概要
カイパーベルト天体とはカイパーベルトに存在する天体の総称である。エッジワース・カイパーベルト天体とも言う。領域や天体群としてのカイパーベルトや元々カイパーベルト天体だった天体については「カイパーベルト」を参照。
海王星の軌道の外側を円盤状に囲む様に存在しており、(狭義のカイパーベルト天体は彗星や分離天体などに比べ)軌道は円に近く、黄道面からの傾斜角が比較的小さい。
よく似た用語に太陽系外縁天体(海王星以遠天体)があるが、これは狭義のカイパーベルト天体に加え散乱円盤天体(エリスなど)や分離天体(代表的なものにセドナがある)、オールトの雲(非周期・長周期彗星の軌道から存在が予測されているが未発見)などのより遠方の天体も含む呼称である。なお、散乱円盤天体をカイパーベルト天体に含む場合もある。また、太陽系外縁天体とカイパーベルト天体を同じ意味の単語として使う場合もある。(日本学術会議など)
初めて見つかったカイパーベルト天体は冥王星で、1930年2月18日の事だが、当時は(2006年まで)惑星とみなされた。62年間のブランクの後、1992年8月30日にアルビオンが、冥王星とその衛星以外のカイパーベルト天体として初めて発見された。これ自体は直径百数十㎞程度の小天体だったが、それ以降周囲に似たような天体が次々と発見され、観測が進むと共に、当時最大の小惑星クワオアーや冥王星より大きいと考えられたエリスなど、比較的大きな天体も数多く発見された。
こうした状況を踏まえ、2006年8月24日に国際天文学連合によって冥王星は惑星から準惑星に再分類され、「カイパーベルト天体に属する準惑星」となった。この様な海王星軌道の外側に存在する(太陽系外縁天体に属する)準惑星を冥王星型天体と呼ぶが、2022年時点で正式に準惑星とされている天体は小惑星帯に存在するケレスを除き、全て冥王星型天体である。
長い間、詳しい事は分かっていなかったが、NASAの探査機ニュー・ホライズンズが初めて冥王星(及びその衛星)とアロコスの探査を行い、地形などの詳しい様子が明らかになった。しかしながら、表面の様子が分かる程の距離から探査されたのは、現時点ではその二つのみであり、これに続く探査計画も構想の域を出ておらず、未だ謎が多い天体である。
主なカイパーベルト天体と族
主な天体
準惑星、及び個人的に特徴的な天体だと思ったものをピックアップして、発見日順に並べました。初観測の日と実際に確認された日、それぞれが発見日とされる天体もありますが、ここでは日付の早い方を発見日としています。
★付の天体は2022年時点で正式に認定されている準惑星です。
※以下の表にソース元として貼り付けている外部記事には英文のものもあるので、各自でGoogle翻訳を使うなどして読んで下さい。
- 狭義のカイパーベルト天体
天体名 | 小惑星番号 | 仮符号 | 発見日 | 概要 |
---|---|---|---|---|
★冥王星 | 134340 | ― | 1930年2月18日 | 元太陽系第九惑星。カイパーベルト天体の中では圧倒的な知名度と人気を誇る。詳しくは当該記事へ。 |
アルビオン | 15760 | 1992 QB1 | 1992年8月30日 | 冥王星以降初めて発見されたカイパーベルト天体。2018年に正式名称が付けられるまで、長い間仮符号で呼ばれていた。この天体が属するキュビワノ族の名称は、自身の仮符号が由来である。 |
アラウン | 15810 | 1994 JR1 | 1994年5月12日 | 常に冥王星に比較的近い位置にあり、冥王星から見て、周囲を公転しているように見える天体(準衛星)とされていたが、2015年と2016年にニュー・ホライズンズが遠方から観測した結果、これを否定する結果が得られた。5.4時間という比較的速い周期で自転している。 |
レンポ | 47171 | 1999 TC36 | 1999年10月1日 | 珍しい三重小惑星で、ヒーシとパハという近い大きさの小惑星と公転し合いながら太陽の周りを公転している。ニュー・ホライズンズ2号の打ち上げが検討された際、探査目標の候補とされた。 |
ヴァルナ | 20000 | 2000 WR106 | 2000年11月28日 | 準惑星候補。発見当時はケレス(当時最大の小惑星だった)と同等かそれ以上に大きいとされ話題になった。3.17時間又は6.34時間の周期で自転しており楕円体に引き伸ばされているとみられる。2013年1月9日、日本でふたご座にある恒星3UCAC 233-089504を隠す現象が観測された。国内で外縁天体の恒星食を観測できたのは初めて。 |
