概要
南関東ではM(マグニチュード)7クラスの大地震が歴史的に繰り返されて発生している。この地震は南関東の直下を震源とする被害地震クラスの数種類の大地震をまとめて指す呼び方であり、首都直下地震とも呼ばれる。よくある誤解が、「首都直下地震=東京都で起こる地震(正確には、都心南部直下を震源とする地震)」という解釈だが、これは数ある首都直下地震の一つに過ぎない。つまり、東京都だけでなく、神奈川県・千葉県・茨城県南部・埼玉県南部などの直下で発生しても、それはすべて首都直下地震に該当する。
なぜ、関東地方では大地震が繰り返し発生する領域なのかについてだが、
- 関東地方が乗る「北アメリカプレート(北米プレート)」には、南側から「フィリピン海プレート」、東側から「太平洋プレート」が沈み込んでいる
- 1の下には、「太平洋プレート」が「フィリピン海プレート」の下に沈み込んでいる(但し、「フィリピン海プレート」と「太平洋プレート」の間には、太平洋プレートの断片である「関東フラグメント」というもう一枚のプレートが存在する仮説もある)
というように、関東地方の直下は他の地域と比べると、プレートの沈み込み帯が密集しているエリアなのである。なお、地下には太平洋プレートの断片である「関東フラグメント」というもう一枚のプレートの存在も示唆されている。
プレートの沈み込み帯が複数存在していることもあり、関東地方で発生する地震のメカニズムも多様で、
- 「北アメリカプレート」内部で発生する地震(「関東フラグメント」の仮説を考慮した場合は、「ユーラシアプレート」内部で発生する地震)
- 「北アメリカプレート」と「フィリピン海プレート」のプレートの境界で発生する地震
- 「フィリピン海プレート」内部で発生する地震
- 「フィリピン海プレート」と「太平洋プレート」の境界で発生する地震(「関東フラグメント」の仮説を考慮した場合は、「フィリピン海プレート」と「関東フラグメント」の境界で発生する地震・「関東フラグメント」と「太平洋プレート」の境界で発生する地震)
- 「太平洋プレート」内部で発生する地震
というように、多くのタイプの地震が発生する。このように地下構造が複雑な関東地方では、地震のタイプの特定も難しく、過去の被害地震の発生様式が特定されていないのが現状だ。
また、南関東付近では、想定されている首都直下地震よりも、さらに規模の大きい相模トラフ巨大地震も、数百年に1回の頻度で発生しているが、関東地方ではその地震が切迫するにつれて、M7前後の大地震が頻発する傾向にあることが判明している(詳細は『関東地方活動期』を参照)。
このように大都市として発展した関東地方は、世界的に見ても多くのリスクを背負っている地域である。
相模トラフから北側をも含めた関東地方南部のいずれかの地域を震源域として、ひとまわり規模が小さいM7前後の地震が平均数十年に一度程度の割合で発生している。例としては1855年11月11日(安政2年10月2日)の安政江戸地震(M6.9)と1894年(明治27年)6月20日の明治東京地震(M7.0)などが挙がる。大陸プレート内地震(内陸地殻内地震)に限らず、プレート間地震(海溝型地震)、スラブ内地震も想定される。
このような震源が直下の地震は、緊急地震速報発信がS波到達の直後になってしまうことは避けられず、揺れ終わったらすでに被害が出終わっていることの方が圧倒的に多い。そのため、家具の固定などの事前の備えが大前提となる地震と言える。
東北地方太平洋沖地震発生以降に関東周辺の地震活動が活発化しているため、注目がなされている。
将来の地震発生確率
政府の地震調査委員会が公表している地震の発生確率は、3%以上の段階で「高い」・0.1~3%の段階で「やや高い」に位置付けられている。但し、この発生確率については、発生周期をもとに算出されているため、信憑性は殆どない。以下の情報は、あくまでも指標の一つとして、あなたの地域の地震のリスクについて、どのような地震に備えればよいのかという観点で参照して頂くことを推奨する。
