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WECの編集履歴

2023-07-29 02:53:15 バージョン

WEC

うぇっく

WECとは、ACO(フランス西部自動車クラブ)が主催するFIA(国際自動車連盟)公認の耐久レースである。正式名称はFIA World Endurance Championship(ワールド・エンデュランス・ワールドチャンピオンシップ)。

概要

自動車レースのなかでも、6時間以上の長時間にわたってサーキットを周回する耐久レースを複数戦行って優勝を決めるというもの。レース専用に設計されたプロトタイプカーと、市販スーパーカーを改造したGTカーという異なる規格のマシンが混走し、ドライバーも複数人が交代しながら行うのが特徴である。そのためドライバーよりもチームの戦いという色が強い。


またマシンの規格に合わせてクラスが分かれており、「クラス優勝」という概念が存在するのも大きな特徴である。中にはプライベーターやアマチュアドライバー向けと公言されるクラスも設定されており、門戸は非常に広く開かれている(後述)。

タイヤはミシュランまたはグッドイヤーの独占供給で、どちらのメーカーのタイヤを使うかはカテゴリーによって異なる。また、レースで使用できるタイヤの本数がカテゴリーやレース時間ごとに違ったり、予選で使用したタイヤを必ず決勝スタート時に使用しなければならなかったりするなど、WEC特有のルールも多い。


歴史

WECの前身にあたる選手権こそあれど、意外にもWECそのものの歴史は浅く、初開催は2012年。この初開催からWECカテゴリーへの参戦・撤退はひっきりなしに繰り返されてきた。2012年からずっと参戦を続けているチームといえば、TOYOTA GAZOO Racingやシグナテック、AFコルセ(フェラーリ)くらいである。

全盛期には出力においてF1カーを上回るマシンが登場して話題を集めたり、トップカテゴリーにトヨタアウディポルシェという名だたる3社が参戦して鎬を削っていた。しかし、マシン開発コストの高騰やフォルクスワーゲンによる「ディーゼルゲート」と称されるアメリカ合衆国の自動車排ガス規制(マスキー法)に対して同社が行った一連の不正行為に起因するヨーロッパ圏でのEVシフトによりアウディおよびポルシェが撤退。一時期はトップカテゴリーにまともに参戦する自動車会社チーム(ワークスチーム)がトヨタしかいなくなってしまった。

しかし、2021年シーズンからはスクーデリア・キャメロン・グリッケンハウスが、2022年シーズン(後半戦)からはプジョーがそれぞれ参戦。2023年シーズンからは後述のル・マン・デイトナ・h(LMDh)カテゴリー創設により、フェラーリ含む数多の自動車メーカーがトップカテゴリーに参戦し、かつて撤退したアストンマーチンも復活する構えを見せている。

一方、GTカーカテゴリーにはポルシェ、フェラーリ、アストンマーチン、コルベットのマシンを駆る個人チーム(プライベーター)が安定して数多く参戦しており、こちらには大きな動きは見られない。プライベーター向けのプロトタイプカーカテゴリもまた同じで、世界中のプライベーターたちが参戦している。


カテゴリー

先述の通り、WECは参加するマシンの規格に合わせてクラスが分かれており、「総合優勝」と「クラス優勝」という2つの概念が存在する。SUPERGTのような「複数カテゴリーが存在し、クラスごとに賞典が設けられる」レースのファンには馴染みがあるであろうが、F1やNASCARなどといった「全車が同じ土俵で争い、唯一の勝者を決める」レースのファンにとってはなかなか理解するのに時間がかかるかもしれない。

マシンという面においてはプロトタイプカーGTカーに大別されるが、そこからさらに細分化された4つのカテゴリーから構成されている。


プロトタイプカー部門

・ハイパーカー

WECにおけるトップカテゴリー

かつて存在したLMP1の代替として2021年から採用されており、2023年現在は制定された経緯が異なる2種の車両型式で構成されている。


ル・マン・ハイパーカー(LMH)

自動車メーカーが莫大な資金と技術の粋を投入して製造したプロトタイプマシンを、プロ中のプロのドライバーが駆る。前述の通りかつてはLMP1という名称でマシンの規格も異なっていたが、2021年からはこの規格に移行している(2022年までは経過措置としてLMP1マシンも出走可能だった)。TOYOTA GAZOO Racingがこのカテゴリーに参戦しているほか、トヨタのようなワークスチームのみならず、ヴァンウォールなどのようなプライベーターも参戦している。


ル・マン・デイトナ・h(LMDh)

