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アジョシ

あじょし

『アジョシ』(あじょし)とは、2010年に公開された韓国映画。
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ストーリー

 町の片隅の古ぼけたビルの一角で、チャ・テシクは質屋を営みながら世捨て人のように暮らしていた。周囲と打ち解けようとしないテシクは、近隣の部屋の住人から得体の知れない存在として恐れられ、避けられていた。
 ただ、彼の隣りの部屋に住んでいるソミだけは別だった。父親がおらず、クラブのダンサーとして働く母親と二人きりで暮らすソミは、テシクと同じく孤独な存在だった。母親は娘よりも覚醒剤のほうが大切なジャンキーだったし、その現在の恋人はどうにもならないゴロツキで、ソミのことなどどうでもいいと思っているのは明らかだった。ソミはテシクをアジョシ(おじさん)と呼び、齢の離れた友だちとして慕っていた。
 ある日のこと、所用があって外出したテシクは、帰り道でソミが親子連れとトラブルを起こしている場面に出くわした。駆けつけてきた警官たちに、怒り狂った母親は、この小娘がカバンを盗もうとした、とまくしたてる。親御さんはどこにいるのかな、とたずねる警官たちを前にして答えに窮したソミは、目の前で立ち尽くすテシクに気づく。視線で助けを求めたソミだったが、テシクはきびすを返し、その場を立ち去ってしまった……。
 その夜、ソミはテシクを責めた。おじさんも、私が恥ずかしくて知らんぷりしたんでしょ、と。言い返せずに黙り込むテシクに、ソミは言った。
 「でも嫌いにならない。おじさんまで嫌いになったら、私の好きな人がいなくなっちゃう」
そのセリフに、自分の行為の罪深さを自覚するテシクだったが、詫びを言ういとまも与えず、ソミは路地の闇の奥へと消えてしまった……。
 蹌踉と部屋に帰りついたテシクを、いかにもヤクザ然とした2人組が待ち構えていた。何者だ、と問うテシクに、男たちは気味の悪い笑みを浮かべながら、バッグを返してもらおう、と言う。隣りの女が預けに来ただろう、と。
 実は、ソミの母親はヤクザ組織から覚醒剤入りのバッグを奪い、それで一攫千金を狙っていたのだ。男たちは覚醒剤を取り返すと、ソミと、惨たらしく痛めつけられたソミの母親を連れ去っていく。無我夢中で追いかけるテシクだったが、見る見るうちに2人を乗せた車は、闇の中に消えてしまった……。
 一方、組織を仕切る残忍凶悪なマンソク兄弟は、テシクを利用して、かねてから計画していた下克上を実行に移すことにする。ソミとその母親の身柄と引き換えに、テシクをまんまと麻薬の運び屋にし立てた上で、取引現場を通報し、以前から目の上のたんこぶだった組織のボスを排除してしまおうというのだ。そして、さらに恐ろしいことに、彼らは組織から盗みを働いたソミの母親を処刑し、内臓を抜き取って、テシクの使う車のトランクに押し込んでおいたのだ。かくして邪悪な罠にはまったテシクは、凶悪殺人犯として警察に連行されてしまう。警察はテシクの身元を照会したが、どういうわけか、1998年から2006年までの個人情報が彼の経歴からはすっぽり抜け落ちていた。
 その頃、刑事に取り調べられていたテシクは、相手の一瞬のスキをついて昏倒させ、まんまと警察署から脱出してしまっていた。その手並みの鮮やかさに驚き、何者なのかといぶかしむ刑事たちの元に、途方もない情報がもたらされる。テシクはかつて、韓国軍特殊部隊所属の秘密工作要員だったのだ。主任務は暗殺。常人には絶え難い、過酷な訓練を修了し、その骨肉に殺人・破壊技術を叩きこんだ文字通りの殺人マシン――それがテシクの正体だった。
 街の闇の中に紛れたテシクは、かつて習い覚えた荒っぽいやり方で、組織犯罪の闇の奥へと切り込んで行く。その心の中にあるのは、かつて添い遂げようと誓い合った、今は亡き恋人の面影。そして、理不尽な運命に翻弄され、ひとりぼっちで震えているだろうソミの姿。
 もう二度と、大切なひとを失いたくない――その思いを胸に、テシクはひとり、巨大な暴力組織へと闘いを挑んで行く……。

