概要
関東地方の南方沖にある相模トラフ(北アメリカプレートとフィリピン海プレートの境界)で発生する海溝型巨大地震。過去に起こった地震としては、1703年の元禄関東地震および1923年の大正関東地震がこれに当たると考えられている。
- 将来の地震発生確率
地震の規模 | M8クラス(M7.9~8.6クラス)・最悪の想定はM8.7程度 |
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地震発生確率 | 30年以内に、ほぼ0%~5% |
平均発生間隔 | 180年~590年 |
(出典:地震調査研究推進本部より)
相模トラフ沿いが震源域と疑われる地震は多く存在するが、史料から確証が得られていないのが現状。安政江戸地震に関しては確実な震源断層が特定されておらず、相模トラフ沿いの地震に含まないので、「南関東直下地震」を参照。
相模トラフの東側について
相模トラフ巨大地震においては、
- 相模トラフ全体が震源域になるケース(およそ2000年に1回の間隔で発生)
- 相模トラフの西側が震源域になるケース(およそ200~400年に1回の間隔で発生)
とされており、「相模トラフ全体が震源域となって起きるケース」「相模トラフの西側が震源域となって起きるケース」が存在しているが、「相模トラフの東側が震源域となって起きるケース」は確認されていない。
そのため、相模トラフ巨大地震は、前回の巨大地震から100年ほどしか経過していないことから、「当面の間はM8クラスの巨大地震は発生しない」という結論に至っている。
しかし、国土地理院が近年の研究で推定した結果、神奈川県付近から房総半島沖にかけての広範囲で年間3cm程度の歪が溜まっていることが判明した。それを踏まえて元禄関東地震から歪量を考慮していくと、200年後にはおよそ6mに達する計算になるが、1923年に相模トラフの西側で巨大地震が発生したことによって、西側の領域に関しては歪が解放されたと見られている。しかし、東側の領域に関しては、1923年の巨大地震では解放されておらず、少なくとも300年間歪が溜まり続けているため、現在の量はおよそ9mにも達すると推定されている。
そのため、これだけのペースで歪が溜まっていた場合、相模トラフの東側が2000年に1回しか動いていないのは非常に不自然なことであり、むしろこの2000年間に東側だけがずれ動く未知の巨大地震が何度も発生していたとすると説明がつくことも判明している。
つまり、想定では「当面の間はM8クラスの巨大地震は発生しない」となっているが、それはあくまでも現在判明していることだけで考えればの話に過ぎず、解明されていない巨大地震も含めると「現在の関東地方ではM8クラスの巨大地震がいつ起きても不思議ではない」ということになる。
※関東では国が想定している首都直下地震ばかりに目が向きがちだが、実はそれよりも遥かに大きな規模で発生する相模トラフ巨大地震も切迫している可能性があり、再び想定外を起こすことになることも考慮しておかなければならないと言える。
過去の地震
- 元禄地震(元禄関東地震)
発生日 | 1703年12月31日 |
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発生時刻 | 2時前後 |
震央(震源地) | 千葉県南東沖と推定 |
地震の規模 | M8.2~8.5 |
最大震度 | 7と推定 |
津波 | 津波高は17.3m |
(出典:[報告]元禄地震(1703)における相模湾沿岸での津波高さ-東京大学地震研究所より)
元禄16年11月23日(1703年12月31日)の2時前後にM8.2~8.5の南関東(房総半島南端にあたる千葉県の野島崎)付近を震源とされる巨大地震が発生した。震源域は相模トラフのほぼ全域と推定され、相模湾沿岸~南房総にかけて震度7相当と推定されている。また、津波で最大のところでは一部遡上高が17mを越したところもあり、小田原城下は火災で壊滅的な被害を受けている。死者数は1万人以上と推測されている。
本地震と同日、ほぼ同時刻に豊後でも強い地震が発生している。
