概要
社会主義〈英語:Socialism〉とは、個人の財産権を制限し、産業や富を共有管理することによって資本主義社会の諸問題を解決しようとする思想。特に生産手段の共有によって搾取のない社会を目指す思想は共産主義とも言う。
カール・マルクスにより定義された概念であるものの、政治体制としては相当古くから存在するものであり、中東においてスーフィズムやシーア派への反抗運動から派生したサラフィー主義がその代表である。江戸時代の日本における五人組などによる相互監視を駆使した夜警国家的な自治も、応分に社会主義的な側面が見られる。
資本主義の対をなす概念であるが、北欧の社会民主主義や中国共産党のように資本主義との事実上の共存を実現した社会主義体制も無いわけではない。
日本国では冷戦崩壊に伴ってイデオロギー対立の時代が終了したことや、左翼運動の衰退、またインターネット上での宗教右派による反共書き込みや2ちゃんねる・コピペブログ等を介してネトウヨ的な言説が流行し、高校世界史レベルの基礎知識すら欠如した虚構を多く含んだ社会主義への憎悪表現が多いことも相まって偏見が見られるが、
ヨーロッパでは今なお党派の一角を占めるイデオロギーであり、日本の国政政党も存在しており、市民権を得ている一般的な政治思潮の一つである。
スターリン主義や毛沢東主義のような、一党独裁制のゴリゴリとした「怖い顔」の社会主義はソ連や中国といった国家状況の文脈に特有なものであり、冷戦時代は確かにソ連が社会主義の盟主ということになっていたが一過性の状況に過ぎなかったのであり、実際には多様な社会主義が存在し、現在西側陣営で主流となっているのは他党型・民主主義路線の社会主義である。
私有財産の廃止
社会主義に対する誤解や偏見の中でも、一部の人々に恐れられやすいのはこの文言であろう。
字面を見ると私物を全部没収されそうな厳めしい印象を受ける。
私有財産と一般的に言うと動産や不動産の一切合切を含むが、社会主義では経済格差を生み出す生産手段に限って使用されている。
どういうことか。
「コモン(common)」という英単語がある。形容詞としては「共通の、共同の、公共の、ふつうの、ありふれた」という意味だが、名詞としては、「町や村の共有地、公有地、囲いのない草地や荒れ地」を意味する。
かつてはヨーロッパにも日本にも、公共財を共同管理し、共同使用する村落共同体が存在した。
囲いのない森や草原で、村落共同体が共有し、共同管理する。村人はそこで家畜を放牧したり、魚を釣ったり、鳥獣を狩ったり、果樹を摘んだりする。個人の私財が乏しい村人でも、豊かなコモンを持つ共同体に属していれば、豊かな生活を送ることができる。
もし、コモンが誰かによって独占されてしまうと、人々はその恩恵に浴せなくなる。
これと同じように、産業のための生産手段を誰かが独占して搾取されることがないようにする、公共に向けて解放されるのが私有財産の公有ということである。誰かが生産手段を独占していると、人々は賃金を受け取る代わりに自らの自由を売り渡して、雇用者に隷属しなくてはならなくなる。
賃金奴隷状態では、労働者は自らの権利の行使を制限され、抑圧され、理不尽な命令を受け、蔑まれ、己の価値観すら卑屈に変質させられてしまう。不当に低い賃金しか得らえなくなってしまう。
こうした全般的な危機を防止するために、生産手段を個人に所有させないようにしましょう、というのが私有財産制廃止の意味である。
だから、私有財産の廃止と言っても歯ブラシだとか下着だとかいった消耗材や、個人的に使うための椅子だとか電卓だとかいった物品を政府が没収することはあり得ないのである。
政府がオタクの棚からフィギュアだのトレカだのをぶんどっていったところで、経済格差を縮小することはできない。フィギュアには私的な意味しかなく、生産手段とならないためである。
もし是正されなければならない箇所があるとしたら、誰かにはフィギュアを買う金があるが、他の誰かにはフィギュアを買う金がないといった経済的不平等の方である。