作品解説

 本作品は、韓国の人気スター・ウォンビンが軍除隊後に出演した2作目の映画にあたる。
 これまで、「国民の弟」と呼ばれ、初心で純真な青年の役を多く演じてきたウォンビンが、そのイメージを覆すような「タフで孤独な男」を熱演したこと、またその凄絶なバイオレンス・アクションによって一躍話題となった。また、作品の中で重要な役どころとなるソミ役には、カンヌ国際映画祭で絶賛された『冬の小鳥』(ウニー・ルコント監督、2009年)のキム・セロンが配され、まだ10歳とも思えぬ堂々たる迫真の演技を見せた。
 監督のイ・ジョンボムは2006年に『熱血男児』で監督デビュー。監督第2作の本作品で、その地位を確固たるものにした。その卓越した映像センス、血湧き肉踊る迫真のストーリーテリングは圧巻の一言である。
 韓国バイオレンス映画ならではの凶暴な暴力描写は凄惨の一言であり、銃・ナイフは無論、手斧まで繰り出される激烈なアクション・シーンに目を奪われることは必定である。特に、テシクの戦闘テクニックは非情かつ残酷なもので、「ひとりの敵をメッタ刺しにして他の連中をドン引きさせる」「ナイフを肩口に突き刺してグリグリえぐる」などこれまでのウォンビンのセルフイメージが完全崩壊するような破壊力に満ちている。これは監督の意向によるもので、特に流れるような徒手格闘・ナイフファイトはフィリピンの格闘技「カリ」やインドネシアの格闘技「シラット」、イスラエルの軍隊格闘術「クラヴマガ」などを取り入れている。
 また、「韓国社会の暗部」にスポットを当てた社会派作品としての側面もあり、特に麻薬密売の手口の描写などは実にリアリティがある。また、邪悪なヤクザ組織に食い物にされる子供たちの悲惨な境遇は涙なくしては見られないほどで、特にソミと仲良くなった少女を見舞う過酷な運命は観客に強いショックを与えるだろう。それだけに、作品後半でテシクがヤクザたちを虐殺するあたりでは、思わず「いいぞ、もっとやっちまえ!」と叫びたくなるようなカタルシスが炸裂する。とにかくヤクザたちが凶悪残忍な連中ばかりなので、同情の余地もないのである。このあたりの割り切り方も、本作を良質なエンターテインメントにしたてている要因のひとつではないかと思われる。
 

登場人物

  • チャ・テシク(ウォンビン)

 元韓国軍特殊部隊員。暗殺などの秘密工作などを行う部隊に所属し、数多くのミッションを成功させてきたが、2006年に敵に身元が割れて襲撃され、最愛の恋人を失う。その後、韓国某所で世捨て人同然の暮らしを送っていたが、隣室の“友人”ソミの危機に、かつて骨身に叩きこんだ闇のスキルを駆使して戦いを挑む。

  • ソミ(キム・セロン)
 テシクの隣室で、母親とともに暮らす少女。薬物中毒の母親には構ってもらえず、学校でもいじめられるため、いつもひとりぼっち。同じように孤独を抱えて生きるテシクについて回り、齢の離れた友人として慕っている。いつも、ミッキーマウス型の携帯音楽プレーヤーを身に付けている。

  • ヒョジョン(キム・ヒョソン)
 ソミの母親。街のナイトクラブでダンサーとして働いているが、経済状態は苦しい。薬物中毒でもある。一攫千金を狙って、付き合っている男と共に組織から麻薬を奪うが、その制裁として殺され、臓器を抜き取られて売り飛ばされるという悲惨な最期を遂げる。

  • マンソク(キム・ヒウォン)
 犯罪組織の中堅幹部。儲けのためならどんなアンモラルなことでもやるという真正の外道で、麻薬密売から児童の人身売買、臓器の闇取引まで手がける。

  • ジョンソク(キム・ソンオ)
 マンソクの弟。兄に負けず劣らずの外道でサディスト。ブランド物を身につけるのがお気に入り。

  • オ・ミョンギュ(ソン・ヨンチャン) 
 マンソク兄弟の属する組織の首魁。マンソク兄弟を嫌っている。

  • ラム・ロワン(タナヨン・ウォンタラクン)
 マンソク兄弟が雇っているベトナム人ボディガード。カランビット(東南アジアの伝統的な戦闘用ナイフ)の使い手。無口で何を考えているのか分からないところがある。ちなみに、韓国語は話せず、マンソク兄弟とは英語で会話している。

  • キム・チゴン(キム・テフン)
 麻薬課刑事。オの組織の麻薬密売の現場を押さえるべく日夜奮闘する。キレるとかなり怖い。

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