概要
スークヤント(Soucouyant, Soucriant)とは、中南米のカリブ海一帯で伝承される、昼間は普通の老婆に見えるが夜になると皮を脱いで火の玉に化身し、人を襲うといわれる黒魔術を得意とする吸血魔女。
かつての宗主国が用いていたフランス語の人狼という意味から転じた、人外に化身して害を成す者の総称であるルー・ガルーと呼ばれる魔物の女性であるとされ、スークヤンやスクヤンとも表記される。
夜になると脱皮し、皮はすり鉢の中に隠して犠牲者のもとに訪れるといわれ、身体が不定形の火の玉なので、鍵穴やひび割れなどのどんな小さな隙間からでも家の中に侵入してくると恐れられた。
血を吸われた腕や首、脚などの柔らかい部位には黒いまたは青い跡が残り、血を吸われすぎたものは命を落とすか、同じスークヤントに転化してしまうという。
吸った血はセイバペンタンドラ(綿の木)と呼ばれる熱帯樹木に宿る悪魔バジル(Bazil)に捧げ、強い魔力を得るともいわれる。
このような恐ろしい魔物であるが、たくさんの米粒や砂を家の周囲や村の十字路に撒いておくと、それを数えなければ気が済まない気質があり、その間は襲われないと伝わっている。
また皮を隠しているすり鉢を見つけ出し、中に魔除けの粗塩を撒くことで元の姿に戻れなくして退治することができるともいわれている。
ちなみにスークヤントの皮自体が強力な呪物であり、貴重な黒魔術の素材として用いられる。
余談
- 中南米広域で同様な伝承が知られ、ガイアナ、ベリーズ、ジャマイカではオル・イグ(Ol' Higue)やオレ・ヘイグ(Ole Haig)、スリナムではアセマ(Asema)、バハマ、バルバドスなどの英語圏では単に魔女という意味のハッグ(Hag)とも呼ばれる。
- 起源はアフリカのヨルバ族の伝承に登場する、動物に化身する魔女アジェ(Aje)であるという説がある。
- 妖怪漫画家水木しげる氏は『世界の妖怪大百科』などおいて、ルーガーという名でニューギニアの魔女として、『ぼくは妖怪博士』では西インド諸島のゴキブリのような妖怪として紹介している。