先ほども述べたが、発生確率を鵜吞みにするのは非常に危険であり、たとえ0%でも地震は不意打ちでいつどこで起きてもおかしくないため、確率にこだわらずに日頃の備えが重要になってくる。
また、活断層が発見されていない伏在断層でも、大地震が発生する可能性があるということにも注意していただきたい。むしろ、伏在断層で活動する地震も非常に多い。
なお、今回は「首都直下地震」には含まれない北関東地域の断層も敢えて含めて記述している。
- プレートの沈み込みに伴うM7程度の地震
地震の規模 | M7程度(M6.7~7.3) |
---|---|
地震発生確率 | 30年以内に、70%程度 |
- 関谷断層
地震の規模 | M7.5程度 |
---|---|
地震発生確率 | 30年以内に、ほぼ0% |
- 内ノ籠断層
地震の規模 | M6.6程度 |
---|---|
地震発生確率 | 不明 |
- 片品川左岸断層
地震の規模 | M6.7程度 |
---|---|
地震発生確率 | 30年以内に、0.4~0.6%以上 |
- 大久保断層
地震の規模 | M7.0程度以上 |
---|---|
地震発生確率 | 30年以内に、0.6% |
- 太田断層
地震の規模 | M6.9程度 |
---|---|
地震発生確率 | 不明 |
- 深谷断層帯・綾瀬川断層(関東平野北西縁断層帯・元荒川断層帯)
深谷断層帯 | |
---|---|
地震の規模 | M7.9程度(大正関東地震と同規模) |
地震発生確率 | 30年以内に、ほぼ0~0.1% |
綾瀬川断層(鴻巣~伊奈区間) | |
地震の規模 | M7.0程度 |
地震発生確率 | 30年以内に、ほぼ0% |
綾瀬川断層(伊奈~川口区間) | |
地震の規模 | M7.0程度 |
地震発生確率 | 不明 |
- 越生断層
地震の規模 | M6.7程度 |
---|---|
地震発生確率 | 不明 |
- 立川断層帯
地震の規模 | M7.4程度 |
---|---|
地震発生確率 | 30年以内に、ほぼ0.5~2% |
- 鴨川低地断層帯
地震の規模 | M7.2程度以上 |
---|---|
地震発生確率 | 不明 |
- 三浦半島断層群
主部(衣笠・北武断層帯) | |
---|---|
地震の規模 | M6.7程度 もしくはそれ以上 |
地震発生確率 | 30年以内に、ほぼ0~3% |
主部(武山断層帯) | |
地震の規模 | M6.6程度 もしくはそれ以上 |
地震発生確率 | 30年以内に、6~11% |
南部 | |
地震の規模 | M6.1程度 もしくはそれ以上 |
地震発生確率 | 不明 |
- 伊勢原断層
地震の規模 | M7.0程度 |
---|---|
地震発生確率 | 30年以内に、ほぼ0~0.003% |
- 塩沢断層帯・平山−松田北断層帯・国府津~松田断層帯(神縄・国府津−松田断層帯)
塩沢断層帯 | |
---|---|
地震の規模 | M6.8程度以上 |
地震発生確率 | 30年以内に、4%以下 |
平山~松田北断層帯 | |
地震の規模 | M6.8程度 |
地震発生確率 | 30年以内に、0.09~0.6% |
国府津~松田断層帯 | |
地震の規模 | 相模トラフで発生する海溝型地震と同時活動すると推定 |
地震発生確率 | 相模トラフで発生する海溝型地震と同時活動すると推定 |
- 曽根丘陵断層帯
地震の規模 | M7.3程度 |
---|---|
地震発生確率 | 30年以内に、1% |
など
(出典:地震調査研究推進本部 関東地方の地震活動の特徴・相模トラフより)
※厳密には、関東大震災のようなより規模・被害が大きい相模トラフで起こる海溝型地震を含まないのでご注意を。