IMSA(国際モータースポーツ協会)とACOが共同で生み出した新カテゴリー。ル・マン・ハイパーカーとの共通化が図られ、これによりWECをメインとするル・マン・ハイパーカーがIMSAのレースに、IMSAをメインとするル・マン・デイトナ・hがWEC(ル・マン24時間含む)に出走できるようになる。

「歴史」の章で述べた通り、2010年代後半の相次ぐ撤退によりトップカテゴリーに参戦するワークスチームはトヨタ1社しかなくなった。しかし、2023年シーズンから自動車メーカーの参戦が急増した。その理由はこのカテゴリーの創設にある。かつて撤退したポルシェやキャデラックが2023年シーズンから参戦。2024年シーズンからはBMWランボルギーニアルピーヌがル・マン・デイトナ・h規格でのWEC参戦を表明しており、WECのトップカテゴリーは大混戦になることが予想されている。

なお、この規格に沿ったマシンを開発し、IMSAに出走しているACURAはWECには出走していない。北米ブランドとはいえ日本メーカーということもあり、WECへの出走によるトヨタとの熾烈な一騎打ちを期待する声も大きい。


・LMP2

プロトタイプカテゴリーの中でもプライベーター向けのもの。チームが車体とエンジンを購入する形式を採るが、車体の製造会社や使用するエンジンが指定されており、基本的にはドライバーの腕前やレース戦略で争うことになる。

2023年限りでWECシリーズにおいて廃止予定。今後はIMSAやELMS(ヨーロピアン・ル・マン・シリーズ)からル・マン出場権を得たチームのみ、ル・マン24時間でLMP2にて参戦が可能となる。これを受けてか、LMP2参戦チームの中にはハイパーカーマシンを購入してカスタマーとしてハイパーカークラスに参戦するという挙に出たチームも存在している。


・水素プロトタイプカー(仮称)

2023年スーパー耐久第2戦・富士24時間レースに先駆けて来日した、ACO会長ピエール・フィヨンから発表された新規定。

2026年に最高峰クラス(=ル・マン・ハイパーカー)に「燃料電池車水素燃料エンジン車」の参戦を認める発表をしている。



GTカー部門

・LM-GTE Pro

GTカーカテゴリーのなかでも過去に一定の戦績をもつプロのドライバーが参戦する部門。かつてはフェラーリ、ポルシェ、シボレー・コルベット、アストンマーチンなどのメーカーが参戦していたが、2020年にアストンマーチンがワークスチームとしての参戦を終了し、2022年にはフェラーリ、ポルシェが前述のハイパーカー参戦のために撤退を発表。コルベットもGTE Amへのカテゴリー移行を表明し、2022年シーズンをもってこのカテゴリーは廃止された。


・LM-GTE Am

GTカーカテゴリーの中でも、目立った戦績を残していない(とはいえWEC出走に必要なライセンスを取得している)アマチュアドライバーが参戦するカテゴリー。こちらもLMP2と同様プライベーター向けだが、LMP2よりもアマチュアドライバーの比率が高い。また、女性のドライバーおよびスタッフで構成されたチームが参戦しているということも特筆すべきであろう。

先述の通り、2023年シーズンにはLM-GTE Proに参戦していたコルベットがこのカテゴリーに移行した。しかし、2023年シーズンをもってこのカテゴリーも廃止が決定し、2024年シーズン以降GTカー部門は下記LMGT3に一本化されることになっている。


・LMGT3

2024年シーズンから新設されるGTカーカテゴリー。

世界的人気を誇るFIA-GT3車両を使用し、ハイパーカークラスで採用されているトルクメーターの搭載が義務付けられる。

理論上、メーカー各社が開発するGT3マシンであれば誰でもル・マンの門戸を叩けることになるが、FIAとACOが「ハイパーカークラスで参戦しているメーカーのGT3車両を、1メーカーにつき2台優先させる」という条件を付けたため、GTカーで参戦しているがハイパーカーを持たないアストンマーチンや、そもそもWECに参戦していないメルセデスAMGフォードなどでは選考委員会から出場枠を確保しなければならなくなっている。


サーキット

F1と同様に世界中のサーキットでレースが開催されるが、F1の1シーズンが全20戦強で構成されるのに対しWECのそれは(毎年6月のル・マン24時間を含めて)6〜8戦にとどまる。戦いの舞台にはスパ・フランコルシャンやシルバーストン(イギリス)などの伝統あるサーキットや、バーレーン上海などの比較的新しいサーキット、飛行場転用で継ぎ接ぎだらけのコンクリート&アメリカ式ピットボックスが特徴のセブリング、日本人のモータースポーツファンには馴染み深い富士スピードウェイなどが選ばれる。コロナ禍が続いた2021年には富士スピードウェイでの開催中止により、1週間のインターバルを設けてバーレーンで2連戦、という魔の日程が組まれた。


