概要
第二次世界大戦中にドイツ軍が開発した、無線誘導式のグライダー爆弾。
ルールシュタール/クラマーX-1が正式名称であるが、あまり使われていない。
1938年よりSD1400徹甲弾を基にベルリンで開発が始まり、1942年には飛行試験を開始。1943年には晴れの日が多いシポント(イタリア)に試験場が移動された。
誘導方式は目視無線誘導で、高高度で母機から投下。母機は着弾時には目標の真上にいられるよう位置を保ち、爆撃照準機でフリッツXを追尾する。母機からの無線信号により安定翼のスポイラーを操作し姿勢を制御する。
Hs293との混同から「元祖空対地ミサイル」と言われる事があるが、フリッツXは動力を搭載していないので誘導爆弾に分類される。
戦果
1943年9月9日、戦艦ローマを撃沈した他、イタリア(リットリオ)、ウォースパイト、軽巡洋艦サバンナなどに被害を与えている。
これに対して占領地で放棄されたフリッツXを鹵獲した連合軍側は、無線通信に依存したフリッツXの電波妨害に対する脆弱性から妨害電波装置の開発と運用でフリッツXのコントロールを妨害すると共に、コントロールする母機への攻撃で対抗した。
これによりフリッツXの命中率は急落し、また誘導の為に一定のコースを低速で敵艦隊上空に留まっていなくてはならない母機は攻撃中は対空砲火・戦闘機の攻撃を回避しようがない為に損失が激しく、フリッツX自体の生産コストパフォーマンスも悪い事もあり開発は中止された。
- 戦艦ローマの撃沈は「フリッツXの存在が知られていない」「連合国への投降へ向かう途中」という状況が揃っていたためイタリア艦隊は対空射撃による母機への妨害を行わなかったという絶好の条件下での戦果だった。この戦果を受けてフリッツXは増産されるが、以降は連合国が母機への妨害を積極的に行うようになったため、大きな成果は挙げられなくなった。投下後誘導のために母機が敵上空に留まらなければならないというのは重大な欠点で、墜落までいかなくとも母機が回避機動をした結果誘導に失敗することも多かった。「誘導すれば」確実に命中させられる画期的な爆弾だったが、現実には誘導しきれないことが大半で、「確実に命中させられる」というのは机上の空論だった。それであれば普通に爆弾を投下した方が母機が上空に留まる必要もなく一度に投下できる爆弾の数も増やせて、爆弾の単価も安くなって効率的なのである。フリッツXの有効性は戦艦ローマの撃沈で当時のドイツでも過大評価されていた面があり、母機の損失が激しいという欠点が露呈するにつれ評価は右肩下がりとなり、ついには生産も中止、通常爆弾での爆撃に切り替えられるという結末を迎えている。
ただし上述の欠点は同種の誘導方式の誘導兵器一般に言える事でもあり、対艦ミサイルや対戦車ミサイルなど各種誘導兵器では、熱源追尾式やレーザー誘導、敵のレーダー電波の発信源を追う対レーダーホーミングや画像誘導など様々な誘導方式が開発される端緒ともなっている。
同様の理由で多くの誘導方式が開発された対戦車ミサイルの項目に、各種誘導方式の解説もあるので参照されたい。
架空戦記では
上記の欠点を反映して、「衝撃的な新兵器」として登場して一時大苦戦に追い込んだり、最終決戦における「切り札」として護衛戦闘機多数と共に、奇襲的に集中投入されるなどすることが多い。