クワオアー | 500000 | 2002 LM60 | 2002年6月4日 | 準惑星候補。平均密度が4.2g/㎤と非常に高い(これは火星より高いが諸説ある)ため、他の外縁天体と異なり氷を殆ど含んでいないと考えられる。2016年にニュー・ホライズンズが21億kmの距離から観測を行った。 |
★ハウメア | 136108 | 2003 EL61 | 2003年3月7日 | 輪っかを持つ、ラグビーボール型の準惑星。詳しくは当該記事へ。 |
オルクス | 90482 | 2004 DW | 2004年2月17日 | 準惑星候補。冥王星と似た軌道の天体だが、近日点と遠日点の位置が逆であり、冥王星と同じく大きな衛星(ヴァンス)を持つ為、冥王星との対比からアンチ・プルートとの異名を持つ。 |
★マケマケ | 136472 | 2005 FY9 | 2005年3月31日 | エリスや冥王星に次ぐ大きさの準惑星。カイパーベルト天体としては冥王星に次いで明るい。詳しくは当該記事へ。 |
アロコス | 486958 | 2014 MU69 | 2014年6月26日 | 愛称のウルティマ・トゥーレの名でも有名。2019年の元日に探査が行われた。詳細については後述。 |
カイパーベルト天体に含んだり含まなかったりする天体
※文献によっては、別の分類になっている場合もあります。
- 散乱円盤天体
狭義のカイパーベルト天体より更に極端な楕円軌道の天体。海王星によって軌道を散乱させられたと考えられている。遠日点付近ではカイパーベルトの領域から大きく外れる為、カイパーベルト天体には含まない事がある。
天体名 | 小惑星番号 | 仮符号 | 発見日 | 概要 |
---|---|---|---|---|
★エリス | 136199 | 2003 UB313 | 2003年10月21日 | 冥王星とほぼ同じ大きさの準惑星。冥王星の"惑星"としての地位にトドメを刺した張本人。詳しくは当該記事へ。 |
共工(和名未詳) | 225088 | 2007 OR10 | 2007年7月17日 | 直径は1535㎞と推測され、正式な準惑星とは認められていない天体としては最も大きい。2018年に正式名称が付けられるまでは最大の名無し天体でもあった。表面は有機化合物の霜で覆われ、かなり赤い色をしている。 |
ファーファーアウト(愛称) | (不明) | 2018 AG37 | 2018年1月15日 | 現時点で、観測された中で、(発見時点の距離が)最も遠く(132AU≒198億㎞)にある太陽系天体。それまで最遠の天体とされていたファーアウト(2018 VG18)より更に遠い事からこの愛称が付いた。(どちらも正式名称は未定)直径は400㎞程度と推測されており、準惑星候補とする事もある。 |
- 分離天体
散乱円盤天体より更に極端な楕円軌道の天体。軌道のほとんど、あるいは全てがカイパーベルトの領域の外にあるため、カイパーベルト天体に含める事はほとんどない。近日点でさえもあまりに遠く、太陽系の本体から"分離している"様に見えるためこう呼ばれる。内オールトの雲とも呼ばれる。
天体名 | 小惑星番号 | 仮符号 | 発見日 | 概要 |
---|---|---|---|---|
セドナ | 90377 | 2003 VB12 | 2003年11月14日 | 準惑星候補。分離天体としては最大。赤い色をしている。 |
バフィー(愛称) | (不明) | 2004 XR190 | 2004年12月11日 | 準惑星候補。軌道は比較的真円に近いものの、傾きが極端で垂直に近い特異な軌道をもつ。軌道離心率(軌道の歪み具合)が0.2以下の天体の中で最も太陽から遠い。散乱円盤天体とする事もある。 |
Leleākūhonua(和名未詳) | 541132 | 2015 TG387 | 2015年10月13日 | 愛称のゴブリンの名でも有名。軌道が分離天体の中でも極端で、それが後述するプラネットナインの影響によるものと考えられ、一時話題になった。直径は現在220㎞程度と推測されるが、準惑星として扱われる事もある。 |
