概要
イギリスのスコットランド地方やアイルランドの伝承に登場する妖精。「一族につく」妖精なので、アイルランド系のアメリカ人がアメリカでバンシーにあったとか、なんとか一族がカナダへ行った際にはそれがついてきたとかの伝承がある。
bean sidhe(でバンシーって読むの!!「Banshee」ていう表記もあるけど!!) はアイルランド・ゲール語で「妖精の女」(Ban またはbeanが「女」sheeあるいはsidheが「妖精」)。
近い内に人死が出る家のそばに現れ、その死を想い、泣く妖精とされる。
誤解されがちであるが、バンシーは死を予見するだけで、死を運んだり害を与えたりはしない、ただ泣くだけの無害な妖精である。
地方によっては名のある人物のところに現れるという言い伝えもあり、家の名が上がることから、むしろ歓迎されたりもする。さらにバンシーは、弔事のないときはついている家の子供の入ったゆりかごを揺らしたり、家の人が行うチェスに対し有効なアドバイス(藤原佐為みたいなアレでいい筈)をしたりするという。
アイルランドやスコットランドでは出産により早くに死んだ女性の霊だとされ、血塗れの男の経帷子を川で洗濯するという。
鳴き声は悲しげに啜り泣くこともあれば、すべての鳴き声をあわせたような大音響で叫び、飛ぶ鳥が落ちることもあるとか。
その姿は少女であったり、皺だらけの老婆であったりと定まらないが、女性であることは共通している。目は赤くなっている。
アイルランドのバンシーは、美人のお姉さん(若くして死んだその家の乙女の姿)という形をしている(息子オスカー・ワイルドが作家で有名なJ・F・ワイルド夫人は「嘗てその家で生まれ、ずっと前に死んだものの、いまなお自分の一族の行く末を案じている若死にした美少女の亡霊」と描く)が、スコットランド高地地方のバンシーは、鼻の穴が一つとか、歯が一本出てるとか、おっぱいが垂れ下がっているとか言われる。このおっぱいを吸ったものにこれから死ぬ人物を教えて貰えたり、願いを叶えてくれる事もあると言う。
緑色の服を纏い、灰色のマントを着ているとされる。
地方によって、「水のすすぎ女(little washer by the ford)」、「ベン ニーァ(「洗う女」 スペルが「bean nighe」なので水木しげる『妖精100物語』p162 『水木しげる漫画大全集 補巻3 媒体別妖怪画報集(3)』p614では、「ビアンニー」と表記されt『妖精画談』p4では「ベン ニーァ」て書いてあるよ!!)」 「クーニアック(caoineag 「泣く者」)」、「クーンチアッハ(Caointeach 「泣き叫ぶもの」)」と呼ばれる。(W・B・イェイツは葬式の時の、英語で「Keen」ゲール語で「Caionie(クイーナ)」と呼ばれる「泣く」儀礼は、バンシーのそれをまねたものだと書いている)
日本語のwikipediaで「bean nighe」を検索すると「グラシュティグ」という全然別の妖精がヒットするが、これはこの家事も手伝ったりするヤギ娘型の妖精「緑のグラシュティグ」に、「親しい人の死の直前に嘆く」習性が一応あるためである。
キャサリン・M゠ブリッグズはバンシーにまつわる信仰の変化を表す際「バンシーが「妖精の女」を意味する名であることから」グラシュティグという「ベン・ニーァとは全くかかわりがない」ものまで語られる件を紹介している。(他の、「親しい人間が死ぬ直前に泣く」妖精、メリュジーヌや もふもふ娘妖精メグ・ムラッハ、粉引き小屋の妖精キルムーリスはバンシーと無関係と言われる)
スコットランドの高地地方、西方の島、あと北東部のバンフシャーでも伝わるベン ニーァ(小柄で緑色の服を着ていて、赤い水かきのある足を持つ)は「産褥で死んだ女の幽霊」とも言われ(水木しげる先生が「うぶめ」と似る他、世界各地に「お産ができなくて死んだ女性の霊」が居る件を指摘している)、本来の寿命が来るまで服を洗う仕事をしなければならないとされる。また彼女に見られる前に彼女と川の間に入ることができれば、3つの願いをかなえてくれ、3つの質問にも答えてくれるが、その際彼女からの3つの質問へ答えなければならないとされる。
スコットランド西部のアーガイルシャー、ヘブリディーズ諸島のいくつかの島に伝わるクーンチアッハは、緑色の短いガウンとスカート、山の高い白い帽子をかぶった小柄な女性か少女という形をしており、マクミラン家、マシソン家、ケリー家、マクファーラン家、ショー家、カリー家に仕え、この家で弔事がある前に泣き叫ぶ。あとマカイ家にも使えていたが、そこのある人が彼女を哀れみ「肩掛けを与えた」ために縁が切れたというお約束伝承(「人間のお手伝いをした妖精さんへ服を上げたら翌日どっかへ行った」伝承は一山存在する。ふつうはブラウニーがそうされる)がある。アイラ島では、クーンチアッハが、彼女の作業を邪魔した人の足へ、濡れた亜麻布を叩きつけ、利かなくしたという話が伝えられている。
