「小学生勇者」とは、わかさ氏によるオリジナルweb漫画である。
Pixivでも2016年2月8日から投稿作品として公開されている。
Cross Infinite Worldによる英訳版の電子書籍も発売中。
概説
10歳の小学5年生の少女がある日学校の図書館のとある本を調べたら、突然異世界に飛ばされ、「暁の勇者」として世界を脅かす「魔女」を打倒する任命を任されてしまうという、王道RPGのお約束的な展開に見舞われる。
幼き勇者の傍には、18歳の魔法使い「従者」が彼女を支える。
物語が進んでいくと、勇者の武器に変身する「小剣」や従者の幼馴染でもある「女騎士」などの仲間も現れ、勇者は自分の役目やこの世界について学び勇者として成長していく。
一見すると低年齢向けの冒険活劇だが、端々に不穏なフラグが乱立していたり、登場人物たちの背景に仄暗い陰が差していたりと、ライトな切り口でディープな世界を演出している。
何より人物たちの躍動感や機微を、丁寧な構成と見応えあるカット割りで演出しており、商業誌向けとしても十二分に通用する高いクォリティーが、読む者の心を鷲掴みにしてくる。
登場人物
勇者
父親は物心着く前に亡くなり、母子家庭で母と二人暮らし。
ゲームや冒険小説が大好きで、よく図書室へそのジャンルの図書を借りに行く。
学校の図書室に落ちていた古びたノートを拾い、その瞬間にランドセルを背負ったまま異世界へと召喚され、「暁の勇者」として「夜の魔女」討伐の使命を負うことになった。
明るく心優しい少女で、黒髪のツインテール、そして背中のランドセルがトレードマーク。
母からの情操教育の賜物か、どんな苦境でも優しさと前を向くことを忘れない純真さを持つ。
勇者としての潜在能力も高く、小剣がパーティーに加わってからは徐々にその才能を開花させている。
しかし彼女の最大の武器は先に述べた心の強さであり、どんな苦境でも誰かを慮り、その誰かのために奮い立って窮地に立ち向かうことが出来る。
自分を第一に考えてくれる従者を大切に思っており、彼の助成に恥じない立派な勇者となることを目指す。
従者
※イラスト左側の青年
少女を勇者として召喚した魔法使いの青年。
18歳。本名はルー。正確には本名から取ったあだ名である。
品行方正かつ使命感の強い優等生で、滅私奉公で勇者を支えようと奮闘する。
ただ過保護のきらいもあり、自分が勇者の力になれないことを何よりも忌み嫌う。
一見すると温厚な好青年だが、使命感を踏み台に暴走する危うさを隠している。また根はかなりぶっきらぼう、口も悪く他人への関心も希薄である。
魔術の衰退しつつある世界で類い稀な魔術の才に恵まれ、18歳で師から従者の使命を引き継ぎ、たった一人で勇者の召喚を成功させた。
「勇者の従者」に恥じない働きを自分に課す余り、時折彼には仄暗い“陰”が差している。
※ネタバレ注意
本来、「勇者召喚」は精鋭の魔術師30人を擁する大儀式魔法なのだが、この世界では人間の手から魔法が失われつつあり、才能ある魔術師もその数を減らしている。
そのため彼は、使命完遂のために禁断魔術「悪魔契約」に手を染め、自分の魂を犠牲に3つの願いを叶え、最後に悪魔へ肉体を明け渡すことで勇者を召喚した。
既に勇者召喚に加え、試練の塔で勇者を救うために力を行使したため、残るストックは1である。
さらに劇中のフラグから、契約した悪魔がよりにもよって最凶最悪の存在いう特大の爆弾を抱えてしまっている可能性が示唆されている。
塔の試練の挫折から、この件は既に勇者に明かされており、勇者も従者が悪魔の力にこれ以上頼らないよう自分が強くなることを決めた。
――それでもなお、彼には闇の手招きが陰から忍び寄っている。
小剣
勇者と従者から銭袋を盗んで一悶着起こすが、仲間が領主に捕まったことから始まった領主の館での一件を経てその正体を明かした。
代々続く「勇者の武器に変身できる一族」の出身で、こんなナリながら既に50年以上生きている。
領主が地下牢に隠していた怪物を戦うため彼女に力を貸し、以降は彼女の武器として、また使命感と天然ボケの強い勇者一行のブレーキとして立ち回ることになる。