過去の地震
過去に発生した地震はM6~7クラスの巨大地震が多く発生し、揺れによる被害が発生。ここでは最近の地震を取り上げる。
- 天明小田原地震
天明2年7月15日(1782年8月23日)にM7.0(7.3)程度の地震が発生。月初めより前震あり 、被害は大きく、小田原城の櫓、石垣に被害があり、民家が一千戸倒壊し、江戸で死者が出た。箱根山、富士山、大山で山崩れがあった。震源が足柄平野という見解もあり、小田原地震ではないという学者も存在する。
- 安政江戸地震
1855年11月11日の22時00分頃に江戸直下を震源とするM6.9 ~7.4の地震が発生し、現在の震度階級で東京都(江戸)で震度6強相当(地点によっては震度7相当の可能性)を観測したと推測される。また、1850年代に連発した安政東海地震と安政南海地震などの『安政の大地震』の一つでもあり、隅田川東側(江東区)で特に強い揺れを観測し、震度4以上の地域は東北地方南部から東海地方まで及んだと推定。死者は4000~1万人余りとなっている。この地震の影響で江戸城や幕閣らの屋敷が大被害を受けた。さらに被災者への支援、江戸市中の復興に多額の出費を強いられ、幕末の多難な時局における財政悪化を深刻化させた。
- 明治東京地震
1894年(明治27年)6月20日14時4分、東京湾北部を震源として発生した地震、南関東直下地震の一つである。地震の規模はM7.0であり、震源の深さは約40kmから80kmと推定される。被害の中心は東京から横浜にかけての東京湾岸で、建物の全半壊は130棟で、死者は31人となっている。
など、上記で挙げた地震以外に他にも多く発生している。
関東地方活動期
南関東付近では、プレートの境界で起きる相模トラフ巨大地震の発生が切迫するにつれて、M7前後の直下型地震が増加する傾向にあることが判明している。
なお、地震活動の少ない時期(静穏期)と地震活動が活発化する時期が存在するのは、相模トラフにおけるプレートの境界での歪の蓄積量が関係している。M8クラスの相模トラフ巨大地震が発生すると、一旦歪が解消されるため、周辺では地震が起きにくくなり、相模トラフ巨大地震発生後は関東地方では被害地震が発生しにくい状態がしばらくの間継続する。しかし、月日が経過するごとに、歪が溜まっていくため、関東地方では地震活動が活発化する時期になっていく。これが、関東地方で静穏期と活動期が存在する理由である。
現在の関東地方は、前回の関東地震から100年ほどしか経過していないため、M7前後の大地震は多く発生していないが、そろそろ活動期に突入する時期に入ってきているとも考えられているため、被害地震が増えると予想される。
実際に、地震の記録が多く残されるようになった江戸時代の元禄関東地震から関東の活動記録を見ていくと、
活動履歴(M6.4以上を対象) | 発生年代 | 周期 |
---|---|---|
元禄関東地震(M8.1~8.5) | 1703年〇 | 活動期 |
およそ80年間大地震が発生しない状態が続く | 静穏期 | |
| 1782年 | |
およそ70年間大地震が発生しない状態が続く | 1704~1852年(静穏期間) | |
| 1853年 | 活動期 |
| 1855年 | |
| 1894年 | |
| 1895年 | |
| 1921年 | |
| 1922年 | |
大正関東地震・関東大震災(M7.9~8.2) | 1923年〇 | |
| 1931年 | |
60年以上大地震が発生しない状態が続く | 静穏期 | |
| 1987年 | |
関東大震災(北関東も含めると西埼玉地震)以降、現在も大地震が発生しない状態が続く | 1924~20XX年(静穏期間) |
※〇は相模トラフで発生したと推定されるM8以上の海溝型地震
※△は基本的に南関東直下地震には含めない
