用途
- 透過撮影・・・生体、物体ともに行われているが、生体と物体では撮影時のX線のエネルギーは当然異なる。生体の透過撮影では主に癌などの病変や口腔内の齲蝕(虫歯)、骨折の様子を調べる等の目的に、物体の透過撮影では主に製品内部の欠陥検査(鋳物に出来る巣など)などに使われる
- 結晶解析・・・X線が物質の結晶内を通過すると結晶構造に応じた回折をして散乱するため、その性質を利用して物質の結晶構造を調べる。
計画段階で中止された用途
- EPROMのデータ消去・・・500Gy程度のX線照射で内容を消去できるが、半導体が変質する可能性があり焼きなましや詳細な検査が必要なため、パッケージに窓をつけ紫外線を照射する方法による消去方法が採用された。窓は普通のガラスでは紫外線が吸収されやすく消去の妨げになるため、石英ガラスが用いられている。普段は遮光テープで目隠しをして、データの消失や誤作動を防ぐ。
発生方法
原子核の電子を弾き飛ばす
真空中に置いた標的(銅、モリブデン、タングステンなどが使われる)に30keV(≒4.807×10⁻¹⁵J)程度に加速した電子を衝突させ、1s軌道(K殻)の電子を弾き飛ばす。すると、電子が抜けてしまった軌道に外側の軌道から電子が入り込んでくる。このときにX線が放出される。この方法では標的となる原子とその電子殻から定まった波長のX線が放出される(特性X線)。
運動エネルギーによるもの
電子の運動方向を磁場などで変更させたり、ナニモノかに衝突させるなど急に減速させると制動放射によりX線が放出される。上記の方法とは異なり特定の波長を示さない。(白色X線)
熱によるもの
ブラックホールに落下し加熱されたガスから放射される。また、高温のプラズマからも発生させることが出来るので、レーザーで高温のプラズマを生じさせて1000兆分の数秒単位のごく短いX線パルスやX線レーザーを放出する研究がされている。
トリボルミネッセンス(摩擦による発光現象)
セロテープのロールを一定の速さで剥がすことによるもの。1950年代にソ連の科学者たちがセロテープのロールをある速度で剥がすとトリボルミネッセンスによりX線領域のパルス光が発生することを突き止めていた。ちなみに、2008年に米カリフォルニア大学ロサンゼルス校の研究チームが「真空中でセロテープのロールを毎秒3cmの速さで剥がす」と撮影可能な強さのX線が放出されることを確認した。・・・のだが、摩擦学の理論ではこの現象の説明がまだできていない。
シンクロトロン放射
高速で飛ぶ電子を磁場で曲げると、接線方向に電磁波が放射される。発する電磁波の波長は電子のエネルギーにより様々だが、この仕組みにより極めて単色性の高いX線を発生させられる。日本では兵庫県にある放射光施設SPring-8と、隣接するX線自由電子レーザー施設SACLAが有名。
逆コンプトン散乱
光速近くまでに加速された電子にレーザーの光子を正面から衝突させると電子の運動量の一部を得て反射した光子はX線になる。ガンマ線クラスの高エネルギーの光子も発生可能。