武器形態は、ナックルガードの付いた刃渡り60cmほどの両刃の片手剣となる。その切れ味は一刀で身の丈以上の怪物を両断し、塔の試練の再挑戦時には塔の頂上フロアの一角を削り落とすなど、この世界の「想いが世界に反映される法則」に則って常識外れの威力を発揮する。
女騎士
港町リエットで出会った騎士の女性。19歳。
金髪の美人で、右前髪の花のヘアピンがチャームポイント。
従者とは同郷であり、彼が従者となるまでの数年間を知る数少ない人物の一人。
仕事中は規範を遵守する模範人物だが、プライベートは明るく賑やかで世話好きなお姉ちゃん気質。
勇者一行とは仕事柄よく関わるため、半ば彼らの仲間の一人としての側面もある。
度胸の据わった人物で、強敵相手でも決して怯まず味方を護ろうと奮戦する。実力も19歳で既に一廉の発言権を得ているだけあって、その辺の魔物やゴロツキ程度は目ではない。
勇者にとっては、この世界で最も身近な女性であり、自分の意志と思考で独り立ちしている姿から「理想の女性像」として目標にされている。
ところどころで従者に対し、思わせぶりな雰囲気が見え隠れするが、果たして……。
夜の魔女
本作の敵役。
数十年前に大陸の北に現れ、その一帯を毒の霧で汚染し壊滅させた悪しき魔女。
詳しい正体については分かっていないものの、劇中では既に数回ほど登場している。
妖艶な雰囲気を湛えた黒髪の美女で、一度目は港町リエットの領主を脅迫して不老不死の肉体の研究を強要し、二度目は武器の一族の少女を追って少女と激闘を繰り広げた。
魔女と呼ばれるが、女悪魔か女夜魔といった角と尻尾を持ち、扇情的な衣装に身を包んでいる。
目的については分かっていないが、劇中の言動からある存在の復活を目論んでいるような節が散見される。
悪魔
従者の精神に住み着く、悪魔契約で彼に召喚された高位の悪魔。
塔の試練を超えた証として得た「エターナルリング」を通じ、勇者もその存在を認識することになる。
いずれ従者の肉体を乗っ取ることを目論んでいるらしく、夜の魔女がそれを促進させようとしている点、魔剣が従者に向かって魔王様と呼んだことから、本作のラスボス候補である可能性が考えられる。
Y・M
試練の塔の上階に居を構える謎の学者。
既に50年以上塔で暮らしているにもかかわらず、見た目はアラフォー程度という謎多き男。
髪は伸ばし放題で眼鏡に無精髭と、いかにも冴えない風体をしている。
……が、「勇者の本名を知っている」、「世界の法則に造詣が深い」、「勇者に渡した日記を覗き見ることが出来る上に何かしらの小細工まで仕掛けている」など、胡散臭さが半端ない。
世界設定
真名封鎖
この世界では「本名を名乗ることが命取りとなる」ため、自分の真名は心を許した親しい相手のみに明かすという慣習が常態化している。
ゆえに劇中の人物たちは、互いを役職や地位で呼び合い、余程のことがなければ決して本名で呼び合うことはない。
魔法について
この世界の魔法は万人が使えるものではないらしく、ある程度の才能を必要とする。
また魔法の発現には触媒を要し、触媒を介さなければ自分の肉体に後遺症が残る危険を伴う。
そして既に世界から徐々に魔法使いそのものが数を減らしており、勇者召喚に適う才能を持っていたのは王国でも従者だけだった。
エレメント
万物が持つ霊的なエネルギー。
生物は呼吸や食事からエレメントを摂取し、死して土に還ることでエレメントを世界へ還す。
魔法の才能はこのエレメントの発散に関わっており、エレメントが濁れば瘴気となって周囲を害する。
勇者の力
万物に宿るエレメントを浄化し、一切の邪悪を祓う力。
「光の加護」とも呼ばれ、その力は「授かる」ものでなく「元より持ち合わせている」もの。
すなわち、―――善を信じ、最善を尽くして前進する心こそ、勇者の力なのである。
世界法則
Y・M曰く「想いが世界に簡単に反映される」とのこと。
勇者の力もこの一環に絡んでいる節があり、本作のキーピースの一つと思われる。
そして1話で勇者の世界と時間法則が捻じれていることが示唆されており、異世界の1週間が勇者世界の20年に相当し、よしんば異世界を救って帰還出来たとしても、自分の知人や親族が生きているかは非常に怪しい。
関連イラスト
※第1話