概要
ロータリー式除雪用ディーゼル機関車にはDD13形を基本としたDD14形が実用化されていたが、本州の日本海側の湿った重い雪に対して使用するためには力不足だった。そのため、DD51形を基本に、1,100psのDML61Z-Rディーゼル機関を2基搭載し、より強力かつ高速に除雪を行うことができるように設計されたのがDD53形である。
走行装置などの機構は、ロータリーヘッドへの動力供給機能を求められたために専用品(DW2A-R)が新規設計された液体式変速機などを除けばDD51形とはほぼ同一であり、夏季はDD51形と共通運用で営業列車の牽引が可能である。
本体の車体構造は、DD51の時点では技術的制約からDD12よりの流れをくむ凸形にせざるをえなかったのと違い、本線用機にふさわしい箱型とされた。技術の進歩の他にロータリーヘッドとの動力軸の接続の都合もある。
しかし旅客・貨物は兼用が可能なDD51で十分だった点や除雪量の減少、さらに運用に難があったこと(後述するが簡単に言うと「強力すぎた」)に伴い製造数は3両にとどまり、現在は全車廃車済みである。
現在1号機が碓氷峠鉄道文化むらに静態保存されている。
もてあまされた怪力
問題は1号機の運用開始直後に露見した。国鉄の各駅や鉄道管理局などに沿線住民から苦情電話が殺到したのである。何の苦情かというと大半が「国鉄の除雪車が通ったら大量の雪が庭に飛び込んでメチャクチャ」。これまでDD14やそれ以前の蒸気機関駆動のロータリー式除雪車でもあるにはあったが、DD53によっておきた国鉄への苦情の数はそれまでの比ではなかった。要するに強力すぎたのである。
直ちに対策が採られ、1号機の雪捨て口には投射距離を抑えて線路脇に落とすためのフードが被せられ、2・3号機では抜本的に設計から手直しされ、1979年以降には1号機を除き、在来の除雪用の運転台を撤去し、投雪状況が監視しやすいロータリーヘッド後方に移設されている。しかしその後も沿線の住民宅の雨戸をぶち抜いたり、ガラス窓をサッシもろとも粉砕して居間に飛び込んだ雪がピアノを潰しただの、その怪力ぶりに多くの逸話が残されることになった。
その雪が人に当たるといった人的被害はなかったが、もしその威力があれば人間の骨なんぞ軽く粉砕するどころか顔に当たれば首もぶっ飛ぶぐらいである、もちろん直に当たれば間違いなく死ぬ。
結局3両で製造が打ち切られたのも無理はない。というのも、DD14は通常、2基あるエンジンのうち1基を除雪用、もう1基を走行用に使うのだが、ただでさえ非力なのに推進力が半減してしまっては除雪しながら走行できない。そのためDD20やDE10の補助を受けた(もっともそれはDD53も同じだが)のだが、やがて豪雪の日本海域の幹線は電化され、はるかに強力な電気機関車による推進が可能になったのである(これは雪が架線に貼り付いて集電不良を起こすのを防ぐため、低速で電気機関車が走ることで引っぺがす意味もある)。DD14は2基のエンジンともロータリーヘッド駆動にまわすことも出来るため、電気機関車の推進があればDD53のような怪力は不要になった。
ちなみにDD53も同じことが出来るようになっているが、その結果は不明。ぶっちゃけやってたら苦情どころではすまず訴訟沙汰になっていたと思われる。
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