概要
原題は『Breakfast at Tiffany’s』。タイトルは「(世界的宝石ブランドである)ティファニーで朝食を食べるようなご身分」という比喩表現。実際のティファニーには2017年までダイニングスペースは存在しなかった(その後、本作の影響により設置されている。)。
1958年にトルーマン・カポーティによって発表された。邦訳は1960年の龍口直太郎版と、2008年の村上春樹版がある(いずれも新潮社刊)。
1961年にパラマウント映画によって映画化された。監督はブレイク・エドワーズ。主演はオードリー・ヘプバーンで、主題歌「ムーン・リバー」も歌っている。
共演のジョージ・ペパードは本作の演技が評価され映画スターの仲間入りを果たした。
原作は、作家ポール・バージャクの目を通して、19歳の女優、ホリー・ゴライトリーの若さに満ちた自由奔放な生き方を描き出した物語である。
ホリーは秘められた過去を持つ謎めいた少女で、彼女にとっての理想の場所が「ティファニーみたいなところ」であり「どれほど嫌なことがあっても、そこに行けばとたんにすっきりできる」「いつかティファニーで朝食をとるのが夢」なのだと語る。そして、最後にはブラジルへと旅立っていくが、やがてポールへの手紙も途絶え、行方不明となってしまう。
しかし映画版では、主演のヘプバーンに合わせてホリーの設定や物語の展開が大きく改変され、ホリーとポールの恋愛劇となっている。ホリーがポールと結ばれるラストを見たカポーティは、椅子から転げ落ちるほど驚いたという。
余談
- ホリー役は、原作者であるカポーティの希望により、当初はマリリン・モンローにオファーが行われていた(カポーティはモンローと交流があり、素顔の彼女の魅力を知る一人だった。)。しかしセクシー女優と呼ばれることにうんざりしていたモンローは、現代で言う援助交際で生活しているホリーの設定を嫌い、辞退してしまう。このため新たにキャスティングされたのがヘプバーンである。彼女に合わせて書き換えられたシナリオが、カポーティを驚かせたのは上記の通り。
- 映画ではホリーがティファニーのショーウィンドーを眺めながら、コーヒーとデニッシュの朝食をとるシーンが作られたが、オードリーはデニッシュが大嫌いで、このシーンを演じることは非常に苦痛だったという。
- 劇中でホリーとポールは、ティファニーでお菓子のおまけの指輪にイニシャルを刻印してもらう。この場面は実際のティファニーで撮影されたが、当初ティファニーは保安上の問題から協力を拒否した。そこで急遽、ティファニーの全店員を俳優協会に登録し、出演してもらう形で撮影に漕ぎ着けた。ホリーとポール、そして彼らに直接応対する店長以外はすべてティファニーの実店員である。
- 作中ではユニオシという日本人が登場する。原作小説では「チビのジャップ」呼ばわりされる程度だが、映画ではチビに加えて眼鏡に出っ歯、おまけに性格は神経質でけたたましいと、日本人への偏見丸出しのキャラクターである。公民権運動が盛り上がってきた時代においてのこの描写は、後々作品の汚点として取り沙汰されることになった。
- ユニオシを演じたミッキー・ルーニーは子役から鳴らした名優だが、彼も「中国人には好評だったよ」とコメントするなど、当時の民族や人種差別に対する意識の低さが垣間見えるものとなっている。
- 原作は1955年から執筆が始まり、1958年に発表された。1943年のニューヨークを舞台に、自由奔放に生きる女性主人公を描いた作品であり、強く全世界に刻まれた世界大戦の凄惨な記憶や、凄惨な事件、ウーマンリブ運動等の女性解放運動を背景として、ブラックユーモアや皮肉を意識した描写や釈明だったとも考えられる。