クーニアックは、声しか聞こえないので具体的な形が分からない。キャサリン・M=ブリッグズはこれを「フーア(水属性だか水妖 凶悪)の類」としている。災難がある前の新月、滝の辺りで泣き叫ぶという。「グレンコーの大虐殺」の(1692年 グレン川渓谷でキャンベル一族がマクドナルド家の人を38人ほど虐殺した)前に、マクドナルド家のクーニアックが泣いたという伝承がある。
ウェールズでも、カヒライス(Cyhyraeth 悲しい声で叫ぶ。姿は見えない)とかグラッハ・ア・フリビン(Gwrach Y Rhibyn ウェールズの言葉でグラッハが「醜い老婆」フリビンは「列」「縞」ウェールズ語はこういう表記なの!!なんで名前が「縞BBA」なのかは謎だけども!!)という者がいる。グラッハ・ア・フリビンあるいはグラッハ・ア・カヒライス(カーディガンシャーの「祖先の霊」と言われる)はもつれた髪の毛と黒く伸びた歯、不釣り合いに長くしなびた腕を持ち、死者の親族の處へ行って、十字路や小川に行ったその方へ、地面や水面を叩きながら死ぬ人により「うちの子が!!(子供である場合)」「うちのかみさんが!!(女性である場合)」とか叫ぶ。時々それに遭遇し、意味の不明な叫び声を聞いたとか言ってる人が、数日後お亡くなり、というパターンもある。
バンシーは、烏がそれであると説明されるところから、同じくズキンガラスの形をした女の軍神バウ(BadhbhあるいはBadb 戦場で戦略とかを授けるモリグー「Morrigu」と敵兵へ無差別虐殺を唆し死体の山の上で踊るマハ「Macha」、兵士へ疑心暗鬼を興させるネワン「Neamhan」の、合体したものだか総称だか)の変化したものだという説がある。
関連イラスト
関連タグ
ウィザードリィ マビノギ … バンシーが敵モンスターとして出現するRPG
RUNE/RUNEⅡ:フロム・ソフトウェアのカードアクションRPG。バンシーは武器カードとして登場。特に1ではバランス崩壊級の超強力カードで有名。
クー・フーリン:死を予見されたという伝承がある。
トリオ・ザ・バンシー ぷよぷよだか魔導物語のキャラというかモンスター。三人なのでトリオ・ザ・バンシー。
荒海のバンシー … 「カードファイト!!ヴァンガード」に登場するバンシー
バンシー級原子力空中空母 … 戦闘妖精・雪風に登場
バンシィ…機動戦士ガンダムUCに登場するモビルスーツ、あるいは単にバンシーの表記ブレ
ブラスバンシー…メタルマックスリターンズに登場する賞金首モンスター。
バンシー(モンスターファーム)…「モンスターファーム」に登場するピクシー種のモンスター。
BanShee…Extreme_Heartsに登場する11人組のメタルバンド。
余談
J・F・キャンベルによれば、バンシーは「猛烈な食慾(一回の食事で雌牛を一頭とかってバンシーさんて食事するの!!)、ぞっとするような前歯 鼻腔の完全な欠如、水かきのついた足、異常に長い垂れ乳」を持つそうで、そういうバンシーの乳を吸えばあらかたの願い事は3つまでなら叶えてくれると伝えられている。
バンシーあるいはベン・ニーァは、ソレができればその養子であると主張することができ、目をかけてくれるほか、バンシーの方は願いをかなえてくれる。
ただし、少女の姿ならまだしもBBAの干からびた乳(ていう風に言われるの)を吸うのは、バンシー本人に死を予見される以上に地獄絵図なのは想像するに難くない。(資料が、そういうものを上げる際「大胆にも」とか「勇気ある」とか書く)というか、間違えて普通の人間の乳を吸おうものなら警察沙汰である。人外の乳を吸う度胸よりも、見知らぬ女の乳を吸いに行く度胸を試されているのかもしれない。
しかし、人間だろうが妖精だろうが後で何をされるかわかったものではないので、近づかない方が賢明だろう。
資料
- ベン・ニーァ関係
- 『妖精100物語』p162 『水木しげる漫画大全集 補巻3 媒体別妖怪画報集(3)』p614 『世界妖怪事典』p100で、「ビアンニー」産褥の霊という類似点を指摘
- 『妖精画談』p4では「ベン・ニーァ」(泣き女との類似を指摘)
- キャサリン・M・ブリッグズ『妖精事典』p339
- 英語版のWIKIの記事
- カヒライス(Cyhyraeth)『妖精100物語』(p106)『水木しげる漫画大全集 補巻3 媒体別妖怪画報集(3)』p585では「カハラエス」
- キャサリン・M・ブリッグズ『妖精事典』p66
- バンシー
- W・B・イエイツ 『ケルト妖精物語』p221 「ドュラハン」をバンシーに伴う前兆とする。
- クーニアック
- キャサリン・M・ブリッグズ『妖精事典』p88 p339(アイラ島のやつ)
- クーニアックとクーンチアッハに関する英語版のWIKIの記事
- 他
- キャサリン・M・ブリッグズ『妖精事典』p268