第一次世界大戦は全ての人を巻き込んだ。若き少年たちが不毛の野原で苦難と鉛に直面した。何のために?実現しなかった平和のために。
残された人々は、絶望的な現在からはるかに大きなものに目を向けた。イギリスの島々では自分たちが持っているものに目を向け、ドイツの中心地では自分たちが持てるものに目を向け、フランスの都市では自分たちが夢見ることしかできないものに目を向けた。
概要
Red FloodはHearts of Iron4の歴史改変大型MODの1つ。
同じく歴史改変MODであるKaiserreichのイベント内に登場する「Red Flood(赤い洪水)」という本を元に、「もし第一次世界大戦で誰も勝利できなかったら?」というもしもの歴史の世界を描いている。
ドイツを中心に我々の歴史でもおなじみの「社会主義」と、フランスを中心に「加速主義」という前衛的な思想が世界に広まっている。
普段の歴史改変作品では見かける事のない一次大戦~二次大戦期に活躍した芸術家らが政治家や革命家として名を連ね、UIもアール・デコ調に仕上がっており、ロマンや芸術、そして哲学的な思想に重点を置いた一風変わったMODである。
前史
日露戦争でロシア帝国が勝利し、そのまま史実同様の陣営で第一次世界大戦が開戦。
西部戦線は崩壊しフランスがドイツに降伏、そのままドイツの勝利で終わるかと思いきや、ドイツで社会主義革命が勃発しドイツは赤化。ロシアでも同様にロシア革命が起きるが、深い傷と引き換えに革命から生き延びた。
アメリカの非参戦により史実よりも長引いた戦争の傷、勝者のいない結果、そして大戦後の大恐慌は世界各国で経済崩壊や政治的混乱を引き起こした。
イデオロギー
Red Floodには様々な思想が登場するが、その中でも注意すべきなのが加速主義である。
なぜなら現実世界における加速主義とは意味が全く違うからである。
現実の加速主義は資本主義の拡大を推進し社会変革をもたらすというものだが、Red Flood世界の加速主義とは、ざっくり言えば政治的な左右を問わず、科学愛好的な性格で、反伝統主義的、超近代主義的な思想の総称であり、さらに個々の傾向に合わせた7つの下位分類に細分化されている。
革命的ナショナリズムと芸術とカリスマに彩られたフィウメ主義、科学とスピードと戦争賛美の未来主義、新たなナショナル・アイデンティティの創造を目指す国家再生主義、技術者による統治を唱えるテクノクラシー、アヴァンギャルドな感性と空想的社会主義の融合体となったシュルレアリスム、古い習俗や異教を近代性と掛け合わせる新民俗主義、科学の進歩と共産主義を通じた人類の変革を謳うフペリョート主義、これらが存在する。
その他にも主要なイデオロギーとして、無政府主義、前衛社会主義 、人民社会主義、修正社会主義、進歩主義、自由主義、保守主義、多頭制、専制主義、反動主義が存在し、これらにも加速主義と同様に下位分類が設定されている。
主要国家
アヴァンギャルド・フランス
このMODの看板にしてアヴァンギャルド国民戦線(FNAG)が率いる加速主義国家。Red FloodのRedの血の方。
第一次世界大戦での敗戦後、王党派であるアクション・フランセーズが一度は政権を握ったが、国民の溜まりに溜まった不満を受けてアントナン・アルトー率いるFNAGがエリゼ宮を襲撃し政権を握った。
「加速」と「ドイツへの復讐」を唱えており、NFではドイツ宣戦ルートとイギリス宣戦ルートがあるがAIは100%ドイツルートを選ぶように設定されている。
文字通りの芸術の国であり、閣僚にはアンドレ・ブルトンやジョルジュ・バタイユといったフランス前衛芸術の錚々たる面子が並ぶ。
ルート選択でヤク中人喰い快楽主義国家になったり、非現実になったり、文明発生以前の獣に戻って全世界の文明を破壊しようとしたりする。既に分かるようにこの世界のフランスはどう転んでも狂気枠である……が、こうした表現はアルトーらの史実における思想を誤解・曲解したものであり、それゆえ将来的に作り直されることが、開発から明言されている。
ドイツ社会主義レーテ共和国
このMODのもう一国の主人公。Red FloodのRedのアカの方。
第一次世界大戦後、史実では失敗に終わったスパルタクス団蜂起が成功を収め世界初の社会主義国家となった。それゆえ開始時の与党であるドイツ社会民主党は、この世界では崩壊しなかった第二インターナショナルの指導的立場を未だ保持している。また、軍事同盟「赤色戦線」をヨーロッパの社会主義諸国(デンマーク、ノルウェー人民国、ハンガリー、スロヴァキア、トランシルヴァニア)と結成している。ポーランド率いるインテルマリウムとも友好的関係がある。
しかし、その他世界各国は東プロイセンに逃亡したドイツ帝国を正当なドイツと見做している。
社会主義の国際的中心であり、正統派マルクス主義、フペリョート主義者によってロシアを追われたレーニンと彼の急進的思想、議会制民主主義を重視する修正主義派、ナショナリズムと社会主義の融合を掲げる勢力など、様々な潮流が渦巻いている。
数少ないまとも国家の1つで、ルートによってはあのゲッベルスが政権を握るが1848年の諸国民の春の再臨とロマン主義に基づくドイツ文化の復興、民主化(!?)するほどまともなのだが、政権の選択によってはキリスト教を禁止しゲルマン神話を信仰する宗教国家になってしまったりする。
イギリス
第一次世界大戦で勝利し生き延びたものの長引いた大戦の影響で経済が崩壊、さらにインドでの反乱も発生して植民地帝国が崩壊した。
現バージョンでは生き残った植民地やその残骸と自治領、そしてイタリアなどと共に「協商」陣営を構成している。
複数のルートがあるがいずれも民主主義で圧倒的まとも国家。きれいなイギリス、すごいぞイギリス!
