概要
ギモ中尉とはフィリピンの怪談や都市伝説で語られている人物で、その正体はバナイ島南部イロイロ州の町ドゥエニャスにおける、人間社会に潜伏しており社会的に高い立場で裕福であることが多いとされる吸血鬼や食人鬼「アスワング」の一族の筆頭である。
なおかつての宗主国の言語スペイン語ではテニエンテ・ギモ(TenienteGimo)と呼ばれており、フィリピン軍の中尉という立場であったギモ・サルディバル氏の一族がアスワングであると噂されていたが、自らには強い権力があることから特に否定していなかったという話が前提としてあると伝わる。
物語
女子大生のマリア(クララ)は、名士として知られるギモ中尉の娘と同級生で、「ドゥエニャスの町にある自宅に泊まりに来ないか」と誘われた(複数人が誘われるというバリエーションもある)。
ドゥエニャスの町に着いたマリア達はギモ家の人々に温かく迎えられ、娘と一緒の部屋で寝ることになった。
しかしマリアは慣れない場所でなかなか寝付けずにいたところ、真夜中に関わらず来客がたくさん訪れる音が聞こえてきた。
一階では何かのパーティが開かれているようで、部屋の中を覗くと来客たちはナイフを持ち円座になっていた。
マリアが耳をすますと、なんと集まっているのは食人鬼アスワング達であり、彼らは「マリアを殺して食べよう」と相談していたのだった!
さらに「今、人間の女は娘と寝ており、腕時計(アクセサリー)をしているのが目印だ」という会話が聞こえてきたので、マリアは自分の腕時計を寝ているギモ中尉の娘に付けて布団を被せ、自分も布団を被って寝たふりをした。
するとギモの娘の頭を殴る音がして、アスワング達に連れて行かれていったのである(複数の友人で訪れたバージョンではマリア以外は犠牲になった)。
マリアは隙を見てこの恐ろしい屋敷から逃げ出したが、娘が殺されたことに気付いたギモ中尉は怒り狂い、一族を率い追いかけてきた(朝まで気付かれず逃げ通せたとも)。
必死に逃げるマリアだったがもう少しで追いつかれそうになり、もう駄目だと思ったところ幹線道路にたどり着き、そこを通った自動車に乗せてもらい命拾いしたのである。
その後マリアの証言によってギモ中尉の家に捜査の手が入ったが、そこには誰もおらず一族の居た痕跡も全くなくなっていたという(今でもどこかで暮らしているというバリエーションもある)。
余談
- アスワングは古くから先住民に伝承されていたが、一説によるとスペイン人が植民地支配の手段として、近隣の住民同士を人間不信にするために、アスワングかもしれないと吹き込んだといわれる。
- 植民地化された過去がある国々では、上流階級や安定した収入のある公務員の正体は、吸血鬼などの魔物であるという東アフリカにおける「ワジマモト」同様の都市伝説が語られやすいのだという。
- 東南アジアでは、ラクササ(羅刹)の子供と仲良くなった子供が、一緒に寝ているところを親に食べられそうになり、目印を押しつけて助かるという民話が古くから伝わる。
- 西欧の童話においてもオウガの子供に目印を押しつけて助かるというものが知られている。