二人とも泣き虫で、一人じゃ何もできない弱虫だった。
けど……二人一緒なら、どこへでも行けた。
概要
年上の弟弟子と年下の姉弟子という関係であり、将棋の世界で切磋琢磨するライバルでもあり、更には幼少時から十年以上を共に過ごした幼馴染。
互いに惹かれ合いつつも幾度もすれ違いを重ねていた二人だったが、八一からの告白により作中で恋人同士となる。
過去
以下ネタバレ(原作における回想録)
りゅうおうのおしごと! 第1巻物語開始前 銀子2歳
生まれつき身体が弱く、病院生活の殆どを読書で過ごしていた幼い空銀子は、主治医の明石圭から将棋の存在を教わり手ほどきを受ける。
銀の名を冠する駒が存在することや、運に殆ど左右されない将棋というボードゲームの魅力に瞬く間に夢中になった銀子は、二年が経過する頃には病院で一番と呼べる程の強さとなっていた。
物語開始前 八一6歳 / 銀子4歳
ある日病院にやってきた清滝鋼介当時八段と対局し、飛車落ちで敗れた4歳の銀子は、桁違いの集中力と知性を秘めた少女に驚愕する大人達に反して、自身が敗北したことへの強いショックを受ける。
それからというもの、銀子は将棋で復讐を果たすため病院を抜け出すようになり、彼が経営する野田将棋センターへ一人で辿り着き対局を挑む程の執念を見せるが、その後親達の間で話し合いの機会が持たれ、清滝鋼介に内弟子として迎え入れられる。
一方、当時6歳であった九頭竜八一は福井で開催された将棋大会で優勝し、天才少年として注目を集め始めていたが、審判長として来ていた清滝鋼介に角落ちの指導対局で敗れる。
プロ棋士の凄さと将棋の深さに圧倒された八一は清滝鋼介への憧れから半ば追っかけ少年となり、のちに彼の誘いを受け弟子入りした。
銀子よりも二週間遅く内弟子となった八一だったが、銀髪に儚い出で立ちの美少女であった銀子を初対面で「将棋のお化け」と見間違えた上、初めての対局では惨敗を喫する。
それから共に暮らしていくうち、大量の棋書を読みこなし定跡や手筋を次々と試す2歳下の聡明な姉弟子に対して、八一は崇拝に近い感情を抱くようになり、次第に自身が彼女にとって特別な存在でありたいと思うようになる。
銀子にとっても八一はどこか頼りない年上の弟弟子であったが、姉弟子として八一を鍛え、守っていくことに徐々に楽しみを見出すようになっていく。
物語開始前 八一 小学三年生 / 銀子 小学一年生
二人の弟子入りから約3年が経とうとしていた頃、奨励会入りを目指していた八一は小学生名人を獲得。世間からの八一に対する評価は既にニュースや新聞で報じられるまでになり、その肩書きに興味を持った女子達も現れ始めた。
幼心に八一の修行に対する障害と判断した銀子は将棋で彼女たちを「説得」し、結果として自分以外の同年代の女性を八一に近づけさせまいとする嫉妬の片鱗を見せ始める。(この時点では弟弟子を守ろうとする感情と区別がついていない節が見られる)
加えて銀子はこの頃から、神鍋歩夢との対局後の感想戦を経て、八一の将棋の才能が自身を凌駕している兆候を感じ取るようになる。
物語開始前 八一 小学五年生 / 銀子 小学三年生
病を患っている銀子は夏の厳しい暑さに体力を奪われ倒れてしまい、奨励会入りが年単位で遅れてしまう。
この頃には八一とのVSによる勝率は三割程度にまで落ち込むようになっていたうえ、身体の熱や目の霞みに襲われながら銀子が奨励会を闘う一方で、八一は順調に昇級を続けており、銀子は八一に置いていかれることへの強い焦りを感じ始めていた。
物語開始前 八一 中学二年生 / 銀子 小学六年生
八一よりも先にタイトル保持者になることを考えた銀子は、五年生の時に女流棋戦に出場。
そしてその10カ月後、マイナビ女子オープン女王戦にて女王奪取に成功し、更には「浪速の白雪姫」の異名で将棋ファン以外にも名を知られるようになり、一躍時の人となった。
銀子のタイトル獲得という快挙を知った八一は、それからというもの彼女を名前呼びではなく、「姉弟子」と呼び敬語で接するようになる。
八一にとっても銀子は追いつきたい目標の人となり、自身が史上最年少でタイトルを獲得することで再び彼女にとっての特別な存在となり、名前で呼ぼうと決意していた。
八一からタイトル獲得のお祝いとして銀色のブローチをプレゼントしてもらった銀子は、髪飾りとして就寝時以外は常に身に着けるほど大切にするようになるが、以降は女流棋戦や奨励会、学業で多忙を極めることとなり、それまでどこへ行くにも一緒だった八一との距離が次第に離れていくことに寂しさを感じるようになる。