ただし国内を立て直すため戦争できるまでが長く、宣戦される事も日米伊の一部ルートくらいでぶっちゃけ空気である。がんばれイギリス。
ロシア帝国
日露戦争に勝利し、ストルイピン改革も成功させ、第一次世界大戦ではドイツを革命に追いやり、ついにロシア革命までも跳ねのけて生き延びた……が、その中で受けた傷も大きく、ニコライ2世は大戦以前に暗殺され、その後継者であったアレクセイ2世、および宰相ストルイピンも大戦終結前後に亡くなってしまう。これを引き金に起きた革命と内戦に勝利したものの帝国は疲弊、広大な領土は統治しきれず、本国の他に9つの地方軍閥(ノヴォロシア総督府、バルト総督府、フィンランド大公国、南東連合、カザン総督府、トルキスタン総督府、シベリア総督府、天威、極東総督府)に分裂してしまった。
摂政アレクサンドル・コルチャークの下で、今のところ帝国はこれら軍閥の手綱を握っているものの、いつ離反されて崩壊してもおかしくない状態にある……
ちなみに、史実で革命中に起こったロマノフ家の虐殺は発生しておらず、ニコライ2世の娘たちなどは未だ存命である。
イタリア王国
第一次世界大戦の戦勝国の一国。イギリスの経済崩壊に巻き込まれてこちらも経済が崩壊。
更に政治は腐敗し南北の格差にも悩む中、イタリアを狙うフランスとフィウメという加速主義国家に挟まれイタリアの明日はどっちだ状態にある。
確定でフィウメから宣戦され加速主義国家のおやつとなってしまうが、プレイヤーの手で生き延びさせれば専制主義ルートではイタロ・バルボ、自由主義ルートではフランチェスコ・サヴェリオ・ニッティと共にヨーロッパ全土をぶん殴るバーサーカー国家にもなる。
ポーランド共和国
陣営「インテルマリウム」の盟主であり、「国家再生主義」の発祥地である加速主義国家。
リトアニア、ベラルーシ、ウクライナと同盟関係である。社会主義ドイツとも割と仲が良く、互いの国家と国境を承認しあい、ダンツィヒの独立を取り決めたワルシャワ条約が締結されている。
史実と異なりユゼフ・ピウスツキは1936年時点で未だ存命であり、大統領を務めているが、ゲーム開始から数ヶ月でこの世を去る。これが権力闘争の引き金を引き、ピウスツキのサナツャ体制の維持を求める勢力、異教の復興を目指す勢力、民主派、軍部などが、次の支配者の地位を争う。
いずれかの勢力がロシアを統一すると、ポーランド=ロシア間で「第二次ヴィンケルリート戦争」が勃発し、東欧の覇権を争うことになる。
大日本帝国
皆さんご存知我らが大日本帝国。
大抵の歴史改変MODではボロボロの欧米諸国に対して得をするポジションだが、この世界では初手日露戦争敗北をかまし昭和天皇は暗殺され、秩父宮雍仁親王が即位。昭和天皇が懸念していた超国家主義的政治を推し進め、ボロボロの経済を誤魔化すために中国に進出するも失敗。社会主義を掲げる革命日本との内戦に突入する。
ただし、プレイヤーの手で3ヶ月以内に中国を屈服させることが出来れば、内戦を回避することが可能。
ちなみに革命日本のトップはあの大川周明で、更に「くたばれ天皇」というすごい名前のNFが存在する。
アメリカ合衆国
史実とは違い第一次世界大戦に参戦しておらず、戦争による傷はないが国内外の問題に不介入を徹底した結果、大恐慌による経済崩壊やダストボウルに苦しめられている。
ほとんどが民主主義ルートだが、加速主義ルートも存在する。ただしこちらの加速主義はフランスやフィウメのものとは違い、技術者による統治を唱えるテクノクラシーであり"加速主義国家としては"まだまともな部類に入る。
また、歴史改変MODのお約束で崩壊ルートも用意されている。
重要国家
オーストリア帝国
中欧とバルカンに跨るハプスブルク家の大帝国……だったものの残骸。
史実では暗殺されたフランツ・フェルディナントが、本来の第一次世界大戦のきっかけであるサラエボ事件が起こらずに大戦が勃発した為存命し、皇帝に即位している。