小ネタ

ル・マン式スタート

かつてのル・マン24時間レースにおいて、「ホームストレート上のピット側にマシンを斜めに並べ、反対側にドライバーが並び、スタートの合図と同時にドライバーがダッシュでマシンに乗り込み、エンジンを掛けてスタートしていく」という方式が用いられ、「ル・マン式スタート」と呼ばれていた。1971年に安全上の理由でル・マン式スタートは廃止されたが、近年のWECではこれを模して、レース開始前にダミーグリッドへ整列する代わりにル・マン式スタートと同じ位置にマシンを配列している。レース開始時はしっかりとドアを閉め、ドライバーもシートベルトをした状態で配列順でマシンを出発させ、順番を乱さないようにサーキットを1周走り(フォーメーションラップ、という)、その上でスタートする、という方式を採用している。


ル・マン スピリットクラブ

F1におけるF1パドッククラブにあたる、VIP向けのサービス。その豪華な特典の数々たるやここにはとても列挙しきれないので個別記事に譲る。

クラブと称してはいるものの会員制でも通年利用でもなく、1レースごとにクラブパスを購入し、購入したレースに限って利用できる仕組みとなっている。料金も通常の観戦席とは比べものにならないくらい高いが、お金があれば一般人でもクラブパスを購入できる(少なくとも金銭的ハードルはF1パドックパスよりもかなり低い)。モータースポーツをこよなく愛する人ならば是非、この素晴らしい体験の数々をその身をもって味わって欲しい。


ル・マン バーチャルシリーズ *

WEC主催元のACOおよびFIA監修のもと、PC用ソフトウェア『rFactor2』上で実施される、いわばeスポーツ版WEC。eスポーツではあるが、レギュレーションの関係からeスポーツプレイヤーだけでチームを組むことができない。出走にあたってはシムドライバーのみならず、実際にFIA発行のモータースポーツライセンスを取得しているドライバーを2人チームに加える必要がある(このシリーズの1チームあたりの人数は4人または5人)。

これにより、選りすぐりのeスポーツドライバーと、リアル世界のレースでも活躍しているドライバーの両方が加わって激戦を繰り広げることとなっている。出場経験のあるドライバーのなかには、

・F1チャンピオン ジェンソン・バトン、マックス・フェルスタッペン

・フォーミュラEチャンピオン ストフェル・バンドーン

・インディーカーチャンピオン アレックス・パロウ

などの錚々たるメンバーもいる。

また、こうしたドライバーチームについても、eスポーツを本業とするチームや、自動車メーカーが組織したチームなど様々。中には現にF1に出走しているメルセデス、ウィリアムズや、リアルWECに出走しているポルシェ、プジョー、D'stationが結成したチームも存在している。


シリーズは全5戦で構成され、そのうちル・マン24時間はシリーズ最終戦に組み込まれている。シーズン中にはリアルWECでは存在しないニュルブルクリンクでのレースもあり、リアルWECとはまた違った面白さがある。

また、このシリーズについても複数カテゴリーが混走する形式を採っているが、クラスはLMP(リアルWECのLMP2に該当)とGTE(リアルWECのLM-GTE Proに該当)の2つしかない。うち前者は全チームが同じ車両(Oreca LMP2)を使用し、後者はポルシェ、フェラーリ、アストンマーチン、コルベットの4社のLM-GTEマシンのうちからチームが任意のマシンを使用して出走する。


また、公式戦とは別にリアルWECに導入する予定の新たな要素の実験台のような存在としてこのプラットフォームが用いられることもある。2023年のリアルWEC ル・マン24時間レース開催に先立ち、ル・マンのみに用いられるセーフティーカーの新たな運用方法とそれに伴うマシンの動きについてのシミュレーションが行われ、ル・マン バーチャルシリーズに参戦するシムドライバーが参加してマシンやセーフティーカーの立ち回り等を確認した。


関連イラスト

WECで一番イイ音がする奴「絶対勝たなきゃいけないんでしょ…!」


関連タグ

WEC ハイパーカー モータースポーツ カーレース


関連項目

耐久レース ル・マン24時間 プロトタイプ GT


Pixiv百科事典に記事がある、参戦経験のあるドライバー

中嶋一貴 小林可夢偉 ロバート・クビサ

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