概要
1964年から1985年まで製造された3000系列のフルモデルチェンジとして、1986年に登場。
当時まだ残存していた2000系よりも古い旧性能車の置き換えと、分割民営化を控えていた国鉄山陽本線に対する車両設備の拡充・品質向上を図って製造された。車内は3050系までのオールロングに代わり、クロスシートを装備する。増備の途中から転換式に変更された。
登場時は3両編成で各駅停車主体の運用であったが、クロスシートを持つことから次第に優等列車主体へと移行していき、1998年からは阪神電車との相互直通運転系統である「直通特急」の専属車両となり、山陽電車の優等列車の主力車両として現在に至る。優等用へと移行していく過程で車両の増結が行われており、最終的に4両編成2本・6両編成10本の陣容となった。
また、直通特急の運転に先立って、5000系を基に主要機器を変更した車両である5030系が増備された。1997年に6両編成2本、2000年には既存車両の増結用として電動車2両ずつが4組製造されている。
2018年には大規模更新工事を施工した車両が登場。
イベントに応じて車体に様々なラッピングを施される事がある。中でも5008Fは2018年に実施されたあるイベントで事実上の末期色と化したことがある。詳しくは末期色の記事を参照。
スペック
営業最高速度 | 110km/h、106km/h(阪神線内) |
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起動加速度 | 2.8km/h/s |
減速度 | 4.0km/h/s(常用・5000系)、4.2km/h/s(常用・5030系)、4.5km/h/s(非常・共通) |
駆動方式 | 平行カルダン駆動・歯車継手方式 |
歯数比 | 15:82=1:5.47 |
制御方式 | 富士電機製
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主電動機 | 直巻整流子電動機または三相誘導電動機
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制動方式 | 回生併用電気指令式空気ブレーキ |
台車 | ダイレクトマウント空気ばね台車・川崎重工業製
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製造所 | 川崎重工業 |
系列別解説
5000系
3050系アルミ車を土台に、外装デザインや車内設備の変更・回生ブレーキの搭載を行った車両。
車体は押出型材を使用したアルミ合金製で無塗装、太い赤帯を巻いており、角張ったアルミサッシとステンレス製客用ドアが外観上のアクセントとなっている。前面デザインは窓ガラスを拡大し、種別・行先表示器を収めたほか、標識灯がステップの真上に移動している。窓が小さい運転台側と前照灯周辺を黒塗りとして一体感のあるスマートな見映えとなった。
車内は2人掛け固定式クロスシートを扉間に4列、車両端部にはロングシートを配置する。クロスシートは車両中央を境に車両端側を向く、集団離反式と呼ばれる配置である。化粧板にはクリーム色の大型FRP材が用いられており、ドア枠を覆い隠す形状になっているのが特徴。側窓は全て上段下降式の2段窓である。また、天井部にカバー付き蛍光灯と冷房吹き出し口が車体全長に渡って配置され、送風機のないすっきりした見た目となっている。車内中央には換気用ダクトがある。
主電動機(モーター)は3000系列と共通のMB-3020-Sを引き続き採用しつつ、制御装置に添加励磁装置を追加することで回生ブレーキの使用を可能にした。2両でユニットを組み、M’c-M-Tcの3両編成が基本組成。一部の編成については、既存のMB-3020-S搭載車からの機器流用が行われた(後述)。
補助電源装置はM’c車の5000形(偶数)にメインの静止形インバータ(SIV)、Tc車の5600形に予備の電動発電機(MG)を搭載。空気圧縮機は両先頭車の姫路寄り山側に搭載。
- 1・2次車
1986年に製造されたTc車5600〜5606の3両編成7本が1次車、1988・89年に製造された5607〜5609の3両編成3本と増結用付随車の5500〜5503の4両が2次車に当たる。基本的な仕様は両者とも同じ。
