【注意】この記事には『シン・エヴァンゲリオン劇場版𝄇』のネタバレを含んでいます。閲覧の際には十分ご注意下さい。
「僕の存在を消せるのは、真空崩壊だけだ」
「だから僕は、定められた円環の物語の中で演じることを永遠に繰り返さなければならない」
概要
『シン・エヴァンゲリオン劇場版𝄇』にて明らかとなった渚カヲルの正体、あるいは目的のこと。
作中終盤、碇シンジと碇ゲンドウが「マイナス宇宙」での精神世界で対話を行い、シンジの中にユイを見つけたゲンドウの代わりに、シンジと共に人類補完計画の役割を引き次ぐ形で登場し、精神世界で加持リョウジとの対話という形で唐突に真実が明かされた。
カヲル自身は加持に対して「やだなぁ、リョウちゃん。そろそろカヲルって呼んでよ」と親しげに彼に言うも、加持曰く「まだお預けです」(その理由は後述)とのことで、終始「渚司令」呼びのまま、呼び方を変えることはしなかった。
劇中では「何の組織の司令か」とは明かされることはなかったが、2021年7月11日に行われた舞台挨拶にて、『破』から『Q』までの空白の14年間の間に、ゲンドウと冬月はNERVで失脚し、その後司令を務めたのがカヲル、補佐は加持リョウジが務めていたことが明かされた。その物語は『破』からの『Q』での予告部分で、「遂に集う運命を仕組まれた子供達」の台詞で出てくるシーンの下側に司令服を着て登場しているのである。
ただし、それらが明かされるまでの考察にも有力な情報があるので、下記の情報も参考にしてほしい。
考察勢による幾つかの考察。
渚カヲルが司令になるまでの推察。
現状では主に二つの説が存在している。
渚カヲルが所属している組織とは、「WILLE」説。
『Q』の劇中シーンでは、加持のスイカ畑を眺めているシーンが存在し、精神世界での対話においても、最終的に加持と共にスイカ畑を歩くシーンが存在している。これらの事実から、実は渚カヲルは「WILLE」の司令ではないか?と言う説。
仮に渚カヲルがヴィレの司令であったとした場合、何故彼が司令となり、そして加持がそのことを知っていたのかなどは、劇中の説明からある程度推察することができる。
渚カヲルは、TVシリーズ・旧劇場版・漫画版ではセカンドインパクトの原因となる使徒の祖たる第1使徒アダムの魂を持った第17使徒タブリスだが、新劇場版では第1使徒であり第13使徒ともなる「人類の狭間を紡ぐ存在」となっており、後述の理由からエヴァンゲリオンの世界をループする役割を持っている。そのことが理由で、カヲルは加持のことを知っていたと考えられる。
加持の目的は「種の保存・存続」、カヲルの目的は「シンジの幸せ」であり、両者の願いは一致している。
これらのことがらから、おそらくカヲルと加持は接触を果たし、カヲルは人類の狭間で人類の「意思」を紡ぐ者となる「WILLE(ヴィレ)」の司令となったのだと思われる。
また、特に考察ファンの間では、加持とカヲルは、二人で海洋研究機構からヴィレを設立したのでは?と推察されている。
これは、渚との会話に登場した「海洋生態系保存研究機構」が、加持にとって一番の本命の組織だったという考えからの考察であり、実際に加持とカヲルはNERVの司令室と海洋生態系保存研究機構と言う二つの舞台で対話をしていることから、赤い海を青い海に復元するこの海洋研究機構が「ヴィレの前身なのでは?」と考えられている。
しかし、そうなるとなぜカヲルはわざわざNERV(碇ゲンドウ)の言いなりになっていたのか?という新たな疑問も浮上する。シンジを幸せにするために槍を手に入れるならヴィレと協力するのがいちばん効率的である。また、Qの予告やシンエヴァの回想シーンで渚カヲルが着ているのはNERVの制服であり、座っているのもNERVの司令席である、これを見るとWILLEよりかは明らかにNERVの司令であり碇ゲンドウとの関連性を表しているように見える。
また、『Q』ではWILLEの活動目的がNERVの所有するエヴァンゲリオンの破壊であると明らかにされたのに対して、カヲルはNERVが新たに建造している13号機のパイロットとして活動している。にもかかわらず、WILLE側は、誰一人それに対して言及することはおろか、カヲルの存在自体にすらも触れようとしない。
考えられる理由としてはそもそもWILLEのクルーはカヲルを知らないという可能性がある。
で、あるとするのならば、何故WILLEのクルーは司令である渚カヲルのことを知らないのか?
