概要
ニュー・ホライズンズは人類初の冥王星の探査を目的として2006年にアメリカのケネディ宇宙センターより打ち上げられた。本機はボイジャー1号などと同じく太陽の光が微弱な冥王星を探査するため原子力電池(出力240W)を搭載している。
また465kgと非常に軽量にできているため打ち上げ時の対地速度は16km/sと探査機の中では最速で、月軌道まで9時間、木星まで13ヶ月と、それぞれ人類史上最短で到達し、冥王星までわずか9年半しか掛からなかった。(参考としてボイジャー2号は海王星まで12年掛かった。)
ボイジャー以来およそ30年ぶりの太陽系を脱出する軌道の探査機で、冥王星探査は近くを通り過ぎる一瞬の間に行われた。減速用の燃料は積んでおらず、そもそも現代の技術では難しいため、周回軌道に乗ったり着陸したりはせず、探査後はそのままボイジャーやパイオニアと共に太陽系外へと向かっている。
なお、スイングバイによる加速を木星でしか行っていない本機に対し、土星などでも加速したボイジャー1号・2号の方が現在の速度では上回っており、ボイジャー両機には決して追い付くことはない。しかし、パイオニア10号・11号よりは速いため、100年以上先の話ではあるが追い越すとみられる。
探査機には観測機器の他に、星条旗などの記念品や、冥王星を発見したクライド・トンボー氏の遺灰が搭載されている。ちなみに、本機には初代プレイステーションと同形式のCPUが搭載されている。
本機の前身となる案は何度か計画されており、直前の計画である「Pluto-Kuiper Express」は、2004年打ち上げ、2012年冥王星到着を目指していたが、予算が膨大になり計画が凍結。
しかしながら、2020年ごろまでに探査を行わないと冥王星大気の観測が23世紀まで出来ないこと、その為に必要な木星での加速を行うには2002〜2006年に打ち上げる必要があるといった理由もあり、この決定に対する強い反対運動の結果、事実上その計画が復活するような形で新たに「New Horizons」の名で正式にNASAの探査計画として採択された。
ちなみに、本機は史上初めて打ち上げられた、準惑星探査機でもある。しかし打ち上げ当時、冥王星はまだ惑星であり、史上初めて準惑星を訪れた探査機としては、本機の1年8ヶ月後に打ち上げられた探査機ドーンのケレス到着に4ヶ月ほど先を越されてしまっている。
探査の進行状況
※これ以降、ソース元として英語の記事も貼っているので、各自でGoogle翻訳等を使って読んで下さい。
・2006年1月19日 打ち上げ
・2006年6月13日 小惑星2002 JF56に接近 撮影 (後にAPLと正式に命名)
・2006年9月21日 28AU(42億km)の距離から冥王星を初めて撮影
・2007年2月28日 木星に接近 探査 スイングバイ
・2008年6月8日 土星の軌道を踏破
・2010年3月8日 小惑星クラントルに接近※
・2011年3月18日 天王星軌道を通過 これはボイジャー2号以来25年振り、史上5機目の事であった。
・2011年12月2日 冥王星までの距離が10.58AU(15億8000万km)になり、それまでボイジャー1号が持っていた「史上最も冥王星に近づいた探査機」の記録を塗り替えた。
・2013年7月1日 5.88AU(8億8000万km)離れた距離から、冥王星とカロンを別々の天体として捉えた写真を初めて撮影
・2014年8月25日 海王星軌道を通過 この日は偶然にもボイジャー2号がちょうど25年前に海王星に最接近した日だった。
・2015年1月15日 惑星間航行を終了 冥王星観測を開始
・2015年7月14日 冥王星及び衛星のカロンに最接近して撮影
・2016年1月 接近後の探査終了
・2017年12月5日 願いの井戸星団(NGC 3532)や、小惑星2012 HZ84、2012 HE85を撮影。ボイジャー1号の「太陽系家族写真」が持っていた、「地球から最も遠い位置で撮影された写真」の記録をおよそ28年振りに更新。
・2019年1月1日 小惑星2014 MU69(愛称:ウルティマ・トゥーレ)に接近 探査 (後にアロコスと正式に命名)
・2020年4月 太陽系近くの恒星を撮影し、地球との視差の測定が行われた。
・2021年1月 黄道光の影響を受けない太陽系外縁部に到達していることを利用し、ハッブル宇宙望遠鏡ですら観測出来ない微弱な「宇宙可視光背景放射」を観測。宇宙の銀河の総数が予想より少ないことが明らかになった。
・2021年4月18日 太陽からの距離が50天文単位に到達
