概要
日本住血吸虫の中間宿主として知られる、イツマデガイ科の巻貝。
和名の「ミヤイリ」はミヤイリガイが日本住血吸虫の中間宿主である事を解明した宮入慶之助に、別名のカタヤマガイは日本住血吸虫病の症状を書き記した19世紀中ごろの書物「片山記」に由来する。
和名 | ミヤイリガイ |
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別名 | カタヤマガイ、ヨシダカタヤマガイ、ヨシダミゾマメタニシ、ナナマキガイ |
学名 | Oncomelania nosophora |
分類 | 軟体動物門 腹足綱 新生腹足亜綱 吸腔区 リンツボ型クレード クビキレガイ上科 イツマデガイ科 イツマデガイ亜科 ミゾヒダニナ属 カタヤマガイ亜属 |
殻長 | 6~8mm |
殻径 | 2.8~3mm |
分布域 | 関東~九州の一部(茨城・群馬・埼玉・東京・千葉・山梨・静岡・広島・岡山・佐賀・福岡)・日本固有亜種 |
環境省レッドリストカテゴリ | 絶滅危惧IA類(CR) |
形態・生態
殻は黄~赤褐色で光沢があり、姿はカワニナに似るが、より小型。巻きは8階。
平地や盆地の水田地帯や湿地に生息し、止水域の水際の泥の上や植物の生え際で見られる。
珪藻やデトリタスなどを中心に、多種多様なものを食べる。
6月頃に土に産卵し、寿命は約2~4年。
悲惨な歴史
生息地域では田んぼや用水路でよく見られる貝類の1種で、特に気に止められる存在ではなかったが、1913年に当時猛威を振るっていた「死の病」日本住血吸虫病の原因である寄生虫、日本住血吸虫の中間宿主と判明した事で状況は一変、ミヤイリガイを滅ぼせば日本住血吸虫病は発症しなくなるのではないかという考えから、日本住血吸虫の発生地ではミヤイリガイ撲滅運動が行われ、水路の三面コンクリート化、生息水域の埋め立て、農薬・殺貝剤などの薬剤や石灰の散布、更には自衛隊員が火炎放射器で土地ごと焼き払うなどの徹底的な駆除が行われた。
その結果、発生地のミヤイリガイは絶滅し、1978年以降は日本住血吸虫病の新規感染者報告がなくなり、1996年にはミヤイリガイと駆除の巻き添えにあった水田地帯の生物達の命を引き換えに、日本での日本住血吸虫病流行の終息が宣言された。
人々の命に関わる重大な問題であった為、ミヤイリガイの駆除は致し方ない事だが、ミヤイリガイもまた、日本住血吸虫の被害者であり、住血吸虫が寄生しなければ貝自体は無害な存在であるということを忘れてはならない。
その後、人間の身勝手な都合で滅ぼされたミヤイリガイの霊を弔う為、福岡県久留米市に宮入貝供養碑が建てられた。
念の為、再び日本住血吸虫症が日本に蔓延する事を危惧して警戒は続けられている。
現状
ここまで読むと、ミヤイリガイは絶滅種だと思われるだろうが、日本住血吸虫症が確認されていなかった地域にいた為に駆除されずに済んだ極小数の個体群が現存している。
現在も宅地開発や河川改修、農薬などの影響により数が減り続けており、環境省レッドリストでは絶滅危惧種の中で最も絶滅が危惧される絶滅危惧IA類に指定されており、保護対象となっている。
もしミヤイリガイを見つけてしまっても、駆除はせずにどうか優しく見守ってほしい。
海外では日本住血吸虫が未だに健在であり、海外渡航者が感染して帰国する事も稀にあるのだが、海外産の日本住血吸虫は日本のミヤイリガイには寄生しない事が実験により判明している。