それは恐らく、カヲル自身がゲンドウの代理として人類補完計画に関わっているからだと思われる。
人類補完計画は、ゼーレとゲンドウの間でも思惑に齟齬があるのと同様、ゲンドウとカヲルの間にもその思惑に齟齬がある。カヲルが加持と協力したのも、あくまでもカヲルが「シンジを幸せにする」と言う目的の元で人類補完計画を利用したのだとすれば、カヲルがWILLEのクルーに対してその存在を明かさなかったのだとしても筋は通る。
その通りだとしたらカヲルはヴィレの司令というより創設者と言う方が正しいであろう。
渚カヲルは碇ゲンドウの暗喩であるという暗喩説
(クローンという説もあるがのクローンの定義と矛盾が生じる。)
なぜカヲルはわざわざNERV(碇ゲンドウ)の言いなりになっていたのか?と言う疑問に対するもう一つの解答となる説。
上記のヴィレの司令説に対して、こちらはややメタよりな視点に沿った説となる。
渚カヲルは劇中に置いて碇ゲンドウとの共通点が非常に多い。例えば、ピアノが好き、同じ第13号機に乗っている、碇シンジの「カヲル君は父さんに似ている」という発言、元々碇ゲンドウの所持していた音楽プレーヤーを修理できた、エヴァ破の月におけるゲンドウへの「はじめまして、お父さん」というセリフ等がある。
また、アニメ版においてカヲルの魂はアダムであることが示され、碇ゲンドウはアダムを自らに取り込んだ。そこにも関連性が見られる。
さらに、シンエヴァのラストシーンにおいて、ユイのクローンであるレイとカヲルが親しい様子が描写された。エヴァンゲリヲン新劇場版序〜シン・エヴァンゲリオン劇場版:||において2人はほぼ関わりがなかったはずなのに何故ラストシーンで2人が仲睦まじく描かれているのか。
それは、渚カヲルが碇ゲンドウの暗喩の役目も担っており、ゲンドウと言う存在のその後の暗喩として存在しているからではないか?とすれば筋が通るため、
ただ、魂はアダムのものなので碇ゲンドウをモチーフにした人工の生命体と言う方が正しいだろう。
それらの事実を暗に示すため、碇ゲンドウと同じ服装、同じ職業に就いているシーンを描写したのではないだろうか。
そもそも『渚カヲル』とは何者なのか?
「生命の書に名をつらねているからね。何度も会うさ。僕は君だ」
「僕も君と同じなんだ。幸せにしたかったんだ」
劇場版の終盤にて、とうとうカヲル自身の口から「同じ円環の物語を繰り返すしかなかった」という、事実が語られたことから、記憶を保持したまま、幾度も世界をループしていたと思われる。
そして、カヲルが自身の正体を明かした際には、序のラストシーンに登場した棺が再登場した。月面に円を描く様に囲みながら置かれた数多くの棺には、まだ明けられていない数多くの棺と共に、既に開かれた形跡のある数多くの棺があったこと、そして、TVシリーズ版第二十四話「最後のシ者」にてシンジとカヲルの回想にて、砂浜で二人が出会ったシーンが登場していること。その事からカヲルは少なくともTVシリーズから劇場版に至るまでの記憶を保持していることが窺える。
そしてカヲルは、加持との対話中、「渚とは、海と陸の狭間で波打ち際という意味を持ち、第1使徒であり第13使徒となる,人類の狭間をつなぐあなたらしい名前だ」と加持に言われており、TVシリーズ・旧劇場版・漫画版でのセカンドインパクトの原因であり、使徒の祖たる第1使徒アダムの魂を持った第17使徒タブリスと、新劇場版で第1使徒であり第13使徒ともなる「人類の狭間を紡ぐ存在」であることが明かされた。
また、ファンの中では未熟な性格である漫画版がループ一周目だったのではないか? などと考察されている。そして、砂浜でシンジが何度もここに来てカヲルに会ったことに気づいた時に発した、「生命の書」と言う新たな用語。
やはり、作中で一度も解説されることの無かったこの言葉だが、ここでいう生命の書は「ゲームのセーブデータ」に当たるものであろうと考えられる。
少し話はそれるが、おそらく「死海文書」やゼーレのシナリオはこの「生命の書」を使っている、または一部翻訳しているものと考えられる。
「碇ゲンドウ」との類似性と「父親の役割」
渚カヲルは上記で説明されている通り、ゲンドウの地位と同等と言える役職に就き、彼から人類補完計画の役割まで受け継いでいる。
