MAC10
まっくてん
開発経緯
もともと警察向けのサブマシンガンを設計していたゴードン・イングラムは、特殊部隊向けの軽量・小型のサブマシンガンを設計したいと考えていた。そして1964年、イングラムはアキアゴ・アームズ・インダストリー(AAI)社で新型サブマシンガンの設計を開始した。その後、Sionics社で試作が行われ、最終的に1970年、ミリタリー・アーマメント・コーポレーション(MAC)社から供給が開始された。
正式名称『Model 10』、通称『MAC10』と呼ばれたこのサブマシンガンは、そのコンパクトさと優れた制圧火力から、軽量小型のフルオート火器を求めていたアメリカ軍特殊部隊に注目された。アメリカ軍はMAC10をテストし、軍用として十分な性能があるとして特殊部隊用サブマシンガンに選定した。
ベトナム戦争での活躍
1964年のトンキン湾事件を経て本格化したベトナム戦争において、南ベトナム人民解放戦線(ベトコン)の戦闘員たちは、サイレンサを取りつけた軽量小型のサブマシンガンを用いて多大な戦果を挙げた。このことにショックを受けたアメリカ軍上層部は、軍特殊部隊にも同様の消音サブマシンガンを装備させ、彼らに対抗させようとした。
当初、この種の任務に用いられていたのはスウェーデン製カールグスタフm/45であったが、ベトナム戦争に反対の立場をとるスウェーデン政府が供給を停止したこと、また連射速度に不満を持つ特殊部隊員が多かったことから、これに代わるサブマシンガンが必要になった。このとき、にわかに注目を浴びたのがMAC10であった。
かくしてベトナム戦争に投入されたMAC10は、優秀な性能を示して兵士たちの期待に応えた。近接戦闘での制圧能力に優れ、また単純な構造ゆえに耐久性の高いMAC10は、高温多湿という銃器にとって過酷なベトナムの環境下であっても快調に作動し、多くの兵士たちの信頼を勝ち取ったのである。同時期に投入されたM16が(兵士達側のメンテナンスフリーや火薬が原因とは言え)作動不良を続発させ、兵士たちに忌み嫌われたのとは対照的であった。
しかし、MAC10は扱いにくい銃でもあった。毎分1000発のフルオート・バーストと軽量な銃体という組み合わせは制御の困難さを招き、また2マガジンを撃ちつくした頃には、銃身はおろかトリガーまでが焼けてしまい、素手で撃つことは不可能に近かった。このため、MAC10はあくまで銃器の扱いに慣れた特殊部隊のみに支給された。
第一線からの引退
ベトナム戦争終結から2年後の1977年、ルフトハンザ航空181便がパレスチナ人テロリスト4人にハイジャックされ、ソマリアのモガディシュ空港に強制着陸させられた。大勢のドイツ人乗客の生命を救い、テロリストを一網打尽にするべく、ドイツ政府は国境警備隊隷下の対テロ特殊部隊GSG-9に出動命令を下した。
見事に彼らは期待に応え、テロリストを全員制圧し、乗客を救い出すことに成功した。このとき、GSG-9隊員たちが携えていたのが、ドイツ・H&K社が開発した新型サブマシンガン、MP5であった。セミオート射撃の命中精度に優れた本銃を用いて、GSG-9隊員たちは的確にテロリストのみを狙撃し、無力化していったのである。
この事件は世界各国の警察関係者に強烈な印象を与え、間もなくMP5は各国の警察特殊部隊のスタンダード・ウェポンとして普及していく。このとき、戦後サブマシンガンの進むべき方向性ははっきりと指し示されたのである。
しかし、これは同時にMAC10の退役を意味していた。オープンボルト、シンプル・ブローバックと、旧来のサブマシンガンの設計を踏襲した構造を持つMAC10は、新しい時代に適応できない存在であった。時代の流れは、サブマシンガンに制圧能力よりも命中精度を要求していたのである。
こうして、MAC10は徐々に第一線から姿を消していった。
しかし、それでも一部の特殊部隊は、頑固にMAC10を使い続けた。複雑な機構を持ち、頻繁にメンテナンスをしなければならないMP5と違い、単純明快な構造のMAC10は、多少クリーニングしなくても快調に作動したからである。最終的に、1991年の湾岸戦争まで、MAC10は米軍制式銃の一員として戦い続けたのであった。
現在、MAC10は米軍では使用されていないようであるが、複数の国の軍・警察の特殊部隊で運用され、多くの成果を挙げている。
MAC10の最大の特徴は、やはりそのフルオート射撃の速度であろう。毎分1000発という数値は、当時のサブマシンガンの中でもかなり高い部類に属している。これは、ボルトの後退量が少ないことと、強力なリコイル・スプリングを使用していることに起因する。
よくある批判として、「フルオート時の命中精度が低い」というものがあるが、これは的外れというべきであろう。本銃はもともと、接近戦闘での使用を前提に開発されたのであり、その想定交戦距離の中でなら、MAC10は必要十分の命中精度を有していたのである。
また、安価に大量生産できるように、プレス加工したシートメタルを多用して主要パーツの大半が製造されていたことも大きな特徴である。こうした生産性向上のための工夫は随所に凝らされており、ショルダー・ストックもワイアを簡単に加工しただけのシンプルなものである。
作動方式はオープンボルト、シンプル・ブローバックと、単純で手堅い機構を採用し、高い信頼性を誇る。ただし、ボルトの後退量が少ないことから、使う弾種によっては回転不良を起こすこともままあったようである。
銃身後端がボルトに深く食い込んだ、いわゆるL字型ボルトを採用しており、全長を短く設計できた。また、コッキング・ハンドルはレシーバー上部に設定されており、グリップ内部にマガジン・ハウジング(弾倉装着部)を持つ。これはイスラエルのUZIと同じ形式である。
なお、UZIと違いボルトに直結されているため、ボルトの動きにあわせてハンドルは作動する。
本銃の外見的な特徴としては他に、最初から銃口部にサイレンサ装着用のネジ溝が切ってある点が挙げられる。
MAC10用のサイレンサーはアトランタのソニック社が生産・供給し、これは消音用途のほかに、マズル・ウェイトの用途も兼ねた長大な代物であった。
サイレンサーに遮熱用のカバーを被せ、サイレンサーそのものを掴んで銃を安定させるという撃ち方も生まれていた。
現在、MAC10を製造していたMAC社は倒産してしまい、一時は生産停止に追い込まれたこともあったが、現在ではバルカン・アーマメント社およびマスターピースアームズ社で生産・供給されている(ただしセミオートモデルのみ)。
しかし、未だ多くの個体が世界中に存在しており、またその少なからぬ数がアンダーグラウンドに流れ、犯罪者の手に渡って凶悪犯罪に用いられている。生産性向上のための構造故に密造銃が作りやすく、コピー品も作られている。近年では日本国内で摘発された例もあり、その出自からして、本銃は後ろ暗い社会と縁が切れないようである。
現在では比較的銃規制に寛容なアメリカでも規制の強化に伴い入手が困難になったことでギャング間では使われなくなり、代わりに拳銃として販売されているAR-15ピストルとAK-47ピストルが使われることが多い。
アンダーグラウンドな雰囲気に惹かれる人が居るのか根強く人気があり、様々なカスタムパーツの販売もされている。
レール付のバレルジャケット、AR15用のストックチューブを装着可能にするロアフレーム、のようなものから、5.56mm弾を使用に可能にするアッパーアセンブリのようなものまで販売されている。