概要
SD40-2は1972年1月から1989年10月までに派生形式を含めて3982両がEMD社によって製造された貨物用電気式ディーゼル機関車である。
ディーゼル発電機には出力3000馬力のターボチャージャー付き16気筒645E3型エンジンを用いた。
誕生経緯
1965年に645型エンジンを開発したEMDは翌年からSD40を製造しており、それを基に更なる効率化とメンテナンス性の向上を目論んだ「Dash2」と呼ばれるコンセプトの一環で開発されたのがこの形式である。
つまりSD40と出力の差は無いがそれ以外の分野でアップグレードをした車両ということである。(当時のEMDは645型エンジン搭載車のSD45やGP40などでも同じことを行っていた。)
大量生産の理由
当時のアメリカではEMDからはSD45やSD45-2、他社ではゼネラル・エレクトリック社(GE)からはU36B、アメリカン・ロコモティブ社(アルコ:Alco)からはC636など、本形式よりも高出力な3600馬力のディーゼル機関車が同時期に製造されていたうえに、三者ともに低出力の3000馬力の6動軸ディーゼル機関車も製造していた。
しかしこれらの機関車はSD40やSD40-2と比較して信頼性が低く、加えてオイルショックの原油高から高燃費であることが災いし、3000馬力であることによって汎用性が高く、低燃費であり信頼性も高いSD40やSD40-2の方が大半の鉄道会社には好まれたため、結果的にアメリカにおけるディーゼル機関車の代表格として大量生産された。
それゆえ当時のアメリカのディーゼル機関車市場はEMDの一人勝ち状態であり、アメリカ全土を走行できるうえに運用上の欠点が少ない本形式は労使双方から好んで運用された。
しかし、後継として扱われたSD50(3500馬力だったが後に3600馬力に改良)はエンジンと電気システムの信頼性の低さに悩まされたため、EMDの一人勝ちは長くは続かずに今に至っている。
特別塗装
筆者の認知している範囲で述べるので、不足があるかも知れませんがその時は加筆をお願いします。
バーリントン・ノーザン鉄道(BN)
1876号
元々はBNにおける最初のSD40-2として6325号として1972年2月に製造、1975年にアメリカ建国200周年記念塗装を纏って1876号に改番された後、少なくとも1979年まで維持された後に原番復帰と通常塗装化がなされてこの塗装は消滅した。
現在ではBNSF鉄道においてライト位置の変更と塗装変更を経て活躍中。
8002号
1985年前後に踏切事故対策の警戒色の試験としてオレンジと黒のストライプを前面に塗った車両。1989年を最後に”white face”と呼ばれる別の警戒色に塗られて消滅した。
BNSF#8002号としてBNSFの塗装に変更されて活躍したのち、2010年以降の消息は不明。
ユニオン・パシフィック鉄道(UP)
1996号と1896号
アトランタオリンピックの聖火を運ぶ特別列車を牽引するため、それぞれこの車番に改番された上で塗装変更がなされた。
両者とも大会終了後に通常塗装に戻されるついでに改番がされた。
現在はUPが行ったリニューアル工事によりSD40Nという形式に変わり、それぞれ1838号と1684号に変更されて活躍中。
3300号
1990年前後にアメリカの慈善福祉団体United Wayを応援するために星条旗をモチーフに塗装が変更された。
2012年以降にSD40N化されると同時に通常塗装化、現在は上記の2両と同じくSD40N#1878として活躍中。
3593号
湾岸戦争に召集されたUPの社員を激励するため砂漠迷彩を施した塗装で、”Desert Victory”の愛称がつけられた。
1991年にこの塗装に変更され、1994年ごろには通常塗装化された。
現在はラピッドシティ・ピエール・アンド・イースタン鉄道(RCPE)の3422
号として活躍中。
ノーフォーク・ウェスタン鉄道(NW)
6175号
本来は黒一色塗装が基本であるところをアメリカのお偉い人たちを乗せるための特別列車牽引用にトスカーナレッドに塗装した車両。
現在はNSにて6175号として活躍中。
ノーフォーク・サザン鉄道(NS)
3329号
世界最大のコンテナ水運会社マースク・シーランドとの提携によって誕生した塗装。
2001年ごろにはこの塗装に変更され、2008年に事故により損傷を受けて復旧されて通常塗装化がされた。現在もNSにてこの番号のまま活躍中。
ちなみにレゴによって商品化がされたことがある。
カンザス・シティ・サザン鉄道(KCS)
642号
アメリカ建国200周年塗装を施され、1977年に当時のKCSの通常塗装であった白の単色に変更され消滅。
KCSがカナディアン・パシフィック鉄道(CP)と合併し、カナディアン・パシフィック カンザスシティ(CPKC)となった現在ではベルスキームと呼ばれる塗装となってKCS(CPKC)#3205として活躍中。
ちなみにこの記念塗装は現地の小学生がデザインしたようで、とても奇抜なカラーリングが施されていた。
ミルウォーキー鉄道(MILW)
156号
アメリカ建国200周年塗装を施され、イベントで展示された。
MILW買収後、メキシコに渡った後にアメリカに戻ってきたものの引退し、スクラップにされかけたもののディーゼルモーティブ社(BUGX)に買い取られ、オクラホマ鉄道博物館に保存された。前述の200周年塗装に塗り替えられる予定で、動態復元も計画されているようだ。詳細はここ
コンレール(CR)
6373号
1992年にペンシルベニア州アルトゥーナにて開催された自転車レースの記念を目的に塗装された車両である。
