アイテム番号:2571
メタタイトル:クラッグルウッド・パーク(Cragglewood park)
オブジェクトクラス:Keter
概要
SCP-2571は、実在しないテーマパークである「クラッグルウッド・パーク」に関する反復性のある記憶現象である。この記憶は、影響を受けた対象者が幼少期にこのパークを訪れたと主張する形で現れる。記憶の詳細には以下の特徴が共通している。
- 対象者の年齢: 記憶の中で訪れた時期は4~12歳。
- テーマパークの特徴: 森の中にあり、擬人化された樹木や植物が登場する。テーマパーク内にいるのは子供だけで、大人の存在は確認されない。
- 音楽: 常にカリオペ(オルガン風の楽器)の音楽が流れている。
- 回転木馬: 唯一の乗り物である回転木馬が存在し、一部の子供たちはこれに乗るが、対象者自身は乗らない。
- 他の子供たちとの関係: 対象者は、他の子供たちが誰なのかはわからないが、奇妙な連帯感や恐怖心を共有している。
この記憶は特に一人っ子の成人に見られる傾向が強い。影響者に記憶処理を施すことで一時的に記憶を抑制することが可能だが、治療を中断すると記憶が再浮上する傾向がある。
特別収容プロトコル
財団はSCP-2571に関する情報の拡散を防ぐため、I/O-MANDELAというAIを用いてオンラインコミュニティを監視している。SCP-2571に関連する議論が確認された場合、機動部隊ファイ-7(“お笑い草”)が調査を行い、必要に応じて記憶処理や情報削除を実施する。影響者への直接的な介入は慎重に行われる必要がある。トラウマを掘り返す可能性があるからね。
補遺2571.1: インタビューログ
次は、SCP-2571の影響を受けた3人のインタビューログである。
インタビューログ①
日付: 2002/11/16
質問者: ライナー博士
対象者: ルパート・デュカソー
[記録開始]
ライナー: “クラッグルウッド・パーク”についてどんな事を思い出せますか?
対象者: おいおい。その件で来たのか? ただの昔見てた悪夢だよ。
ライナー: 詳しく説明してもらえますか?
対象者: つまりだな、あれは — 多分、小さい子供の頃に行った実際のテーマパークが元になってると思うんだよ、な? きっと当時の俺にはトラウマだったんだろうさ。
ライナー: 悪夢の中では何が起きるのですか?
対象者: 俺はまずテーマパークに入っていく。ディズニーランドみたいな感じだが、もっと小さい。乗り物は無くて、ただ森の中を抜ける長くて曲がりくねった道だけが続いてる。何もかもマンガの世界みたいに明るくてカラフルだ。それで周りを木が取り囲んでるんだが…
ライナー: 木について教えてください。
対象者: そいつらには皆、顔がある。そして歌ってる。ぼんやりした楽しそうな顔つきで、昔のマンガ映画の中に出てくるような感じ。それでただ歌ったり笑ったり歌ったりしてるだけだ。
ライナー: 他には何かありますか?
対象者: どこに行っても音楽が流れてる。オルガンの演奏みたいなんだが、教会で聞くようなタイプじゃない。もっとこう、カーニバルで聞けるようなやつ。
ライナー: 先ほど、乗り物は無かったと言いましたね。
対象者: あー、いや待て。違う、間違った。乗り物はあった — 1つだけ。たった1つ。馬が円を描いて回ってるアレだ。何のこと話してるか分かるよな?
ライナー: 回転木馬ですね。
対象者: そうだ。そのアレ。オルガンの曲はそこから流れてる。
ライナー: 貴方は一人でしたか?
対象者: いや。他にも子供たちがいた。そいつらも、その場にいるのが幸せじゃない。俺たちはみんなニコニコしたり笑ったりしてるけど、それは自分が泣き出すのを抑えるためにやってるんだよ、な? 木々を騙すためだ。だから木々には俺たちがどれだけビビってるか分からない。木々を幸せなままにしておくためなんだ。
ライナー: 木々を幸せにしておく?
対象者: ああ。
ライナー: 他に何か思い出せることはありますか?
