ヒジャーブ
ひじゃーぶ
イスラーム女性(ムスリマ)が着用する薄絹地の服。「へジャブ」などと表記されることもある。
頭を覆う頭巾状の衣服が特徴。チャドルやブルカと比べて、戒律を守りつつ活動的かつ様々な気候に対応できることもあり、最もイスラム教徒に広く受け入れられている衣服である。
宗教上の理由で着用するものであることから国によっては政教分離などの観点から公での着用を禁止しており、度々論争の種などになる。
本来は男性を劣情させることを防ぐためのものだが、お洒落をしたいという女性の感情を完全に防ぐには至らず流行りの色、柄、生地などがシーズンごとにあったりする。
イランにおいては髪を一部見せてお洒落を楽しむ女性の姿は珍しいものではなく、あまりに多いので街を巡回する宗教警察も指導あるいは逮捕はほとんどせず、時折見せしめに行う程度となっている。
イスラム教において女性の肌の露出を戒める根拠は以下になる。
コーラン
- 「外に出ているもの以外、陰部と胸などを覆い隠す」(第24章31節)
- 「人前に出る時は長衣を身に纏うよう」(第33章59節)
ハディース
- 「成人女性は手と顔以外を見せてはいけない」
以上を典拠として、またアラブ人社会では女性の頭髪が美しいとされてきたため、頭髪をすっぽり隠すヒジャーブは広く信徒の間でふさわしい装束であると受け入れられてきた。
しかし、「外に出ているもの以外」「長衣」が何なのか、「手と顔」がどの範囲を指すのか、預言者ではあるが一信徒に過ぎないムハンマドの言動をどこまで厳密にとるかといった解釈や判断は時代や地域、信者ごとに違い、中央アジアを中心に頭髪を隠さない地域のイスラム教徒も珍しくない。さらに「手と顔」どころかブルカのように全て覆い隠すことが正しいとされる地域もあり、唯一正当な装束というのは存在しない。
ヒジャーブ自体、19世紀ごろ登場した比較的新しい装束であり、それまでは各地の伝統的な衣装に見られる帽子などがその代用を果してきた。
また、解釈によっては「髪の毛が風に靡いて揺れることが男の情欲を誘う」との理屈により、実際に髪の毛が覆われていなくても、硬くまとめていれば問題ないとする人々もいないわけではないが、地中海世界の影響下にあるパレスチナやシリアなどに居住する敬虔な女性が、長髪を隠さずおろして過ごすことも多いため必ずしも一定の市民権を得ているわけではない。
左右問わずイスラム教への反感が強い欧米社会などでは、イスラム文化圏の女性抑圧と前時代的精神の象徴として、ヒジャーブの着用を禁止することさえあるが、しばしば当のムスリマの自由意思に基づいて着用するケースを無視することも多く反発を受けている。
コスプレへの転用
日本のアニメや漫画における美少女の髪の毛は、ディズニーなどの他国の作品に比較して、
①髪の毛の本数がギザギザで省略され、平面的である
②基本ベタ塗りである
③ピンクや水色などの現実離れした派手な色合い
④現実の物理空間で再現することが困難な異形の髪型
が常であり、ウィッグなどで表現する場合に大きな違和感を伴う場合も多い。
こういった髪の毛を原作通りに再現する場合に、意外にもヒジャーブ、もしくはそれを流用した布類との相性が良い。
そのため、マレーシアやインドネシアなどでは、コスプレを楽しむムスリマも多く、中には法学者からのお墨付きをもらって活動しているレイヤーもいる。
近年は人気のアニメ作品が少年漫画ベースからラノベベースにシフトしていることもあり、スカートの長いキャラクターが増えている現状もあるため、数年前に比べても格段にムスリマのコスプレ趣味へのハードルが低くなっている。