1995年には塗装が解除され、のちにCSXに引き継がれたものの現在では引退した模様。
リーディング・ブルーマウンテン&ノーザン鉄道(RBMN リーディング&ノーザンとも呼称)
1983号
2023年9月15日にRBMNが発足から40年を迎えるため、3062号を塗装変更と改番を施して登場した。
元々BNで活躍し、のちに機関車リース会社に売却された後に2013年頃にNSへと払い下げられ、2020年にRBMNに譲り受けられたものである。
現在
1972年から今に至るまで多くの車両が活躍を続けてきているが、古い機関車であることに加え、現在では低出力な3000馬力という出力では本線の長大貨物列車の牽引は非効率なため、引退して保存されたり、事故廃車や老朽廃車で解体された車両も数多く存在する。
しかしながら操車場での入れ替えや、リニューアル施し本線の比較的短い列車や支線の列車の牽引に使用されたり、海外や中小規模の鉄道(いわゆる2級鉄道や3級鉄道)に譲渡されて主力機関車として活躍している機体も多い。
これからも大きく活躍してくれることは間違いないであろう。
事故と映画
この形式において外せない話はやはりCSX8888号暴走事故であろう。
事故の詳細は、ここを参照願いたい。
事故を起こしたのは元コンレールの6410号ことCSX#8888号で、事故を起こした後も活躍し、今はリニューアルされてCSX SD40-3 4389号となった。
リニューアル前に保存しようという話が上がったのだが結局お蔵入りとなったという噂話がある。
また、この事故をモデルとしたノンフィクション映画がトニー・スコット監督の遺作であり名作のUnstoppableである。
この映画に登場するSD40-2はホイーリング・アンド・レイクエリー鉄道(W&LE)の6351~6354号である。
6351と6352は元々メキシコ国鉄向けに製造され、後にアメリカに出戻ってきた車両であり、劇中では主に7375と7346として、暴走列車が原因で脱線する機関車を演じた。
ちなみに脱線したシーンは廃車発生部品などを用いて作られた実物大の自走可能な偽物であり、Youtube上で脱線シーンのメイキング映像が投稿されている。
そして6353と6354は元々KCSが発注した車両で、劇中では1206として2台1役を演じている。
通常の機体と異なり、運転台横の窓と前面ナンバープレート下の窓、ヘッドライト、手ブレーキハンドル等が改造されており、撮影終了後6353は運転台横の窓以外は復元された、しかし6354はライトと手ブレーキハンドルを撤去された以外はそのままになっている。
今でもこの4台はW&LEで現役であるため、機会があれば見ることが出来る。(但し塗装は変更されているうえ、6351と6352は改番がされている。)
また、上記の4両以外にも、外部から運転台を撮影するための足場を設置できるように改造されたSD40-2が使用された。(なおこれは既に廃車済みのSD40-2を改造したとされているため、現在の消息は不明)
他形式との見分け方
他形式やと純正のSD40-2を見分けるポイントはあるが、雑多な形式から改造されて編入した車両や、本形式と非常に類似した姉妹形式も存在するうえ、本形式から他形式への改造編入車も存在するため一つの条件で確定することは難しい。
だが、1つの例として台車による違いがある。
SD40-2は当時最新のHT-C台車だが、本形式以前に登場した形式はフレキシコイル台車を採用しており、「台車に3つの穴が開いていればSD40-2、2つの穴が開いていれば他形式」となる確率は高くなるが、コンレールが発注したロットのみ他形式と同一のフレキシコイル台車である。これは当時アムトラックが本形式をベースにEMDに発注したSDP40Fが脱線事故を頻発させていた為であるとされている。(結局HT-C台車には欠陥が見つからなかったため杞憂に終わったが)
とはいえ台車以外にも見分けるポイントは多く、「屋根上ファンの数が3つ、もしくは5つ、「ラジエターの横幅が標準サイズ」、「ロングフード側面の冷却水の確認用小窓がある」、「ロングフード妻面の手ブレーキハンドルがない」、「ロングフード側デッキが広い」などがある。
これらの条件をすべて満たしている場合、9割9分ほどの確率でSD40-2として製造されたものである。
残りの一分はSD40-2として製造されたが、現在は他形式に編入されているか、純正なのにこの条件に当てはまらない個体である。
余談
本形式は運用が特殊だったり、改造に改造を重ねていたり、他形式からの改造編入だったり、リニューアル、謎に他の車両と形態が違う、輸出用の車両や長大トンネル対応車、事故復旧ついでに他の鉄道やリース会社に払い下げられる、塗装、とある理由で性能諸元や車体が異なる、燃料タンクの大きさなど、変な部分も多い。
例を挙げるなら、「電気機関車と協調運転」、「前照灯を増設したと思ったら早々に撤去される」、「ダイナミックブレーキを搭載せずに製造されたものの後に設置された」、「ある製造ロットだけ前照灯の仕様が異なる」、「リニューアルついでにキャブ周りを載せ換えられ現地のファンに不評なデザインになる」、「他形式から編入されたらデッキに変なスペースができて見た目が悪くなった個体」、「暴走して脱線事故を起こした後に払い下げられ、その鉄道唯一の純正SD40-2として活躍する」、「塗装変更が間に合わず、下塗りのみをした状態でリースをする」、「高速化対応車」、「線路の修繕費をケチるために燃料タンクを小さくして軽量化」などといった具合である。
SD40-2とその愉快な仲間達の今後も大いなる活躍や保存に期待したい。