星空のむこうの国
ほしぞらのむこうのくに
まだ出会っていない恋人たちへー
1984年11月に集英社コバルト文庫シリーズから出版されたジュブナイルSF小説(現在に言うところのライトノベル)。著者(原作)は小林弘利。
まだみぬ未来で出会う運命にある男女二人のラブストーリーにパラレルワールドの概念を加えた純愛SF。
1986年に小中和哉監督によって映画化された。小林・小中、両名の(商業)デビュー作にあたる。
二人は8ミリ映画の同好活動を通しての既知(友人同士)であり(ただし小中は成蹊高の映画同好会の出身だが、小林は同同好会の外部協力者であった今関あきよしが主催していた映画サークルのメンバー)互いにジュブナイル愛好者としても親交があった(小林の方が年上)。
配給は松竹。製作は文芸坐。文芸坐の次世代育成枠によって出資制作された作品である。
2021年には再び小中自身によりリメイクされている。配給はエイベックス・ピクチャーズ。制作委員会方式の採用作品だが、制作幹事はエイベックスとプロダクションI.G(他の参加社として清栄コーポレーションとポニーキャニオン)。両社によるシネマプロジェクト「Cinema Lab」の第2弾作品にあたる(第1弾作品は本広克行&押井守の『ビューティフルドリーマー』、第3弾作品は上田慎一郎の『ポプラン』)。
実は小林いわく小中監督からもともと実写化を想定して書くよう依頼された作品であり、そのために小中監督は本作に対して(特に映画版のクレジットタイトルにおいて)原案名義を持つ。
おおむねの経緯としては「小中がコンペで制作権を勝ち取り映画を撮るにあたって設備や予算、やりたい映画のイメージなどをざっくりと小林に伝えて相談(いわゆる今で言うところのインディーズ育成枠での作品制作だったので新人監督にとってはムチャ、さらにSFをやるには無謀この上ないレベルで低予算だった事情があった)」→「小林が小中の出した条件にそってネタ出し&小林のネタ出しに呼応して小中もネタ出し(小林&小中によるブレスト)」→「小林&小中でブレストの内容を整理して話し合いながらプロット化」→「小林がプロットに沿って脚本を執筆」→「小中が脚本をもとに稿を重ねつつ映画化」→「コバルト編集部が聞きつけてメディアミックス打診」→「小林が映像化前の初期稿脚本をもとにノベライズ(この時に編集部が『脚本のメイン執筆者は小林で、小説を書いたのも小林』という認識をしたため、小説版の名義を小林の単著扱いとする判断をしてしまった。この事で小林は"原作者"という扱いになってしまい仰天する羽目になった)」→「小中が映画を公開(この時に小中と小林の判断により、小中に「原案」名義を付す)」といったところ。なので原案と原作の経緯や位置付けがとても厄介な作品である。
天体観測が趣味の高校生、昭雄はある日交通事故に巻き込まれたが頭を少し打っただけで奇跡的に軽傷で済んだ。しかしその日を境に一週間の間、何かを訴えるかのような視線の少女の夢を見るようになる。
ある日、夢の少女を電車の車窓から見かけた昭雄は駅のホームで彼女を捕まえる。振り向いた少女は昭雄に抱きつき涙を流すが、降車客にまぎれていなくなってしまった。
昭雄が家に帰ると、なんと自分の葬式が行われていた。昭雄は一週間前の助かったはずの交通事故で死亡したことになっていたのだ。訳の分からないまま昭雄は親友のSFオタク尾崎と出会う。昭雄の話を聞いた尾崎は昭雄はパラレルワールドへ飛ばされたのではないかと推理する。そしてこの世界では夢の中の少女が理沙という名前で、昭雄のガールフレンドなのだという。
昭雄は理沙の入院する病院を訪ねる。ふたりが生前シリウス流星群を見ようと約束していたことを知った昭雄は、理沙を病院から連れ出し彼女の夢を叶えようとするが……
キャストは86年版/21年版
主人公。天体観測が趣味の高校生。交通事故に巻き込まれたことをきっかけに見知らぬ少女理沙と出会い続け、彼女のいる自分が死んだパラレルワールドへ飛ばされてしまう。
事故にあった昭雄が夢の中で出会う謎の少女。パラレルワールドにおける昭雄の恋人。
体内で血液が生成されないという難病にかかっており、余命いくばくもない。
昭雄の親友。SFオタクだがリアリストな一面もある。パラレルワールドに飛ばされた昭雄に驚くもすぐに持ち前のオタク知識で事態を察知し、二人の『約束』を実現させようと協力する。
理沙の主治医。
- 松戸瞳:(86年版には登場せず)/高橋真悠
病院の看護師。ノリの軽いお調子者。本作の松戸一族(松戸一族に関しては原作者の項目を参照)で小説にもきちんと登場している(小説版では「松戸ひとみ」)。
コバルト文庫から書籍版を出すにあたって新井素子が初版帯の推薦文を担当した。
この時に荒井は本作に対して「とっても綺麗で、楽しくって、哀しくって、なんだか凄く懐かしい。これは、そう、思春期みたいなお話です」というコメントを寄せて大絶賛している。
そして新井は小林に、このままコバルト作家としてやっていく事を薦め、編集部にも小林を逃さぬよう厚遇する事を薦めた。
(余談になるが小林は新井が原作を務めた『グリーン・レクイエム』の映画版でも脚本を手掛けている)
本作の初出時「キネマ旬報」誌上において映画評論家より「少女がしみじみ美しい」と評価された上で「これは『尾道三部作』(大林宣彦)ですらも成し得なかった事」と手放しの絶賛を受けている。
(なお大林宣彦の『尾道三部作』とは、『転校生』『時をかける少女』『さびしんぼう』の三作のことで、どれも「思春期の男女の描写に定評のある(というか絶賛された)作品」である)