1次車は旧性能車の置き換え、2次車は2000系の置き換えによる冷房化を名目としている。また、増結用付随車は5600〜5603編成を4両化し、特急運用に投入するため製造された。
- 3次車
1990・91年製造のグループ。1991年3月に一部特急の6両運転が開始されることとなり、既存車の増結によって6両編成が初めて登場している。また、この時点で編成単位での増備は一旦終了となった。
5610・5611の4両編成2本と、増結用として付随車の5506〜5509の4両、新たに登場した電動車ユニットの5200形5200〜5205の6両が該当する。5200形は5000形と同様、梅田側から偶数(M’車)、続番の奇数(M車)を配置。
5506は5606編成に組み込み4両化、5507〜5509と5200〜5205は若番から順に5609〜5611編成に組み込み6両化した。この際、先に登場していた4両編成の5610・5611編成の5504・5505を抜き取り、それぞれ5604・5605編成に組み込み直すことで、番号を揃える形での4両化を果たしている。
先頭車の赤帯が下辺を斜めにしたデザインに変更されたほか、車内はクロスシートを終着駅で自動一斉転換可能なものに変更され、扉と隣接する部分には仕切りを追加した。走行機器面では台車が軸梁式に変更されている。
主電動機・MB-3020-Sの確保が困難になってきており、予備品を得るため1988・89年に3000系4両を、1998年には追加で2両を3200系に改造してモーターを捻出している。
- 4次車
1993年製造。中間付随車5510・5511の2両のみがこれに当たる。それぞれ5607・5608編成に組み込まれ4両化、これにより3両編成が消滅した。
側窓部に仕様変更が行われ、ドア間の3連窓は中央を2段窓、両側を固定式の1枚窓に変更、また車両端の2連窓も客用ドアよりが固定窓化された。4次車のみこの形態をとり、窓枠の車内側が黒色に塗装されているのも特徴である。
- 5次車
1995年に製造された、5000系の最終増備車である。電動車ユニット5206〜5211の6両が該当。それぞれ5606〜5608編成に組み込み6両化した。
側窓が再び仕様変更され、3連窓の中央を左右に拡大し固定窓化、代わりに両側の窓を2段窓に変更した。また、カーテンがフリーストップタイプとなっている。
- 車内の改装
2次車として落成した5016F・5018Fの2本は、1993年9月に5016〜5019と5608・5609の座席を3次車以降と同等の転換クロスシートに交換・改造、編成内で座席形態が統一された。
また、2014年から5000F・5002Fを除く5000系全編成を対象に、梅田方先頭車の5000形(偶数)をオールロングシートに改装する工事が施工されている。理由は阪神線内での混雑対策であり、最も混雑する大阪梅田駅東改札口に近い1号車を対象とした形になる。
5030系
1997年に登場した、5000系に搭載していた主要機器を変更した車両。
車体構造や設備は5000系5次車に準じており、見た目は殆ど変わらない。ただし、車内は阪神線内での混雑を考慮したため、クロスシートが海側2列・山側1列の3列配置に変更され、立ち席スペースを拡大している。
編成構成は電動車がユニットを組まない単独電動車方式となったことから変更されており、両先頭車が5630形となったほか電動車の位置が変更されており、梅田方先頭車に続いて電動車5230形が2両連結される形態となった。梅田方が偶数、姫路方が連続する奇数となっている。
5000系に搭載していたMB-3020-Sの確保が不可能となったため、本形式では技術進歩を踏まえてVVVFインバータによる誘導電動機駆動へと移行した。全国的にも非常に珍しい富士電機製の制御装置を搭載する。
この制御装置はIGBT素子を用いた3レベル電圧形PWMインバータであり、1台のインバータで1台の電動機を駆動する個別制御方式である。ベクトル制御によるトルク出力精度の向上と大出力化により、6両編成では電動車を従来の4両から3両に削減することが可能になった。これにより、梅田方先頭車が付随車となっている。
また、補助電源装置が新型となり、従来のM’車ではなく付随車の両先頭車に1台ずつ搭載となった。姫路方先頭車にあったMGも廃止。