しかし二重帝国は崩壊しており、チェコとスロベニアは保護に成功したものの、ハンガリーとスロバキア、トランシルヴァニアは共産化し赤色戦線に加盟した事でドイツとの挟み撃ち状態である事に加え、国内にはびこる社会主義者や大ドイツ主義者に悩まされている。オーストリアの明日はどっちだ。
後継者であるカール1世が帝国を再建するまともルートもあるが、選択によっては母が存命で史実よりマシなちょび髭が政権を握って赤色戦線を粉砕し大ドイツ主義を実現したり、この世界では貴重なリバタリアン資本主義者(今のアルゼンチン大統領のような経済思想だと思えばいい)が連邦化改革を推し進め、大オーストリア合衆国やドイツ連邦を建国したりする。
前述の通り赤ドイツの方にはゲッベルスがいる為、ルートによってはドイツ統一戦争で史実のナチス幹部同士が争い合うことになる。
フィウメ(カルナーロ=イタリア執政府)
詩人ガブリエーレ・ダンヌンツィオが建国した小国。史実では数年でイタリアに併合されたが、この世界では加速主義者の隔離場所やユーゴスラビア、赤化したハンガリーとの緩衝地帯という名目で残された。
淫夢で例えるならば東方(イタリア)で生まれた国家(クッキー☆)ということになる。
「フィウメ主義」と「未来主義」の発祥地であり、フランスと「太陽連盟」という同盟を組んでいる。
単体で見れば弱小国だが、フランスという強い仲間を引き連れてイタリアへ宣戦布告する。
スペイン共和国
国名だけ見るとバニラと変わらないが、史実より遥かに愉快なキャラクターたちがプレイヤーを待ち受けている。
初期元首があの(皆さんご存じ)フランシスコ・フランコの弟であり、しかも兄フランシスコとは正反対の思想。兄が右派(国粋派)で弟が左派(共和派)なのは皮肉。
当然他にも面白い人間はおり、レルーという眼鏡をかけたハゲの共和派のおっさんがいる。このレルー、かなりの(子供じゃないが)問題児で、一言で言うなら急進的なジャコバン派、つまり過激派。
肝心のスペイン内戦は言うとこの世界でも確定で起きるああ逃れられない!(カルマ)
そして、内戦が長引くとホセ・ディアス率いるスペイン共産党に政権を奪われる。
国民戦線
スペイン内戦で共和派に反旗を翻した反乱軍。史実の国粋派担当及び革命家たち。
原作(カイザーライヒ)の原作(史実)では軍部が中心だったが、RFでは哲学者や知識人、新しく生まれた中産階級が中心。
彼らの目的はうわ、古くっせ!な共和国を転覆し新たなスペイン国家を作り上げることである。
再生運動、ファランへ、JONS(無駄に正式名称が長い)が主要ルート
ダリが指導者になれたりする
イベリア・コミューン
スペイン内戦で蜂起する3つ目の勢力。共和国にも国民戦線とも対立するアナキストたちである。
プロイセン
正式名称はドイツ帝国であるが、その領土は東プロイセンのみ。ドイツ革命から逃れた保守派、自由主義派が集まっている。革命を認めない諸国からは唯一のドイツ正統政府とみなされており、現実でいうところの中華人民共和国に対する台湾のようなもの。世界大戦以来、未だにルーデンドルフが軍事独裁を続けている。
ノルウェー王国、アイスランド王国と共に、スウェーデン主導の反社会主義の軍事同盟「ビルケネイド(白樺条約)」に参加しており、また、反革命の同志ロシア帝国とも協力関係にある。
ユーゴスラヴィア国
西はクロアチア、アドリア海から東はブルガリア、黒海に至る、南スラヴ人の土地をほぼ統一したバルカンの地域大国。ただしブルガリア地域はトラキア自治区として半独立している。
「ヴォジャ(指導者)」ヴラディミル・ドヴォルニコヴィチの指導の下、王制の打倒、ブルガリアとの連合を成し、統合ユーゴスラヴ主義に基づいた国家建設が進められている……が、政権内部には反対派も少なくなく不安定。加速主義国家ではあるが、フィウメとは領土問題があり関係が悪い。
トラキア自治区はブルガリア農民同盟を与党とする穏健な社会主義政府。第一次大戦末期の王制廃止から農民同盟のアレクサンダル・スタンボリイスキが大統領であり続けており、その長期政権ぶりから橙色のツァールと揶揄されている。