物語開始前 八一 中学三年生 / 銀子 中学一年生
銀子は女流玉座を奪取し女流二冠となり、八一は二度目の三段リーグを突破し史上四人目の中学生棋士が誕生。
銀子はこの頃既に、成長し顔つきも変わってきていた八一を異性として強く意識するようになっていたが、同時に破竹の勢いでプロの世界を駆け上がっていく彼の背中を諦めに近い感情で眺めてしまっている自分に気付き、八一と同じ道を歩けていない現実に苦しむようになっていく。
しかし実際には八一の方も順風満帆なプロ人生……というわけではなく、東京でのデビュー戦で見事な惨敗を喫した後、傷心のあまりサーフショップにて一週間ほどアルバイトをしながら過ごしていたところ、探しに来た銀子によって無事大阪に連れ戻された。
物語開始前 八一 中学卒業 / 銀子 中学二年生
八一は中学を卒業すると師匠の家を出て一人暮らしを始め(八一の方も銀子を女性として意識し始めており、将棋に集中する為というのが理由の一つであった)、銀子も寂しさからほぼ同じタイミングで実家に戻る選択をする。
その後八一は史上最年少でタイトルを獲得。将棋界の頂点である竜王となった。
プロデビューからわずか1年2カ月後の出来事である。
ちなみに八一が一人暮らしの部屋を借りる際には、銀子が彼の住む部屋を指定し、定期的に将棋を指しに上がり込み、料理を作り、シャンプーや歯ブラシを持ち込み、宿泊もする等、半ば押しかけ女房に近い状態であった。
本編
以下同様にネタバレ。
りゅうおうのおしごと!本編開始 八一 16歳 / 銀子 14歳
八一は幼い弟子を育てながらも若き竜王として、銀子はプロ棋士を目指す女性の奨励会二段として、将棋界で知らない者はいない程の存在となっていた。
第1巻時点では、既に銀子の八一に対する恋慕の情はより明確なものになっており、八一が雛鶴あい達弟子や周囲の女性達に会う様子を見ては強烈な嫉妬心を抱くまでになっていたが、銀子自身の不器用さと、当の八一の朴念仁ぶり(当時の八一から見た銀子は孤高の人であり、将棋に全ての覚悟を捧げたもう一人の自分とも言うべき女性だった)によって、彼女の気持ちには気が付かないまま姉弟子と弟弟子の関係は続いていく。
女性の将棋指しで最強と謳われていた銀子も八一に対しては年頃の少女らしく、第2巻では八一からのスイーツ店へのデートの誘いを期待したり、タイトル戦勝利の祝電を受けて喜ぶ反応を見せたりと、素直な一面も垣間見せる。
第3巻にて銀子は清滝桂香に、脳内で将棋盤と駒を思い浮かべることが可能な八一、あい、生石充らと異なり、ぼやけた視界でしか盤を想像出来ない自分や桂香のような常人との間に、超えることが出来ない隔絶された才能の壁が存在することを明かす。
桂香は、銀子が14歳ながら自身の才能の限界を認識し受け容れたうえで、それでもなお果てしない努力を続けている理由を「好きな人と同じ景色を見たいから」なのだと暗に察するのだった。
第4巻にて、銀子が釈迦堂里奈との研究会における対局を行った際には、隣で八一が観戦していた為に緊張で駒が浮つき実力が出せず敗北。釈迦堂里奈にその理由を指摘されそうになり慌てるなど、八一以外には本心が筒抜けの模様。
負けた代償として銀子はブランドのドレスを着せられ、そのまま八一と共に東京から大阪へと帰ることになるが、八一は彼女のその美しい姿にそれまで感じたことがなかった感情を抱く。
八一 17歳 / 銀子 15歳
最強の挑戦者である名人から竜王位を防衛する戦いの為、一門総出でハワイに赴いていた八一は一日目の対局後、ビーチで泳いでいた銀子と偶然出会う。
銀子に従うがまま手を繋ぎ夜の街を散策した後、別れ際に彼女と口付けしそうな雰囲気になるが、八一は照れ隠しにその勝負手を避けてしまうのだった。
名人との戦いは続き、その圧倒的な力の前に第三局までも落とした八一は、弟子のあいにも強く当たってしまうほど追い込まれていた。
そんな八一の状態を聞いた銀子はある夜、彼を励まそうと家を訪ねる。
精一杯の気遣いや優しさで接する銀子だったが、敗戦の記憶を引きずり続けている八一にとっては逆効果に近く、ついには怒鳴り声で彼女を拒否するような言葉を投げかけてしまう。
深く傷ついた銀子は部屋の鍵を投げつけ、帰るなり桂香の膝にすがりつき号泣。桂香は銀子を慰めながら、彼女の八一に対する想いと焦り、そして八一の将棋に対する飽くなき向上心に改めて思いを馳せるのだった。
銀子にとっての大きな転機となった第6巻。
物語は銀子視点での描写が増え、彼女の苦悩や心情がより詳細に判明するようになる。
