概要
東野圭吾の推理小説・ガリレオシリーズ第8弾。シリーズでは5作目となる短編集で、全編書き下ろし作品である「透視す」「曲球る」「念波る」「猛射つ」の4作を収録する。
ちなみに、全編書き下ろしとなったのは史上初。
著者曰く、前作『虚像の道化師 ガリレオ7』でシリーズの短編は終わりと考えていたが、小説の神様の気まぐれを思い知らされた作品。当初は『虚像の道化師』もこれまでの短編同様に5編収録させようと考えていたが、湯川や草薙の人生や生活を積極的に書こうという想いから湧き上がったアイディアから『虚像の道化師』での4編からさらに4編書き上がったため、合計すると原稿用紙1000枚超に達することから、本作と『虚像の道化師』の2冊に分けたという背景がある。
なお、当初本作は『禁断の魔術 ガリレオ8』として文藝春秋から2012年に単行本として出版されたが、後に『虚像の道化師』が文春文庫版オリジナルとして刊行される際に「透視す」「曲球る」「念波る」の3作が収録された。残る「猛射つ」は著者の手によって大幅に改稿されて長編となり、『禁断の魔術』に改名された上で2015年に文春文庫版オリジナルとして刊行された。
各章あらすじ
第一章・透視す(みとおす)
草薙俊平に連れられ、彼の行きつけの銀座のクラブ「ハープ」に赴いた湯川学は、そこでホステスのアイの接客を受ける。アイは湯川に出させた名刺を見ることなく湯川の名字を言い当てるという透視の芸を披露し、それを見た湯川は一度はコートの裏側の刺繍を見たと推理して納得したが、帰り際にアイが自分の名前や職業まで言い当てたために驚愕した。
それから4か月後、そのアイ_相本美香が何者かによって殺害された。草薙達は顔見知りによる犯行として捜査を行うが、美香本人は死者への同情を抜きにしても誰からも慕われる女性であり、トラブルも遠隔地に住む継母と確執があったことくらいだったため、彼女を殺す動機のある人物の特定に難航してしまう。
やがて、草薙達は美香の足の指の間に付着していた煙草の葉を手掛かりに犯人を突き止めて逮捕。犯人は横領を行っており、美香が例の透視によってそれを見抜いたことが犯行の動機だったが、肝心の透視のからくりが判らず、行き詰った草薙は湯川に相談する。草薙から経緯を聞いていた湯川は透視の謎と、美香の抱える一つの問題に光を当てていく。
第二章・曲球る(まがる)
プロ野球選手・柳沢忠正の妻である妙子がスポーツクラブの駐車場で撲殺される事件が発生。捜査の結果、スポーツクラブの元警備員がアイドルグループの追っかけに必要な資金を得るために犯行に及んだことが判明し、元警備員が逮捕されて事件は解決した。
ただ、妙子は殺害される直前にデパートで置時計を購入していたのだが、その購入目的は柳沢自身も心当たりが無く、結局謎のままとなってしまう。一方、野球選手としての限界を感じていた柳沢は、遺留品の置時計を返却しに来た草薙に話の流れで湯川を紹介され、湯川から科学的な監修を受けることになった。
柳沢の様子を見に来た湯川は彼の車から錆が出ているのを発見。その車が事件当日に妙子が乗っていたと聞いた湯川は草薙や内海薫と共に妙子の行動を調べ始める。そして、置時計購入の背景にあった妙子の想いが明らかになる。
第三章・念波る(おくる)
東京都内でアンティークショップを経営している磯谷若菜が、帰宅の際に何者かに襲われ、意識不明の重体となる事件が発生。これを最初に知ったのは若菜の双子の妹で、長野県に住む絵本作家・御厨春菜だったが、彼女の言い分は驚くべきものだった。
というのも、春奈は長野の自宅にいた際に姉からのテレパシーで事件を知り、犯人の顔のイメージも姉から受け取ったというのである。流石に捜査報告書にテレパシーなどと書くわけにいかない草薙と内海は何とか筋の通った説明をつけようと、春菜を湯川の研究室へ連れて行った。
ところが、当の湯川は草薙たちの思惑から外れ、春菜のテレパシーについて本格的な研究を始める。
第四章・猛射つ(うつ)→長編『禁断の魔術』
ある年の5月、古芝伸吾という一人の青年が、湯川の所属する帝都大学理工学部物理学科第十三研究室を訪れる。伸吾は湯川と同じ高校の出身で、高校時代に湯川から科学を学ぶと、その魅力に感銘を受けて帝都大学を受験。見事合格を果たし、湯川のもとへ挨拶にやって来たのである。しかしその日、伸吾の姉で新聞社政治部記者・古芝秋穂が、都内のホテルで死亡した。
それから約10か月後の翌年3月、一人のフリーライターが殺害される事件が発生。事件の容疑者として捜査線に浮上したのは伸吾だった。伸吾は姉が死亡した直後に帝都大学を退学し、金属加工メーカーに入社したのだが、警察がフリーライター殺害事件の捜査を始めた直後に失踪していた。その後の捜査の結果、伸吾が代議士で元文部科学大臣の大賀仁策の殺害を計画していることが判明する。
目的は姉・秋穂の敵討ち。その方法は、かつて湯川に教わった技術を改良したものだった。
- 長編への改稿に際しては、単なる増補に加え、それに留まらない設定変更がなされた。
実写化
これまでに、「曲球る」と「念波る」の2作が2013年に放送されたフジテレビ版連続ドラマの第2シーズンとして実写化されていた。
中編『禁断の魔術』は、第2シーズン放送終了の9年後の2022年9月17日に実写化が果たされ、フジテレビの土曜プレミアアム枠にてスペシャルドラマとして放送された。
時系列上は同年同月に劇場版として公開される『沈黙のパレード』の前日譚にあたり、内海薫が帰国するまでの新たな相棒枠(※)として新木優子演じる牧村朋佳が登場する。
唯一「透視す」のみは2022年の時点では映像化されていない。
※ ただし、劇中では先輩である草薙や太田川と行動することが多く、実際のところ湯川との絡みは内海や岸谷と比べるとそこまで多くはない。実際、2人で行動する場面も片手で数える程しかなく、牧村もちゃんとした挨拶すらできないままニューヨークへ出張に行ってしまった湯川に対する申し訳なさと後悔を口にしていた。
登場人物
- 牧村朋佳(演:新木優子)
貝塚北署の女性刑事。正義感は強いが忖度度返しの行動を取りがちで物事を決めつける傾向があることから、上司の草薙俊平から「半人前」扱いされている。湯川については噂程度に知っていた様子で、非常に興味津々だった。