「私はまだ——————神の一手を極めていない」
CV: 千葉進歩
進藤ヒカルの祖父の蔵にある本因坊秀策所縁の碁盤に眠っていた平安時代の天才棋士の霊。
概要
かつては内裏で天皇の囲碁指南役として活躍していたが、指南役仲間の謀略に嵌められ都を追放、失意のうちに入水自殺してしまった。「神の一手を極めていない」無念から遺愛の碁盤に魂が宿り、数百年の歳月の果てに備後国(現・広島県尾道市)の因島の神童・虎次郎(後の本因坊秀策)に憑依。作中では秀策の対局の実績は彼によるものという設定になっている。
しかし秀策は流行り病で夭逝してしまい、悲しみのうちに佐為は消滅、盤面の秀策の血を媒介にして再び秀策愛用の碁盤へ宿り、およそ140年の時を経てヒカルと巡り会った(秀策の命を奪った病に血を吐く症状は無い筈だが…)。
初めは自身が打つ事にこだわり、ヒカルと喧嘩ばかりしていた。だが同じ時間を過ごすうちにお互い強い絆で結ばれるようになり、ヒカルの成長を見守る中で段々保護者のような存在になっていった。
しかしヒカルが棋士として活躍すればする程、佐為自身の対局機会は奪われ、ヒカルに不満をぶつけてしまう事もあった。
アキラの父にして現日本囲碁界最高峰の棋士、塔矢行洋をライバル視し、何とかして対局したいと切望する。ヒカルがプロ棋士になる目標を後押しするのは、行洋と打てる立場に近づく可能性も願っての事である。
作中後半でヒカルの存在が認知されていくのに比例して段々佐為の存在感が薄れていく描写があり、ヒカルとの心の距離も開いていく。しかしプロになって初のアキラとの対局が間近に迫ったある日、ヒカル、アキラ、佐為も予想だにしなかった出来事が起こる。
人物
公家らしく嫋やかな性格だが、囲碁となると鬼神の如き強さを発揮する。いい大人の筈だが非常に子供っぽく、ヒカルと同じ目線で言い争ってしまう事も。強い打ち手に対する闘志とは別に、純粋に碁を楽しむ人々への愛情もあり、特に棋力の優劣を問わず、子供達を慈しむ気持ちは深い。
好奇心は旺盛で、現代に蘇ってからは飛行機やバーチャル水槽、自販機に興味津々の様子を見せる。ただ英語のような現代ならではの勉学にはついて行けず、17巻ではヒカルに授業中の居眠りを棚に上げられていた。
正義感も強く、一局を穢してまで欲得に走る者、碁を冒涜する者、或いは碁を使って他者をいたぶる者には強い怒りを見せる。
感情の起伏も激しく、ヒカルに取り憑いて間もない頃は激しい感情に合わせてヒカルを嘔吐させる程体調を悪化させた。作中では度々デフォルメされた可愛らしい百面相を披露し、作者や佐為ファンに高い人気を誇る。
容姿
狩衣を身に付け、頭には立ち烏帽子を被っている。
長い髪を烏帽子に収めず後ろに下ろし、下の方で纏めている。
紙紐のデザインは原作初期と中期で途中から異なる。
(参内する際は狩衣ではいけないはずだが、そこは漫画ということだろう)
非常に端麗な容姿の持主で、その性格も相まって女性と間違われがちだが、歴とした男性である。
棋力
間違いなく作中最強。
江戸時代では、黒番(先番)なら負けなしだったとのこと。当時はコミがなく、対局時計も使用されていなかった。コミとは、先に打つ黒の方が有利なため、黒番は白番より5目半以上のリードがないと勝ちにはならないという制限(『ヒカルの碁』の連載当時の話、その後プロ棋士の対局は6目半に改められた)。
そのため、本因坊秀策が現代に蘇ったら…現代の碁を学んだら…というテーマも作中で挙げられている。
作中で披露しただけでも、
・ヒカルが打ち間違った手から新たな打ち筋を編み出し追撃する(第8局)
・15目というハンデを負って尚一局を形にする(第101局)
・他者が途中まで打った笊碁の劣勢を覆す(第104局)
・一局勝ってから相手と石を交換した上で新たに打ち、また勝つ(17巻番外編『藤原佐為』)
等、神懸かったエピソードは枚挙に暇が無い。
関連イラスト
顛末
【※この先原作ネタバレ注意】
ヒカルの元に入ったのはアキラの父・行洋が倒れたとの急報だった。二人の初対局は流れてしまう事になるが、幸い行洋の命に別状は無かった。見舞いに行ったヒカルと佐為は、緒方が入院中の手慰みに持参したノートPCで、行洋がネット碁をしていると知る。思い切ったヒカルは佐為と打つよう懇願するが、素性の知れない相手との対局に行洋は難色を示す。だがヒカルの挑発(?)にムキになると本腰を入れ、自身の進退を賭けて対局すると宣言。
こうして佐為と行洋の夢のカードが実現した。
電脳空間の闇で、世界中の観衆が見守る中、二人は一歩も譲らない戦いを展開する。初めは疑っていた行洋も、やがて佐為が己と対局するに足る人物と認めていく。
終局し、結果は佐為の勝利で終わる。
しかし誰もが佐為の実力に感嘆する中でただ一人、
ヒカルは結果を覆す一手を見出した。
佐為は悟る。己が千年の時を長らえたのは、ヒカルにこの一局を見せる為だったのだと。
佐為との一局に感激した行洋はもう一度打たせて欲しいとヒカルに頼むが、佐為は以前から薄々気付いていた、魂の寿命の限界が来たことを感じ取っていた。
それを皮切りに、ヒカルと佐為は徐々にすれ違う事が増えていく。ヒカルと些細な喧嘩をした翌日、祖父の家で泥棒騒ぎがあり、二人で蔵の様子を見に行くと、佐為の碁盤の血のシミは薄れかけていた。佐為は己の最期が近いと知りヒカルにそれを訴えるが、ヒカルは聞く耳を持たない。
信じないヒカルに落胆しながらも、最期は穏やかに終わりたいと願ったのか、或いはヒカルにこれ以上言っても無駄と諦めたのか、佐為はそれ以来ヒカルに自分が消えることを語らなかった。
しかしこの世への未練が消えた訳では無く、神に選ばれなかった哀しみと、未来あるヒカルへの嫉妬を佐為は隠せなかった。そしてそれ以上に、ヒカルを置いて逝かねばならない辛さが佐為の心を苛んだ。
———————嘗て自分を置いて逝ってしまった彼と同じに。
それでも時間は過ぎ、変わらず流れていく日常。ヒカルの地方対局から間もなく、五月晴れの空に鯉のぼりが翻るこどもの日、季節は春を迎えていた。消える焦燥、ヒカルへの嫉妬、伝わらない哀しみ、それら全ても今や消え去り、成仏の時は来る。
あぁ、そうだ ヒカル
ヒカル、ねェ、ヒカル あれ?
私の声、とどいてる?
ヒカル
楽しか——————————
誰より碁を愛し、誰より碁の神に愛された古の棋士は、
漸く現世の呪縛を解かれ、天に還った。
奇しくも彼が消えた5月5日は、彼の依代であった虎次郎の旧暦誕生日でもあった。
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