名人との勝負を制した八一が更なる飛躍を見せる一方、奨励会三段への昇段に苦戦する銀子。
銀子にとってそれは、彼に届くまでの道のりが更に遠くなっていることを意味していた。
竜王戦第三局後の一件以来、銀子とはギクシャクした関係が続いていた八一だったが、生石との研究会に参加する待ち合わせで銀子の私服を目にし、気まずさ以上に彼女の美しさに見惚れ、以前よりも銀子を異性として意識し始める。
そして研究会から帰路につく途中、桜ノ宮駅にて突然銀子に電車から降ろされた八一は、訳が分からないままホテルへと連れ込まれる。
銀子の心情を掴み損ねている八一は彼女を落ち着かせようとするが、彼女の不器用な好意の言葉を誤解し、自身が失恋したと思い込む。微妙なすれ違いが起こってしまい、両片想いのような状況に。
(のちに生石との研究会後はホテルにて将棋の情報交換を行うことが定例化し、八一と銀子は調子の良い状態をルーティーン化する為「コスプレ研究会」なるものを行うことになる)
後日、一筋の幸運で椚創多に勝利し、当時女性史上初の奨励会三段に昇段した銀子。
しかし「将棋の神様」に縋った末に目標だった三段リーグには到達したものの、実力者が待つ地獄の戦いに身を投じなければならないこれからの現実に畏怖してしまう。
苦しみと絶望の中、帰路につく銀子を駅まで迎えに来た八一。
これまで神様の存在を頑なに信じてこなかった彼女は、八一の姿を見てその存在に感謝し、彼と同じ場所に立てるのなら死んでも構わないと願うのだった。
第7巻にて、八一は蔵王達雄九段の引退対局相手として戦い、敗北。
竜王が引退棋士に敗れたという悔しさと、自らの不甲斐なさに打ちのめされていた八一は、銀子に抱きつき号泣する。
そんな八一を受け止めてどこか安堵している自分に気付き、銀子は腕の中にいる八一に追いつきたいという願いを再び思い描きながら彼を抱きしめた。
その後も銀子はプロ棋士になる為の力を渇望し、新たな制服に袖を通し高校生となった彼女は第63回三段リーグの戦いへと身を投じる。
リーグ序盤に連勝を積み重ねていく銀子だったが、参加者同士の地獄の討ち取り合いに次第に精神を摩耗していく。
彼女の不安を感じ取った桂花は、銀子が助けを求めてきた際には彼女を最優先に考えることを八一に約束させるが、その約束が後に八一と銀子の関係を大きく変化させることとなった。
後日、八一はリーグ対局結果を確認し、銀子が連勝から転じて連敗している現状を知る。
そして自宅に入ると、そこには包丁で自らの命を絶とうとするほど追い詰められている彼女が虚ろな目で立っていた。
心が折れてしまった銀子を見た八一が取った行動は、自暴自棄に陥った彼女と二人で旅に出ることだった。
深夜特急で二人が向かった先は福井県。
月光会長の配慮により温泉街で一泊したのち、八一は銀子と共に東尋坊の崖を訪れる。
二人は旅の途中でこれまで歩んできた過去と、出逢ってきた人々との思い出を振り返り、銀子は自分が「かわいそうな子」ではなかったことに気付く。
八一の方も、銀子が死んでしまうという可能性を考えた時から、自分が伝えなければならないこと、彼女に見て欲しいものがあることを悟っていた。
八一は自分の実家へと銀子を連れていき、そこで大歓迎された銀子は八一の家族との穏やかな食卓を囲む。
夕食後、八一は銀子の手を引いて無数の星が瞬く夜空の下へと歩く。
そこで二人はお互いの想いを伝え合い、口付けを交わした。
正式な告白は銀子がプロになるまで「封じ手」としたものの、銀子は再び将棋盤の前という戦場に戻るため、八一と共に大阪に帰るのだった。
その後、椚創多や鏡洲飛馬らリーグ上位者との激戦を制し、史上初の女性プロ棋士となった銀子。
八一の告白に「同歩」を返し、二人は正式に恋人同士となる。
以降の八一と銀子は、これまでのすれ違いの反動から傍目から見ても少々バカップル気味で、周囲からはその惚気振りに呆れられるほど。
八一 18歳 / 銀子 16歳
プロ棋士としての戦いはもちろん、様々な困難がこれから二人に降りかかることになるのだが、互いに公式戦で将棋を指すことを夢見て、最新巻現在も八一は頂点への道を歩み続け、銀子は己の病と戦い続けている。
関連イラスト
余談
「りゅうおうのおしごと!」小説では、小冊子付き限定版が複数の巻で販売中。
八一と銀子のエピソードがピックアップされているものも多く、興味がある方は是非購入を検討してみるといいだろう。
本編で語るにはあまりに甘すぎる二人のやり取りを知ることが出来る。