オタク生活は社会主義国家でも可能であるので安心召されよ。
一方で、生産手段の所有者にとっては私権制限となるのは事実である。しかし、工場を持っていても労働者がいなければ工場は動かない。労働者を働かせて、労働生産物から生じた富を平等分配しないで雇用者が多めに取るのは窃盗である。
そもそも、何故誰かが工場を独占しているのだろうか。その特権的権利は何によって担保されているのだろうか?工場の建設資金を拠出したからであろうか。さもありなん。しかし、その莫大な資金はどこから出たのだろうか。親や先祖の遺産だろうか。親や先祖はどのようにして資金を得たのだろうか。荘園の農奴から徴収した人頭税だろうか。それは奴隷制から得た富であって、本質的に窃盗である、と社会主義では考える。
このように、富の偏在は根拠をたどれば何らかの不平等を起源としている。
私有財産制の廃止は、生産手段の私的所有は普遍的な概念・価値観ではなく、資本主義の発達に伴って整備された歴史的な偶然性に起因した固有的なアイデアに過ぎず、万能に自明足りえない、ということを示している。
歴史
着想そのものはかなり古くからあり、例えばイエス・キリストを社会主義の先駆者と位置づけることもあるが、一般的には18世紀後期の産業革命期以降にその起源を置くとされる。フランスのサン=シモンの思想、イギリスのロバート・オーウェンらの実践(協同組合運動や労働法の提唱)が社会主義運動の直接の源流となった。
19世紀中頃、マルクスとエンゲルスは、科学的社会主義(マルクス主義)を確立し、資本主義の社会の経済法則とその矛盾を明らかにし社会主義社会が到来する必然性を説いた。マルクスは国家を否定するアナキズム(無政府主義)や、政府要人の力を借りて社会主義化をすすめる国家社会主義(Staatssozialismus、同じく国家社会主義と訳されるナチズムとは別物)を唱えるラサールと激しく論争した。
19世紀末以降、ラサールらの提案が取り入れられ、社会保険などの社会政策を通じて労働者階級の生活が向上するとともに改良主義的な社会民主主義が力を持った。これに対して、共産主義者や無政府主義者は、社会政策の有効性を認めつつも、資本家の利益を代表する権力を倒さなければ労働者は解放されないと主張した。
また、19世紀には世界各国から社会主義者が国籍を超えて結集し連帯するための組織であるインターナショナルが結成される。
1848年には世界中で革命騒ぎが起き、社会主義運動の激しさが極まった。
1880-90年には世界各国で社会主義政党が誕生し、議席を得るようになる。1889年の第二インターナショナルは世界中の社会主義政党の集合体という性格を持ち、クロポトキンら非合法活動路線を追放してイニシアチブを握り合法路線を突き進めた。
1917年、ロシアではロシア社会民主労働党がロシア革命を起こした。革命の主力となったのは各地に結成された民会(ソビエト)であった。1度目の革命でロシア帝国を倒してロシア臨時共和国を建国し、2度目の革命でレーニン率いるボリシェビキ(後のソビエト共産党)が実権を掌握した。
ロシア革命成功後は、マルクスの流れをくむ思想が社会主義の主流となった。
レーニンの死後ソ連ではスターリンが実権を掌握し、粛清・恐怖政治の一党独裁国家体制(ソ連型社会主義)を確立し、権威主義の色彩が強まる。
1914-1918の第一次世界大戦後は、西側自由主義陣営においても、マクロ経済学者ケインズの積極財政を取り入れ部分的に社会主義的なメソッドを取り入れた混合経済が採用されるようになる。
1930年以降、社会主義国への対抗や世界恐慌への対応のため、欧米各国は産業の国有化や社会福祉政策をより本格的に取り入れるようになった。ドイツのナチスは、共産党や社会民主党の台頭に対抗して「国民社会主義」(Nationalsozialismus、一般的には国家社会主義と訳されることが多いが、先述のラサールの思想とは全くの別物)を名乗った。ナチスは政権をとると、共産党・社会民主党・労働組合などを禁止し、社会主義的な政策を強調していたナチス左派を粛清して全体主義と軍事大国化への道を突き進んでいった。
