誘導
日本の競走馬→フラガラッハ(競走馬)
概要
フラガラッハ【Fragarach】は、アイルランド(ケルト)神話の神・ルーの持つ剣。
神話物語群の一つ『トゥレンの子らの最期』にて、ルーが有していたマナナン・マクリルの武具の一つとして言及されている。
「そして彼(ルー)は傍らにマナナンの剣たるFreagarthachを佩いていた。それより生き延びる者を傷つけたことなく(=傷つけられた者は生き延びられない)、いまだ戦いや争いの場で抜き身にならぬその剣は、これを見て対峙した者すべてに産婦ほどの力だけを残す(=それより強く見えなくなる)だろう」
(The Atlantis 第四巻[1863年] 163Pより)
上記のようにゲール語写本では【Freagarthach】などのスペルで表記されている。
(Freagarthachはアイルランド語「Freagrach(回答者、責任者)」の異綴形と思われる)
英訳ではアンサラー【Answerer(回答者)】や【Retaliator(復讐者)】と解釈されている。
記述の変遷
1863年に『トゥレンの子らの最期』の完全な英訳を最初に発表したO'Curryは【Retaliator】と英訳した。
その後、Joyce(1879年)の「Old Celtic Romances」では【Answerer】と英訳され、現在ではこちらの訳が広く採用されている。
20世紀初頭までは
名前:Freagarthach
英訳:Answerer、Retaliator
権能:傷つけられた者は生き延びることができない。
これを見たり対峙した者は(死の病や産褥の女のように)力を失う。
という、O'Curryらの英訳版に沿った表記が見られた。
しかし1911年のRollestonによる『Myths & Legends of the Celtic Race』では
名前:Fragarach
権能:どんな鎧も切り裂くことができた。
という表記になっており、この年代以降、Rolleston版のフラガラッハの設定が広まっていく。
(Rollestonは、同書内で「(1910年に発表した)自著に『トゥレンの子らの最期』の完全版がある」と言及しているのだが、そちら(「The High Deeds of Finn」)ではフラガラッハの箇所には「剣」としか書かれておらず、彼が何からこのスペルと設定を引用してきたのかは不明瞭)
Rolleston(1911)版は英国、米国、そして『神話伝説大系』の一冊として日本でも出版されており、この1929年に八住利雄によって和訳されたものが、日本におけるフラガラッハ(回答者)が紹介された最古級の例と思われる。
和名例:
回答者(八住:1929)
応酬丸(三宅:1978、井村:1983)
報復するもの、返答するもの(建部:1997)
応答丸(鶴岡:2000)
応えるもの(池上:2011)
答える者、報復する者(新紀元社:2016)
このほか、日本では「ひとりでに鞘から出て敵を討つ」という自律設定が広まっているが、これは1997年に出版された、神話伝説の武器等を紹介する『聖剣伝説 Truth In Fantasy XXX』における記述が、人口に膾炙した要因ではないかと考えられる。
(この設定に最も近いのは「アッサルの槍」であるが、同書がこの槍とフラガラッハを混同したのか、あるいは同書に明記されていない参考資料があるのかは不明瞭)
このように、フラガラッハにまつわる記述は様々であり、資料によって差異があることには注意が必要である。