ゼルトロシア
国名は「黄ロシア」を意味する。正式名称はロシア共和国。ロシア革命を起こしたものの敗れた共和派が、沿海州や満洲を拠点に建てた国家であり、そのため中道派の立憲民主党から極左のナロードニキやロシア社会民主労働党(ボリシェヴィキ)に至るまで、様々なイデオロギーを掲げる勢力が跋扈している。
開始時はアレクサンドル・ケレンスキーが大統領を務めているが、日本が内戦に陥ると、経済的に日本に依存しているゼルトロシアでは経済危機が発生し、ケレンスキーは辞職を求められるようになる。
そこから権力闘争、革命、崩壊、内戦…… 様々な事態が起きたり起こらなかったりした先には、アナキズムから、議会制民主主義、そして全体主義に至るまで20以上のルートが存在している、とんでもない闇鍋国家である。
ちなみに、ロシア社会民主労働党(ボリシェヴィキ)は史実と異なりアレクサンドル・ボグダーノフ率いるフペリョート(前進)派が主流となっており、レーニンを支持した第二インターナショナルから追い出されたため、急進派のための第三インターナショナルを結成している。つまり彼らが加速主義の一派である「フペリョート主義」の源流である。
カフカース協会
ロシア共和派の残党の1つ。ジョージアとアゼルバイジャンを拠点としている。
ゼルトロシアと異なり、誰が政権を握っても加速主義になる過激派のごった煮国家である。
ルートによっては、パラノイアの代わりにアメリカ的生産至上主義に取り憑かれフペリョート主義者と化した筆ヒゲが登場する。
中華民国
北部には北洋軍閥の後継者争いに勝利した閻錫山率いる北洋政府が存在し、南部には南京政府を筆頭とする国民党系の軍閥の連合が結成されている。
北洋政府は日本との戦争状態からゲームが始まり、大敗すれば閻錫山が失脚し内戦を引き起こす。南部は統一性を欠き、しばしばその主導権を巡って戦争に発展することもある。
また、西部の四川省は加速主義に類される中国青年党の基盤となりつつある。
連合州
インド内陸部に残った、爆散した英領インド帝国の破片1つ。
ガリポリでの失敗を咎められ、左遷されたウィンストン・チャーチルによって支配されている。酒に溺れ人種思想こじらせてしまい、現地人を軍隊をもって弾圧して秩序を維持する鉄拳政治を行っている。
改心して民主化したり、あるいはもっと過激な圧政を敷きインド統一を目指したりできるが、道を踏み外すとチャーチルは暗殺され、彼以上に抑圧的な、Red Flood内でもトップクラスの破滅的国家が爆誕する。
関連イラスト
表記ゆれ
赤潮(中国語表記)
関連タグ
「もし第一次世界大戦でドイツが勝利したら?」をテーマとするこのMODの歴史の分岐元である元祖大型歴史改変MOD。
「もし第二次世界大戦でドイツが勝利したら?」をテーマとするこのMODと並んでHoI4大型MODに名を連ねる歴史改変MOD。
このMODの冷戦世界を描いたMOD
関連リンク
Red Floodは「面白い人」を選ぶカタログでもなければ、「もし○○が第一次世界大戦に勝ったら」というジャンルのパロディでもありません。
Red Floodは何よりもまず、長引く現代性の危機をテーマにしたMODです。
私たちは戦間期の前衛的な実験の後に「秩序への回帰」がなかったシナリオ、つまり、地球全体が近代の死と失敗に直面し、答えを出さなければならないシナリオを提示しています。
アントニオ・グラムシは、「古い世界は死につつあり、新しい世界は生まれようともがいている:今こそモンスターの時代だ」と言いました。
歴史学において知られる「極限の時代」は、現実の世界で(悲劇的に、あるいはありがたいことに)断ち切られるまで大衆の意識を支配していた千年王国思想に新たな力を与えていました。
私たちの言葉、物語、登場人物、演出は、このような考え方を反映したものを目指し、ファンの皆様に楽しんで誇りに思っていただけるようなものをお届けしたいと考えています。