スターリン死後、スターリンに対する批判がおこなわれ、ヨーロッパではソ連型社会主義に反対し、多党制民主主義を積極的に擁護する「ユーロコミュニズム」と呼ばれる共産主義の動きがおこった。
第二次世界大戦後、日本国は古典的自由主義とは道を違えた独自路線に進む。55年体制と呼ばれる利権構造と一体化した政治体制が生まれ、池田勇人首相の所得倍増計画、親方日の丸と言われる中央集権的な方法や終身雇用など手厚い労働者保護を組み合わせた富の再分配によって中流層が生まれ、成功した社会主義と称されるようになる。
日本は21世紀になると新自由主義路線に走り、貧困化した国民が社会主義や左翼を罵倒するという何とも痛ましい倒錯した状況に陥るようになる。
1960年代、ラテンアメリカではゲバラ等の左翼ゲリラ闘争が活発化するが、ゲバラの戦死によって挫折する。アメリカ合衆国はコンドル作戦など、暗殺や虐殺、政権転覆を含んだ内政干渉を南米諸国で行い、結果ピノチェトなど米国の傀儡となった新自由主義政権が誕生する。
1968年は、市民権運動や人種解放運動、反ベトナム戦争などの領域と関連するよう形で社会主義の運動が世界的に加熱しピークに達する。所謂スチューデント・パワーの時代となった。日本では全共闘運動のピークであった。
1960年代から70年代にかけてラテンアメリカで貧困と抑圧からの解放を求めるキリスト教の運動が生まれ、「解放の神学」と呼ばれた。
1978年、中華人民共和国の指導者鄧小平は市場主義経済への転換を開始した。以降中国は事実上競争を取り入れた資本主義国家となる。しかし、経済格差や汚職の増大など社会矛盾が深刻化してしまった。
1991年にソ連が崩壊した。これによって国際政治を二分した大きな対立の時代が終了し、歴史の終わり(=イデオロギーの最終的勝者が決定したのでこれ以上政治思想の大枠は変化しない)という見方も現れた。
1990年代以降、南アメリカでは21世紀の社会主義を掲げた左翼政権が次々に誕生する。
21世紀になると、20世紀に現われ猛威を振るった新自由主義や、多国籍企業の急成長、越境資本移動などグローバリズムによって世界的に格差が増大し、20世紀の経済先進国の中流家庭の没落や、資本主義による環境破壊が深刻な状況となる。2014年時のFRB議長のジャネット・イエレンは「富裕層の所得・富が著しく増大する一方で、大半の所得層では生活水準が低迷している」と発言した。
2022年には、世界の富の2%を人口のボトム50%に薄く広まって所有されており、人口のトップ10%に世界の富の76%が集中しているなど、極端な不平等状態になっている。
こうした状況下で、社会主義的な再分配が再評価されるようになり、富裕層への資産課税などが検討され始める。
古典的自由主義やアイン・ランド主義が影響力を持つ資本主義の権化のアメリカ合衆国ですら、Z世代(1990年台中ごろ-2010年代序盤生まれ)の社会主義支持率が過半数に達するなど大衆の資本主義への懐疑や否定は増大している。
外部リンク
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カール・マルクス・・・(1818-1883)ドイツの思想家、政治運動家。思想家ヘーゲル左派の弁証論を学び、そこから徹底的に客観視した人類の歴史においての資本主義論・科学的社会主義・社会主義の最高形態共産主義の観念を生み出し千年に一人の人物。(左翼思想家の吉本隆明談)
しくじり先生・・・資本主義のメカニズムを説明したマルクスを取り上げた上でソ連の失敗に触れ、「格差社会を終わらせた後、どうすればいいのか書いていなかった」と締め括った。
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