大正12年(1923年)9月1日の11時58分頃に神奈川県西部(或いは、相模湾)が震源として推定されるM7.9~8.2の巨大地震が発生した。相模トラフ沿いの西側が震源域とされ、神奈川県と千葉県の一部では現在の震度階級で震度7相当と推定されている。地震発生は昼食時であったことから大規模火災も発生し、地震の混乱で事件も多発した。死者・行方不明者数は10万5385人という日本の歴史的な大地震の中でも最大の死者数を誇る。
房総半島沖の地震について
房総半島沖では、陸側のプレートの下に南からフィリピン海プレートが潜り込んでいることから、国土地理院は、岩盤が押されて地震を引き起こす歪(ひずみ)がたまり続けているとみている。神奈川県の三浦半島付近も、同じようにひずみがたまり続けていますが、大正12年にM7.9の関東大震災が起きてひずみはいったん解放されている。一方、房総半島沖では、少なくとも300年間は大地震が起きていない。房総半島の隆起年代と矛盾する点があり、南東沖だけが頻繁に動くとうまく説明できるという。過去の活動歴は分かっていない。
関東周辺の地震
南関東直下地震:関東地方直下を震源として繰り返されて発生している巨大地震。内陸直下型とは限らず、海溝型による直下型も推定されている。メディアなどで報じられる首都直下地震は所謂南関東で発生するM7前後の地震の総称である(※決して、「首都直下地震=東京で起こる地震」ではない)。
海溝型地震
東北地方太平洋沖地震(東日本大震災):2011年(平成23年)3月11日14時46分頃に三陸沖を震源として発生した地震。『戦後最悪の震災』となり、日本の観測史上最大規模の地震となった。死者・行方不明者数は約2万2000人。
南海トラフ巨大地震:東海・東南海・南海・日向灘を震源として繰り返し発生している巨大地震。歴代の地震の中には東北地方太平洋沖地震の規模を上回る規模で発生した可能性のある地震も存在している。
関東における地震活動の活発期
関東地方では相模トラフ巨大地震が切迫するにつれて地震活動が活発化傾向になることが知られている。
それが上記の『過去の地震』⇒『関東周辺の地震』の項目で述べている「南関東直下地震(首都直下地震)」である。
元禄関東地震から記録を見てみると、大正関東地震(関東大震災)発生のおよそ70年前(1850年)頃から関東付近では地震活動が活発化傾向にあったことが分かっている。
履歴(M6.5以上を対象) | 発生年代 | 周期 |
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| 1703年※ | 活動期 |
【およそ80年間被害を出す大規模地震が発生していない状態が続く】 | 静穏期 | |
| 1782年 | |
【およそ70年間被害を出す大規模地震が発生していない状態が続く】 | 1704~1852年(静穏期間) | |
| 1853年 | 活動期 |
| 1855年 | |
| 1894年 | |
| 1895年 | |
| 1909年 | |
| 1921年 | |
| 1922年 | |
| 1923年※ | |
| 1924年 | |
【およそ60年以上被害を出す大規模地震が発生していない状態が続く】 | 静穏期 | |
| 1987年 | |
【現在も関東大震災が発生してから大規模地震が発生していない状態が続く】 | 1925~20XX年(静穏期間) |
※は相模トラフでM8クラス以上の海溝型地震が発生した年
(注)この群発地震に関しては例外としてM6.5未満の地震も多く含んでいる
つまり、南海トラフ同様に相模トラフにおける海溝型地震の発生が近づくにつれて、関東付近では地震が頻発する傾向にあると言えるのだ。つまり、関東付近ではそろそろ静穏期を終え、M7前後の大地震に襲われる時期に入ってきていると言える。
現在の首都圏では、南関東付近を震源とする大規模地震に戦後1回も襲われたことがないため、人口が密集している地帯で大地震が発生すると想像を絶する被害が出る可能性がある。また、表を見れば分かると思うが、関東付近における地震も活動期になると、1回発生したら終わりというわけではなく、何度も発生していることが分かる。
関連項目
外部リンク
地震調査研究推進本部(相模トラフ) 元禄関東地震・関東大震災(内閣府防災) 活断層・古地震研究報告No.11 防災科学技術研究所自然災害情報室 元禄関東地震(Yahoo!JAPAN) 関東大震災(Yahoo!JAPAN)