しかし、渚カヲルはエヴァンゲリオンのストーリー上において、どちらかと言えばゲンドウと対立する存在である。それも、場合によっては使徒として人類もろともゲンドウと対立する存在である。
そんな彼が何故、ゲンドウの代理とも言えるほど重要な役割を受け持っているのか。
新劇場版において明らかになった可能性として、渚カヲルは碇ゲンドウの暗喩であるのではないか、というものが挙げられる。
特に新劇場版においては、渚カヲルには碇ゲンドウとの共通点が多々ある(ピアノ、音楽プレーヤー、乗っているエヴァ、シンジの発言、「はじめまして、お父さん」)上に、ラストシーンではユイのクローンであるレイとカヲルの2人が話している様子が描かれた。
『Q』と『シン・エヴァ』で描かれたカヲルの行動は以下のものとなる。
- シンジとピアノの連弾
『Q』ではシンジとピアノの連弾をし、現実を受け入れられず孤独なシンジの心を開くシーンがある。ゲンドウもピアノが好きということが『シン・エヴァ』で明らかとなっており、二人の共通点となる。
- S-DATの修理
S-DATはゲンドウから貰ったもので、いつもシンジが使っているもの。ヘッドホンを付けることで外界から遮断されるとゲンドウも言っており、シンジにとっても嫌な外の世界から自分を守ってくれる存在であった。
しかし、このS-DATは『Q』では壊れてしまっていたが、カヲルによって修理される。
- シンジとゲンドウの対話の場に出現
『シン・エヴァ』の終盤でシンジとゲンドウが対話した電車のシーン、ゲンドウがユイを見つけて降りた後に、そこにカヲルが現れた。この、父と息子の世界にカヲル君が存在する理由も、カヲル君に父親としての役割があったからではないだろうか。
本物の父ゲンドウはシンジと向き合わないことを選んだ。それが正しいことだと考えたが、それに対するように、父親の役割も与えられた存在のカヲルがシンジと向き合うことで幸せにしようとしていたという説もある。
自身でも気づいていなかった本当の目的。
第1使徒と第13使徒、あるいは旧版のエヴァ世界と新劇のエヴァ世界とつないでまで果たしたかった渚カヲルの本当の目的。
それは紛れもなく、碇シンジを幸せにすること。
実際、カヲルは新劇場版では、破のラストで「今度こそ君だけは幸せにしてみせるよ」という発言にもみられる通り、「シンジの幸せ」を目的としており、それは『Q』の作中でも見られ、前述通りシンジの気持ちを最後まで裏切っていない。
しかし、最終的にシンジは、カヲルが「シンジの希望になるはずだった存在」のエヴァ第13号機を「処分」することを決め、「エヴァ」を捨てようとするが、それに対してカヲルは抵抗するでも拒絶するでもなく、シンジにとっての幸せは「エヴァによるものではない」と分かり、「君の幸せを誤解していた」と言い謝罪した。
シンジとの最後の別れ、カヲルは「いつかまた逢えたら、ありのままの君と過ごしたい」と望む。そこに幼い姿のシンジが現れ、カヲルに手を差し伸べこう言う。
「仲良くなれる、おまじないだよ」
その言葉にカヲルは「変わらないな、君は。」と言いながらも、過去作品でも見せなかった目に涙を浮かべながらの微笑みを見せる。
そして初めて会ったであろう、あの砂浜で二人は握手をした。
そして、加持との対話の中で、カヲル自身にも気づかなかったカヲルの本当の目的が、「自分はシンジを幸せにするだけではなく、それによって自分が幸せになりたかった」のだと指摘される。
そして加持との会話の最後に、カヲルは加持から「あなたは十分に使命を果たしました。後は、シンジ君に任せましょう。葛城と一緒に老後は畑仕事でもどうです?」と言われ、一言「そうだね。それもいいね」と満足そうに言う。
渚カヲルは一人の人間として、エヴァの呪縛から解放された。
そしてネオンジェネシス後の新しい世界。駅の線路越しには、式波・アスカ・ラングレー、真希波・マリ・イラストリアス同様に大人に成長し、綾波レイや式波・アスカ・ラングレーと同じ駅に居るシーンが描かれた。
彼は綾波と一緒にいたが、どういう関係性かはわからなかった。
見ている人のご想像に任せる、といったところだろうか。