・ 2022年10月 カイパーベルト拡張ミッションの第二弾(2nd Kuiper Belt Extended Mission = KEM2)へ移行。
・2023年春頃 新たな探査候補が発見されず、また当初考えられていたカイパーベルトの領域を既に通り過ぎているなどの理由から、NASAは一時探査ミッションの打ち切りを予告した。
・2023年9月29日 打ち切りの予告を撤回し、ミッションの期限を2020年代末まで延長すると発表。
・2024年10月1日 太陽からの距離が60天文単位に到達
※クラントル(2002 GO9)に接近して探査を行った件について、Wikipediaやその他インターネット百科事典、及び幾つかの個人ブログにも書かれていますが、それらに出典が示されていません。個人的に調べた範囲では、このサイト及びこのサイトに、2009〜10年にケンタウルス族2002 GO9への遠隔(~2.8 AU)フライバイを実施する可能性についての記述がある。
幻のニュー・ホライズンズ2号
本機に搭載される原子力電池の容量が足りない為に、冥王星探査後に予定されたカイパーベルト天体の探査が行えない可能性が浮上した。その為、バックアップ機としてニュー・ホライズンズ2号を打ち上げるべきだとする主張が計画主任のアラン・スターン氏よりなされた。
計画としては木星と天王星をスイングバイし、三重小惑星として知られるレンポ(1999 TC36)を目指す(他に準惑星候補天体の2002 UX25を目指す案もあった)というもので、計画通りに行うには2009年中頃までに打ち上げる必要があったが、原子力電池の問題が解決した為、結局打ち上げられる事はなかった。
ニュー・ホライズンズ以外の冥王星探査計画
ボイジャーの冥王星探査計画
実は、ボイジャー1号も当初は冥王星も探査する計画があった。実現していれば1986年春頃に最接近し、現実より30年近く前に冥王星とその衛星の詳細な様子が明らかになるはずだった。
そうなれば、科学界のみならず、冥王星が登場するアニメなど当時の作品にも多少なりとも影響したかもしれない。また、当時冥王星は衛星カロンによる食の時期であった為、その様子を観測出来た可能性もある。(軌道の傾きにより、次に冥王星で食が起きるのは22世紀初頭頃)
しかし、ボイジャー1号は土星の衛星タイタンに接近する為に軌道を大きく変えたことで、冥王星へと向かうルートから外れ、この冥王星探査は幻となった。
これは、衛星カロンの発見により当時は火星より一回り小さい程度とされていた冥王星が月よりも小さい天体だと明らかになった一方で、タイタンに濃い大気があることが分かっており、得られる情報が少ない(と当時は予想された)冥王星に失敗するリスクを負ってまで行くよりも、興味深い特徴のあるタイタンへの探査が優先された為である。
なお、前述した通りボイジャー1号は、本機以前で最も冥王星に近づいた人工物の記録を持っていた。なお、それは太陽から土星までの距離より遠い。
将来の探査計画
冥王星が予想よりずっと興味深い特徴を持った天体であり、また近くを通り過ぎる一瞬かつ一度きりの探査のみのため未だ多くの謎を残した事もあって、科学者の間でもう一度探査機を送ろうとする動きがある。
しかしながら、2024年現在に於いても新規の冥王星探査は正式なプロジェクトどころか次期探査計画の候補にすらなっておらず、恐らく実現する可能性は少なくとも近い将来では極めて低い。(以下に紹介した計画では、2020年代末〜2030年代頃に打ち上げの予定だがほぼ実現しないと思われる)
関連イラスト
関連動画
表記ゆれ
関連項目
すばる望遠鏡…本機は日本のすばる望遠鏡と打ち上げ前から協力関係にあり、次の探査候補天体の捜索や太陽系外縁部について共同研究を行っている。
関連項目?
あつまれどうぶつの森…英語版タイトルが「Animal Crossing: New Horizons」の為、「New Horizons」と英語で検索すると、あつ森関連サイトや実況動画などが結構出て来る。SNSだとより顕著。
NEWHORIZON…東京書籍発行の中学英語の教科書。こちらは"ズ"を付けない。なお、本機をズ抜きで呼ぶことは科学雑誌や科学系ニュースなどでも多々ある。
関連外部リンク
- ニュー・ホライズンズのNASA公式Twitter : @NASANewHorizons
※かつては、このアカウントとは別に本計画主任のアラン・スターン氏が運用するアカウント(@NewHorizons2015)があったが、何者かに乗っ取られ、2022年11月末現在凍結状態にある。
パイオニア10号・11号、ボイジャー1号・2号、ニュー・ホライズンズの速度や現在地などの一覧表。