- ケンタウルス族
木星~海王星間の軌道を公転する小惑星。元はカイパーベルト天体だったが、何らかの影響により、海王星軌道の内側に入り込んできたと考えられる。普通はカイパーベルト天体に含まないが、資料によっては稀に含む場合もある。彗星としての特徴も持つため、彗星番号も持つ天体もある。
天体名 | 小惑星番号 | 仮符号 | 発見日 | 概要 |
---|---|---|---|---|
キロン | 2060 | 1977 UB | 1977年10月18日 | ケンタウルス族の天体としては初めて発見された。彗星番号は95P。環がある可能性が指摘されている。 |
なし | 523731 | 1995 SN55 | 1995年9月20日 | 発見から36日間、14回観測が行われた後に見失われた哀れな天体。2010年10月8日に2014 OK394として再発見され、2018年9月25日に小惑星番号が与えられた。後述するカリクローより大きいとされる事もある。 |
カリクロー | 10199 | 1997 CU26 | 1997年2月15日 | ケンタウルス族の天体としては最大。(諸説あり)環の存在が確認されている。 |
- 番外編(以下はカイパーベルト天体に含む事は無いが、太陽系の外側の領域に存在する天体ではある。)
天体名 | 仮符号 | 発見日 | 概要 |
---|---|---|---|
オウムアムア | 1I/2017 U1(A/2017 U1とも) | 2017年10月19日 | 太陽系外からやって来た天体の初の発見例。細長い形をしている。因みに、『いらすとや』にイラストがある。 |
プラネット・ナイン | ― | ― | 分離天体の軌道の偏りから、存在が予測されている地球の数倍の質量がある仮説上の惑星。存在の可能性は高いとされるが、現時点では直接的な証拠がある訳ではなく、存在を否定する意見も多い。 |
主な族
似たような軌道を持つ天体は、それらをまとめて「○○族」と呼ぶ。なお、先述したケンタウルス族は、こことは別の分類である。
キュビワノ族
知られているカイパーベルト天体のうちおよそ3分の2を占める、海王星の重力的な影響をほとんど受けていない天体。軌道も円に近く傾きも小さいものが多い。古典的カイパーベルト天体とも呼ばれている。先述した通りアルビオンの仮符号が名前の由来となっている。
アルビオン、ヴァルナ、クワオアー、ハウメア、マケマケ、アロコスなど。
冥王星族
冥王星と似たような軌道を持つ天体で、知られているカイパーベルト天体のうちおよそ5分の1を占める。海王星と2:3の共鳴関係にあり、公転周期が約2分の3倍(243~253年)となる。
冥王星、アラウン、レンポ、オルクスなど。
トゥーティノ族
海王星と1:2の共鳴関係にある天体。その為、海王星の2倍の周期で公転している。名前は冥王星族(Plutino)と2 (two) を合成した造語である。
ハウメア族
ハウメアと同じ様な軌道の天体で、ハウメアの天体衝突によって生まれたと考えられる。(このような族を衝突族と言う)
詳細は準惑星ハウメアの記事へ。
アロコス(ウルティマ・トゥーレ)の詳細
アロコスは、ニュー・ホライズンズの冥王星探査後の目標天体の捜索の為、ハッブル宇宙望遠鏡を用いて観測を行った天文学者Marc Buie氏によって2014年6月26日に発見された。
公転周期は298年。軌道は傾きや歪みが少なく、キュビワノ族に分類された。大きさは数十㎞程度しかなく、世界最高精度を誇るハッブル宇宙望遠鏡でも辛うじてその姿を捉えることが出来る程度でしかない。なお、背後の恒星を隠す現象(掩蔽)の数回に渡る観測により、探査前からある程度の形状は推測出来ていたらしい。
2022年現在アロコスは、冥王星とその衛星以外のカイパーベルト天体としては唯一、近距離からの直接観測が行われた天体であり、人類の探査機が訪れた最遠の天体である。
ニュー・ホライズンズの探査により明らかになった特徴
形は大小二つの塊がくっついた形をしており、小さい塊が直径14㎞、大きい塊が19㎞、長径31㎞ある。元々それぞれの塊は別の天体で、お互いに公転し合っていたものが合体したものだと考えられている。なお、これらの塊は球状ではなく、潰れた形をしている。大きい塊は特に潰れており、パンケーキのような形をしている。
小さい方の塊にある窪みが目に見えることによって、雪だるまに見えると各ニュースサイトでも紹介された。