- 1次車
1997年製造のグループ。直通特急運行開始に先立つ車両増備として5631編成(5630F)・5633編成(5632F)の6両編成2本が製造された。
このグループは車外側面の種別・行先表示器がLED式、また車内ドア上部にLED案内表示器が千鳥配置で設置されている。
- 2次車
2001年3月ダイヤ改正に伴い直通特急を増発することとなったため、既存の5000系を6両編成化する目的で2000年に製造された中間電動車ユニット。5230形(奇数)と5250形を4両ずつ製造し、4両編成であった5602〜5605編成に組み込み6両化した。なお、5030系は電動車に補助電源装置を搭載しないため、組み込みの対象である4編成は姫路方先頭車の5600形に5630形と同じ補助電源装置を取り付ける改造が行われた。
5241と5255のみLED行先表示器であり、他の車両はこの2両の組み込み先である5605編成(5010F)と4両編成のまま残る5600編成(5000F)をLED表示器に換装して捻出した幕式表示器を装備する。また、車内にはLED案内表示器を装備しないほか、クロスシートの配置が1次車と逆転し海側1列・山側2列となっている。
車体の溶接には新たに摩擦攪拌接合(FSW)が採用され、テープのような溶接痕が特徴となっている。
リニューアル編成
5000系1次車の登場から30年以上が経過し、主要機器の老朽化と内装の陳腐化が目立ってきたため、2018年より機器類整備と車外・内装設備を含む大規模な更新工事を行うこととなった。施工は大阪車輌工業、または阪神車両メンテナンスが担当。
2018年8月末に第一陣となる5702F(元5004F、5000・5030系混成編成由来)が出場し、同年11月頃から営業運転を開始した。
外観は前面・側面のデザインが大きく変更され、6000系の意匠を採り入れた雰囲気となっている。前面のブラックフェイスの範囲が広がり、赤帯が更に太くなった。側面は6000系のように朝日をイメージしたグラデーションを採り入れたほか、太い赤帯の下に細帯が2本追加され、3本帯となった。
内装も6000系に準じており、ドア上部にはLCD案内表示器が追加、照明は白色LEDに変更、ドア横の手すりを大型化、化粧板や座席のモケットも明るい色合いとなった。ドアチャイムも追加されている。また、阪神線内の混雑状況を鑑みて、座席配置も変更。クロスシート車は真ん中の2両のみで残りはロングシート車とされた。クロスシート位置を丁度真ん中にする為、5030系の2+1配置座席を5252から5502へ移植している。
リニューアルに伴い一部車両に改番が生じている。梅田側から2両の5000形(偶数)・5000形(奇数)がそれぞれ5700形・5800形に改番された。梅田方先頭車が5700形となったことから、一部で「5700系」と呼称する例も見られる。
梅田方先頭車(5700形)は電装解除し、隣接する5800形には新たに富士電機製VVVFインバータ制御装置と6000系と同じ主電動機・MB-5158-Aを搭載しインバータ制御化された。新しい装置はハイブリッドSiCスイッチングモジュールを使用した2レベルインバータ、1台のインバータで電動機2台を駆動する1C2M制御であり、冷却装置・回路設計の見直しで従来形から大幅な軽量化を果たしたほか、速度センサレスベクトル制御を採用し保守性・信頼性の向上を図った。また、全密閉電動機と新型歯車継手により静粛性が大幅に向上。
- なお、5030系2次車である5230形(奇数)・5250形のVVVFインバータ制御装置はそのままとしたため、同じ編成内で制御装置がIGBT素子とハイブリッドSiCで混在している。
- ほか、梅田方先頭車の5700形は補助電源装置と空気圧縮機の換装が行われている。
編成表
※2020年9月時点
5000系
4両編成
←梅田 | 5000(M’c) | 5000(M) | 5500(T) | 5600(Tc) | 姫路→ |
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5000F | 5000 | 5001 | 5500 | 5600 | 1次車 |
5002F | 5002 | 5003 | 5501 | 5601 | 1次車 |