対象者: ああ、クソ。分からねぇよ。長い間あそこの夢は見てないんだ。あー、でも… 一つだけ、終わり近くにある。
ライナー: リラックスしてください。時間は好きなだけ掛けてくださって結構です。
(対象者は目を閉じる。)
対象者: ちょうど俺が帰ろうとしていた時、ある物が目に留まる。足元から芽吹いてるちっぽけな木だ。そいつが俺を見上げてる。笑ってるんだ、満面の、とぼけた、幸せそうな笑顔で微笑みかけてるんだ。そいつを見て、そして俺は叫び始める。そこで目が覚める。
ライナー: 何故その木を見て叫ぶような事になるのですか?
(対象者が目を開く。)
対象者: だって、そいつは俺の顔をしてるんだ。
[記録終了]
インタビューログ②
日付: 2003/02/09
質問者: ライナー博士
対象者: ジャニン・ヤーリング
[記録開始]
ライナー: 貴方は回転木馬に乗りましたか?
対象者: えっ? 勿論ノーよ。何を言ってるの?
ライナー: では、それに近付いた時、何が起こりましたか?
対象者: 子供が何人か乗った。アタシは違うけど。乗った子たちは — 何人かは笑ってて、何人かは泣いてた。乗らなかった子たちを抱きしめた子も幾らかいたわね。お互いに抱きしめ合ってた子たちもいた。
ライナー: そして何が起きました?
対象者: その子たちは回転木馬に乗った。そして私たちは帰ったの。
ライナー: 彼らには何が起きたのですか?
対象者: (苛立った様子) 知る訳ないじゃない? 帰ったんだから。
ライナー: 貴方は彼らを置き去りにしたのですか?
対象者: (更に苛立った様子) ええ、置き去りにしたわ。何よ、私たちがそこに突っ立ってるべきだったとでも思ってるの? この先何が起こるか見てれば良かったのにって?
ライナー: 申し訳ありません。貴方を何か責めるようなつもりはありませんでした。貴方はまだ子供でしたから、誰も—
対象者: その通りよ、私はただのクソみたいな悪夢の中にいるクソガキだった、私は — 私はただ —
(対象者は首を振る。)
対象者: 私は、あんたはこれが私にとってどういう物なのか、私をどんな気分にするかさっぱり分かってない。私はこの事は話したくもないのよ。私はただ忘れたいだけ。どうして黙って帰してくれないの — どうして —
(対象者は啜り泣き始める。)
対象者: ごめんなさい、私 —
ライナー: 謝る必要はありません、ヤーリングさん。貴方は間違いなく、その経験が深いトラウマになっている。
(対象者は啜り泣き続けている。)
対象者: 私、私ただ、分からないの。
ライナー: 私には想像もつきません。貴方の仰る経験というのは道理の通る点がほとんど無い。
対象者: (しゃくり上げる) 違うの、そうじゃないのよ。私…
ライナー: どうしました?
対象者: 子供の一人。乗った子供たちの一人のこと。
ライナー: はい?
対象者: なんで? どうしてあの男の子は私を抱きしめたの? 私 — あの子が誰なのかも分からないのに —
(対象者の啜り泣きが激しくなる。)
[記録終了]
幼い頃に植え付けられたトラウマは、自身と最も感情的に近かったものや人を焦点に思い出されるというが、この「男の子」は対象者とどのような関係だったのだろうか...?
インタビューログ③
日付: 2004/06/12
質問者: ライナー博士
対象者: ランドルフ・ブレア
[記録開始]
ライナー: ビデオカセットについてお聞きしたいことがあります。
対象者: 止してくれ。
ライナー: 分かります、この —
対象者: 君たちには分かってないよ。私はこの件については、何も君たちと話し合いたくない。畜生。だからセラピストに打ち明け話なんかすべきじゃなかったんだ、あのクソ女 —
ライナー: お願いします、ブレアさん。集中してください。
対象者: (溜め息) 続けてくれ。
ライナー: このカセットですが。何処で手に入れました?
対象者: 知らないね。見当も付かない。大掃除をしている時に屋根裏部屋で見つけたんだ。ゴーストバスターズか何かの古い録画だと思っていたよ。
ライナー: これに映っている映像のどれかに見覚えはありますか?
