概要
海洋プレートが大陸プレートの下に沈み込む海溝やトラフなどのプレート境界周辺で発生する地震。次の2種類に大別される。
- プレート境界地震(プレート間地震)
- スラブ内地震(海洋プレート内地震)
単に「海溝型地震」といった場合、1の「プレート境界地震」を指す場合が多い。
分類
プレート境界地震
プレートテクトニクスにおける、複数のプレートの境界で発生する地震。プレート間地震ともいう。ただし、プレート境界には発散境界・すれ違い境界・収束境界の3種類があるため、このうち海溝などの収束境界で発生するプレート境界地震を指して「海溝型地震」という。一般的には、このプレート境界地震のみを指して「海溝型地震」と呼ぶことが多い。
海洋プレートは海水を含んでいるため、大陸プレートよりも重いのが特徴である。そのため、海溝やトラフなどの収束境界では、海洋プレートが大陸プレートの下に沈み込んでいく。すると2つのプレートの境界にひずみが蓄積され、そのパワーが限界まで達して溜まったひずみを一気に解放しようとした時、大陸プレートが跳ね返って大地震が発生する。これが海溝型地震(プレート境界地震)のメカニズムである。このタイプの地震は、海底の地殻変動による大津波を伴うことが多い。
プレート境界地震は、内陸で起こる直下型地震に比べると規模(マグニチュード)が圧倒的に大きいのが特徴であり、しばしば巨大地震となる。直下型地震の場合はM6〜M7がほとんどで、大きくてもM8くらいであるが、海溝型地震の場合はM7〜M8になるのは当たり前であり、M9以上の超巨大地震となることもある。関東地震(1923年・M7.9)やチリ地震(1960年・M9.5)、スマトラ島沖地震(2004年・M9.1)や東北地方太平洋沖地震(2011年・M9.0)などはいずれもこのタイプの巨大地震であった。東海・東南海・南海の沖合で繰り返し発生している南海トラフ巨大地震も同じタイプである。
比較的大きい地震はある一定の周期をもって繰り返し発生することが知られるが、プレート境界地震の発生間隔は直下型地震よりもはるかに短く、短いものでは数十年ないし100年〜200年おきに発生している。直下型地震の原因となる活断層の活動間隔は数千年〜数万年といわれているため、それよりも圧倒的に短いサイクルである。
海洋プレート内地震
沈み込む海洋プレートの内部で発生する地震を「海洋プレート内地震」という。このタイプの地震は、海洋プレートがポキンと折れることによって起こる。海洋プレート内地震は「スラブ内地震」と「アウターライズ地震」に大別される。
スラブ内地震
スラブとは、海洋プレートが海溝などからマントル中に沈み込んだ部分のことである。このスラブ内で発生するのが「スラブ内地震」である。普通の地震に比べて震源が深いのが特徴であり、津波は発生しにくいものの広範囲に揺れが伝わりやすい。震源の深さが100kmを超えるような深発地震は全てスラブ内地震であり、1993年の釧路沖地震(M7.5)や2015年の小笠原諸島西方沖地震(M8.1)などは、規模の大きい深発地震であったと同時に巨大なスラブ内地震でもあった。
地球上において、深発地震はスラブ内でしか発生しないのだ。そのため、深発地震の震源分布を分析すれば、海洋プレートとスラブの存在が確認できる。これを深発地震面という。
深発地震が発生するとしばしば「異常震域」が出現して、震源近傍よりも震源から遠く離れた地域で強い揺れを感じることがある。これは、震源がスラブ内にある場合、柔らかいマントルが揺れを吸収するため震央での地震動は小さくなる一方、固い海洋プレートを伝わっていく地震波は減衰せずに遠方まで伝搬しやすいためである。
2021年2月と2022年3月に連発した福島県沖地震(M7.3〜7.4)は、震源が日本海溝に近いが(東北地方太平洋沖地震のような)逆断層型のプレート境界地震ではなく、逆断層型のスラブ内地震であった。1987年の千葉県東方沖地震や2001年の芸予地震などもスラブ内地震である。
アウターライズ地震
アウターライズとは、海洋プレートが海溝から沈み込む際に折れ曲がることによって、海溝軸よりも外側の海底が隆起してできた地形のことである。スラブが既に沈み込んだ海洋プレートを意味するのに対して、アウターライズというのはまだ沈み込んでいない海洋プレートのことであり、ここではしばしば「アウターライズ地震」という正断層型の地震が発生する。震源域は陸域から遠く離れていることが多いため震害はそれほど深刻にはならないが、大規模な津波を誘発することがしばしばある。1933年の昭和三陸地震は典型的なアウターライズ地震であった。
逆断層型のプレート境界地震が発生すると、しばらくしてそれに誘発される形で正断層型のアウターライズ地震が起こることがある。昭和三陸地震の37年前にも明治三陸地震という逆断層型地震が発生していた。また、東北地方太平洋沖地震(低角逆断層型の巨大地震)に誘発されたとみられるアウターライズ型の余震も何度か発生しており、同地震の本震から約40分後にM7.5のアウターライズ地震が発生していたほか、2012年12月にも日本海溝の海溝軸付近で正断層型の地震が起きた。
スラブ内地震の定義にアウターライズ地震を含め、海洋プレート内の地震全般をスラブ内地震とする場合もあるが、アウターライズはスラブ内にあるわけではなく、前述の通り海洋プレートにおける部位が全く異なるので、厳密には両者を区別するべきである。