色は赤っぽく、これは有機物が含まれている為と考えられている。また、二つの塊を繋ぐ首のような部分は他の場合に比べてかなり明るい色をしていが、これはこの天体の重心が「首」付近にあるため、小さな粒子がここに転がってきたり、アンモニア蒸気がこの場所に溜まり、逃れられないまま凍った、などとする仮説があるが詳しいことは分かっていない。
名前について
発見当初は2014 MU69の仮符号しか無かった(非公式に『1110113Y』や『Potential Target 1』とも呼ばれていた)が、正式名称が承認されるまでの間に用いる愛称を、NASAが民間公募した結果、ラテン語で世界の最果てを意味する『ウルティマ・トゥーレ(アルティマ・スーリー)』(Ultima Thule)が選ばれ、2018年3月13日に決定した。
その後、2019年11月8日に国際天文学連合は正式名称を、北米先住民ポウハタン族の言葉で空を意味するアロコス(Arrokoth)に決定したと発表した。
また、地形についても名付けられたものがあり、先述した「目」の部分は、英語の"Sky"、「首」の部分はベンガル語の"Akasa"、大きい塊にある弧状の領域は(ユカタン半島の)マヤ語の"Ka'an"と名付けられた。これらも全て「空」を意味する単語である。
天体名の元ネタについて
カイパーベルト天体を含む外縁天体の名前は、その多くが世界各地の創世神話に関係するものから名付けられている。衛星についても、母天体にちなむ名前が付けられるので必然的に衛星もその法則に当てはまる。
以下に先ほど紹介した天体の名前の由来について説明する。愛称や仮符号しか持たない天体や、外縁天体の括りにすら入れられることが少ないケンタウルス族天体、番外編として紹介した天体はここでは割愛する。
※説明はwikiからなので多少間違っている場合があります。
冥王星(Pluto)
エリス(Eris)
ハウメア(Haumea)
マケマケ(Makemake)
それぞれ個別記事参照。
アロコス(Arrokoth)
本記事内の「アロコス(ウルティマ・トゥーレ)の詳細」の項目を参照。
アルビオン(Albion)
直接には英国詩人・芸術家のウィリアム・ブレイクが遺した神話に登場する原初の人間の名前だが、それもギリシア神話のポセイドンの息子あるいは英国の古い名前に由来している。
アラウン(Arawn)
ケルト神話の異世界アンヌン(アンヌヴン)の王。
レンポ(Lempo)
フィンランドの「カレワラ」という叙事詩に登場する魔物。衛星のヒーシ(Hiisi)とパハ(Paha)はその相棒の名前。
ヴァルナ(varuna)
古代インドの神で、最高神の一柱。
クワオアー(Quaoar)
北米先住民のトングヴァ族の創世神。衛星のウェイウォット(Weywot)は彼の最初の息子の天空神。
オルクス(Orcus)
エトルリア神話及びローマ神話の死神。プルートと同一視される事もあり、天体の概要の所で先述した理由から名付けられた。衛星のヴァンス(Vanth)は死者の魂を冥界へと導く死神の名前。
セドナ(Sedna)
イヌイットに伝わる、北極海に住むとされる女神。軌道の特性から特に寒いと考えられる事からこう名付けられた。
共工(Gonggong)
中国神話に登場する、人の頭を持つ蛇で洪水を起こすとされる水神。衛星の相柳(Xiang-liu)はその家来の怪物から名付けられた。こちらは人間の頭を九つも持つとされる。
Leleākūhonua
ハワイ創造の聖歌「クムリポ」で言及されている生命体レレアクホヌアから。
関連イラスト
pixivにおいて投稿されている関連イラストは、ほとんどが擬人化作品である。
関連タグ
マケマケ(準惑星) 準惑星 小惑星 彗星 ニュー・ホライズンズ
すばる望遠鏡...こうした天体の発見や、新事実の解明には日本のすばる望遠鏡も大きく貢献している。
KBO...カイパーベルト天体(Kuiper Belt Object)の略称だが、タグとしてはほぼ「韓国野球委員会」(Korean Baseball Organization)の意味で使われている。
えくぼ/エクボ...エッジワース・カイパーベルト天体の頭文字(Edgeworth-Kuiper Belt Object→EKBO)を、そのまま日本語風に読んだもの。略称として使う研究者もいる。