対象者: 分からない。ああ。悪夢の中でなら。丁度こういうふざけた内容だった。多分、誰かが子供時代の私にこのテープを見せたんだろう。
ライナー: 貴方はこれまでずっと、この家に住んでいらした?
対象者: ああ。
ライナー: ご両親にこの家で育てられたのですね?
対象者: ああ。これは何の話かな?
ライナー: 正面にある寝室 —
対象者: いいか、そのくだらない話はしたくないんだ、分かったな?
ライナー: 理解できます。しかし私たちは何が起こっているのか把握する必要があるのです、ブレアさん。何故、正面の寝室は —
対象者: 知らない。知らないんだよ。あれはいつもあの部屋にあったんだ。でも誰も使わなかった。だから私は鍵をかけたままにしておいたんだ。あれについては考えないようにしている。
ライナー: 分かります、ブレアさん。最後に —
対象者: 終わりにしてくれないか?
ライナー: 最後にもう一つだけ聞かせてください。
対象者: 何だい。
ライナー: ブレアさん、貴方はずっと一人っ子だったのですか?
(対象者は回答を拒否する。)
[記録終了]
注記: 対象者は以後のインタビュー実施を拒否し続けている。
ブレアが住んでいた部屋の正面の寝室に、ビデオテープがあったとされているが、その寝室は誰が使っていたものだったのだろうか。そして、なぜブレアは一人っ子であるかの質問に対して、回答を拒否したのだろうか...?
補遺2571.2: 映像記録
日付: 2004/06/10
注記: 以下の記録は、ランドルフ・ブレアの所持品から発見されたミニビデオカセットの内容を転写したものである。“CRAGGLEWOOD”という語句がラベルに黒のフェルトペンで記されている。
[記録開始]
[00:01]: (重たげな呼吸。)
[00:05]: 森林区域に続く砂利道を映した、不安定な映像。
[00:10]: (遠くでカリオペの演奏が聞こえる。)
[00:21]: 視点が回転し、道を下っていく他の子供たちに焦点を合わせる。数名が手を繋いで歩いている。
[00:32]: 視点が砂利道を向く。
[00:36]: (静かな啜り泣き。)
[00:39]: 声1: (囁き) 怖いよ。
[00:41]: 声2: (囁き) シーっ。大丈夫だ。大丈夫。泣くんじゃない。笑わなきゃダメだ。笑わなきゃ。
[00:55]: (遠くで歌声が聞こえる。)
[00:58]: 声2: (囁き) 笑って。ほら、頼むからさ、笑いなよ、約束する、大丈夫だって。俺が面倒みてや-
[01:02]: 砂嵐。
[01:09]: ぼやけた映像。
[01:10]: (歌とカリオペ演奏の歪んだ音声。)
[01:15]: (低い、楽し気な笑い声。)
[01:20]: (歌声と音楽が強まる。)
[01:25]: 声2: (囁き) マジかよ。
[01:26]: 砂嵐。
[01:30]: およそ12人の子供たちが回転木馬の周りに立っている。
[01:32]: 声1: (囁き) 何があったの?