のように活動期になると1回発生したら終わりというわけではなく、複数回襲ってきていることが分かる。また、東京などで大都市が大きく誕生したのは、たまたま戦後1度も南関東を震源とする大地震に襲われない時期であったということも要因の一つである。
関東地方は、「関東造盆地運動」という関東の中央部で沈降が起こり、周囲の山地などが隆起する運動が起きたことで形成され、赤城山などの周辺の火山活動や河川による陸地の浸食などの複数の要因が重なって出来た地形である(昔の関東地方は、大部分が海などで覆われていた)。つまり、このような場所は柔らかい地層となっているため、他の地方と比較すると地盤は非常に軟弱。そのため、液状化の被害や、大地震の際に発生する長周期地震動による影響なども諸に受けてしまう地質的には非常に脆弱な地域である。
そのような場所に経済の中心となる大都市が存在しているということは、仮に大地震が発生した場合は想像を絶する被害を出す可能性も否定できず、耐震化などは進んだとしても、今度は大都市ならではの新たな被害が生じる可能性が生まれているため、むしろ戦前よりも現在の方が大被害になる可能性を指摘する専門家もいる。
被害想定
中央防災会議の報告によると、ある日の冬の夕方に都心直下でM7.3の地震が発生した場合、死者約2万3000人、全壊の建物約61万棟、経済被害約95兆円という甚大な被害が出ると想定されている。
- 都道府県ごとの想定
都道府県 | 死者数 | 全壊の建物 | 焼失の建物 |
---|---|---|---|
東京都 | 約1万3000人 | 約11万2000棟 | 約22万1000棟 |
神奈川県 | 約5400人 | 約4万1000棟 | 約9万5000棟 |
埼玉県 | 約3800人 | 約2万6000棟 | 約7万1000棟 |
千葉県 | 約1400人 | 約1万7000棟 | 約2万5000棟 |
※死者数1000人を超える可能性のある都道府県のみ掲載
※死者数1万人・全壊の建物10万棟・消失の建物10万棟を超えるものは太字となっている
※あくまで想定のため絶対的なものではない
※震源の場所と深さ、規模によって被害は変化してくる
アニメ
『東京マグニチュード8.0』という2009年7月から9月にかけて、フジテレビのノイタミナ枠で放映されていた。アニメでは下記のようになっており、死者数は推定18万人で、行方不明者数は15万人(いずれも2012年7月23日時点)という設定になっている。
地震発生日 | 2012年7月21日 |
---|---|
時刻 | 15時46分頃 |
震源地 | 東京湾北部 |
震源の深さ | 約25km |
マグニチュード | 8.0(タイトルの通り) |
最大震度 | 7(東京湾北部) |
地震の種類 | 海溝型 |
詳しくは『東京マグニチュード8.0』を参照するといい。
関連タグ
相模トラフ巨大地震
元禄地震:元禄16年11月23日(1703年12月31日)の2時前後に千葉県でM8級の地震が発生。死者数は1万人以上と推測されている。
大正関東地震(関東大震災):大正12年(1923年)9月1日に相模湾を震源として発生した地震。『日本災害史上最悪』となっており、日本観測史上最大の死者数を誇る。死者・行方不明者数は10万5385人(1925年時点では14万2800人)。
※震度7は福井地震以降に導入されたたため、最大震度6となっているが、千葉県と神奈川県では現在の震度階級で震度7相当の揺れに見舞われたと推定されている。
安政江戸地震関連
江戸城:地震で大被害を受けた。
隅田川:特に強い揺れとなった地点。
安政東海・南海地震:嘉永7年・安政元年11月4日(1854年12月23日)9時頃に南海トラフの東側を震源とするM8.4~8.6の地震が発生。さらに約32時間後の11月5日16頃に誘発される形で西側もM8.4~8.7の地震が発生し、いずれもM8級の巨大地震であった。同じく『安政の大地震』の一つ。