6両編成
←梅田 | 5000(M’c) | 5000(M) | 5500(T) | 5200(M’) | 5200(M) | 5600(Tc) | 姫路→ |
---|---|---|---|---|---|---|---|
5012F | 5012 | 5013 | 5506※ | 5206 | 5207 | 5606 | 1次車 |
5014F | 5014 | 5015 | 5510 | 5208 | 5209 | 5607 | 2次車 |
5016F | 5016 | 5017 | 5511 | 5210 | 5211 | 5608 | 2次車 |
5018F | 5018 | 5019 | 5507※ | 5200※ | 5201※ | 5609 | 2次車 |
5020F | 5020 | 5021 | 5508※ | 5202※ | 5203※ | 5610 | 3次車 |
5022F | 5022 | 5023 | 5509※ | 5204※ | 5205※ | 5611 | 3次車 |
- 次車表記は編成として落成した時点での形態を表す。斜字は後から組み込まれた増結車。
- 5500形・5200形のうち※印が付いたものは3次車。
- 集電装置は5000形(奇数)と5200形(奇数)に搭載する。
5000・5030系混成編成
←梅田 | 5000(M’c) | 5000(M) | 5500(T) | 5230(M2) | 5250(M3) | 5600(T’c) | 姫路→ |
---|---|---|---|---|---|---|---|
5008F | 5008 | 5009 | 5504※ | 5239 | 5254 | 5604 | 1次車 |
5010F | 5010 | 5011 | 5505※ | 5241 | 5255 | 5605 | 1次車 |
- 次車表記は編成として落成した時点での形態を表す。斜字は後から組み込まれた5000系増結車、太字は後から組み込まれた5030系2次車。
- 5500形のうち※印が付いたものは3次車。
- 集電装置は5000形(奇数)と5250形に搭載する。
5030系(1次車)
←梅田 | 5630(Tc1) | 5230(M1) | 5230(M2) | 5530(T) | 5250(M3) | 5630(Tc2) | 姫路→ |
---|---|---|---|---|---|---|---|
5630F | 5630 | 5230 | 5231 | 5530 | 5250 | 5631 | - |
5632F | 5632 | 5232 | 5233 | 5531 | 5251 | 5633 | - |
- 集電装置は5230形(偶数)と5250形に搭載する。
リニューアル編成
←梅田 | 5700(Tc1) | 5800(M1) | 5500(T) | 5230(M2) | 5250(M3) | 5600(Tc2) | 姫路→ |
---|---|---|---|---|---|---|---|
5702F | 5702 | 5802 | 5502 | 5235 | 5252 | 5602 | 5004Fから改番 |
5253 | 5603 | 5006F由来の編成、保留車 |
- 斜字は後から組み込まれた5000系増結車、太字は5030系2次車。
- 集電装置は5800形と5250形に搭載する。
事故
- 2013年2月12日、5630Fが荒井駅付近で踏切事故を起こし脱線。6両のうち梅田側2両のTc5630・M5230号車が製造元の川崎重工業にて修理が行われ2014年に復帰した。
- 2020年6月22日、リニューアル工事を行った5006Fが阪神電気鉄道尼崎車庫構内で試運転を行ったものの、車止めに激突する事故を起こし脱線。6両のうち梅田側4両のMc5006・M5007・T5503・M5237号車は修理不能として2022年3月末に除籍されている。
関連タグ
山陽電気鉄道 5000系 阪神8000系 直通特急 3000系 山陽6000系・6000系
- 奈良電気鉄道デハボ1200形:1954年(昭和29年)製で、MB-3020主電動機を最初に採用した。即ち5000系の主電動機は原設計が70年近くも前に遡るロングセラーである。