[01:35]: 声2: (囁き) シッ、ちょっと…
[01:39]: (歌声が強まる。)
[01:42]: 声2: (囁き) そんな。
[01:45]: 声1: (囁き) あいつら — あいつら何なの —
[01:48]: 声2: (囁き) よく聞け、お前は —
[01:52]: 視点が下がり、砂利が映る。
[01:58]: 声2: ゴメン。ゴメンな。お前は行くんだ。行かなきゃダメだ —
[02:01]: 声1: やだ! そんな —
[02:05]: (歌声が強まる。子供たちの啜り泣く声が聞こえる。)
[02:08]: 声2: 行け、お願いだ、ゴメンな、俺は平気だから、だから —
[02:12]: 砂嵐。
[02:20]: 視点は激しく揺れながら森の小道を走っている。
[02:21]: (重たげな呼吸。)
[02:22]: (遠くで歌声が聞こえる。)
[02:25]: 声1: (囁き) やだ、やだ、やだ、やだ —
[02:30]: 視点のバランスが崩れ、地面に倒れる。視界の中心には顔が映っている。
[02:35]: 声1: (啜り泣き) やだ、やだよ、嘘だよね、だよね —
[02:38]: 顔が見上げ、微笑む。
[02:41]: 声1: (啜り泣き) やだよ、やだよぉ —
[02:42]: (声2が 歌い始める。)
[記録終了]
SCP-437
映像記録の最後の「歌い始める」は、SCP-437へのリンクとなっている。
簡単に説明すると、SCP-437はペンシルベニア州キャンプ・レイクウッドに存在する計64本の木々で、こいつらは通常の樹木と違い表面に顔のような模様が浮き出ていて、更に木々の内部に思春期の子供の体が織り込まれている。しかも耳を近づけると子供たちの声がはっきり聞こえてくると言う。
しかし、本当にヤバいのは、この内部に織り込まれた子供たちの代わりにSCP-427 PoI(Person of Interest)が出現することである。つまり、織り込まれた子供たちと入れ替わっているということ。ちなみに現在SCP-427 PoIは全員逃走しており、詳細は不明である。
これは、SCP-437に関するウェイス博士からのメールである。
DATE: 2016/07/20
FROM: ウェイス博士 <tweiss@scp.fo>
TO: サイト管理官オーガスト <august@scp.fo>
SUBJECT: 最近の発見
X線と超音波による画像診断によって、各SCP-437-A実例の内部にヒト型の骨格構造と軟組織の存在が認められた。内臓は樹木そのものの中に“織り込まれて”いて、半機能的であるように思われる。重度の変形を被ってはいるが、骨の大半は13歳から16歳までの思春期の人間と一致している。
幾つかのケースでは、顎の変形が最小限だった — これによって、一部の実例は1991年以前の歯科記録を用いた特定に成功した。
君のPoIたちがキャンプ客だとは思えない、ジェレミア。奴らはSCP-437の一部として準指定するべきだろう。SCP-437-A実例群に関して言えば — 安楽死させる可能性を検討したい。
彼らは20年間ずっとそこにいたんだ。樹皮に耳を押し当てると、声が聞き取れる。
低くてくぐもってはいるが、はっきりと聞こえてくるはずだ。
[メール終わり]
実は、このメールの「キャンプ客」の部分もリンクとなっており、こちらはSCP-2571へのリンクとなっている。
メモ
現在、世界人口の0.05%がSCP-2571の影響を受けていると推定されており、更にSCP-2571の影響を受けている人は年々増加傾向にあるといわれている。
さて、SCP-2571には不可解な点がいくつかある。まず、SCP-2571は存在しないテーマパークに関する、多くの人に共通する記憶現象のはずだが、なぜその記憶現象と合致するビデオテープが存在するのか。そして、一人っ子が対象者のはずなのに、なぜ自分とは別の人物についての記憶が鮮明に残っているのか。
インタビューログ②では、ジャニンは自分を抱きしめた男の子について鮮明に記憶しており、映像記録では、ブレア以外の誰かがブレアを励ましている様子が確認されている。そして、インタビューログ③では、ブレアは一人っ子だったことについて質問されたとき、回答を拒否している。
つまり、
SCP-2571は、単なる記憶現象ではなく、実際に存在するテーマパークである。対象者は一人っ子ではなく、兄弟・姉妹で、そのうち一人が回転木馬に乗ってSCP-2571に取り込まれ、笑っている顔の樹となり、乗らずに逃げた人は取り込まれずに生還者となる。そして、生還者とその家族、及び関係者は何らかの強力な認識阻害、及び記憶改竄を受け、自分に兄弟・姉妹がいたことを忘れてしまい、SCP-2571は単なる悪夢であると片付けられてしまう。
という事が言えないだろうか。更に、SCP-437との関連性を踏まえると、もしかしたら生還した人物も、SCP-2571が生み出す生命体と入れ替わっているのかもしれない。
最後に
クラッグルウッド・パークは、単なる記憶の断片ではない。それは現実に存在する場所であり、恐怖と悲劇の象徴である。
現実のどこか、あるいは別次元の森には、木に変えられた子供たちが静かに微笑んでいるのかもしれない。