概要
1. 書類や書物に記すこと(※a1~2)。また、その内容(※a1)。
2. 生物学(とりわけ分類学〈cf.Wikipedia〉)において、種の形質を始めとする、生物の分類群 (cf.Wikipedia) を定義するための諸情報を、査読可能な文献に著すこと(※a1~2,4)。また、その文(※a1)。慣習上は、原記載(複数あるうちでの最初の記載)(※a1,4)を指すことが多い。
この意味での日本語「記載」は、英語 "description (cf.Wiktionary:en)"(※a4)の訳語であり、英語ではより厳密に、例えば「種の記載」なら "species description (cf.Wikipedia:en)" と呼ぶことが多い。
生物の記載
関連語
- 分類学的記載 … 語義に厳密性を持たせたい場合に用いられることがある語。
- 記載論文 … 記載する/してある論文。
- 記載者 … 記載する/した著者 (author)。個人もしくは複数の個人が著者になる。新種やそれ以外の新タクソン(新しい分類群)の場合、記載者に命名権があり、命名して発表するため、記載者は「命名者(学名命名者;nomenclator)」と呼ばれる。
- 記載年 … 記載された年。
- 原記載(げんきさい、original description)… 数ある記載の中で最も早期に公表されたもの。
- 未記載(みきさい、undescribed)…「未だ記載されざる」の意。分類学的記載が行われていない状態を指す。未記載種であることを学名で表現する際は、単一種の場合 "sp."、複数種の場合 "spp." と書き添える。
- 未記載種 … 英語では taxon(タクソン / 分類群)の場合 "undescribed taxon"、species(種)の場合 "undescribed species" という。
未記載種と新種
分類学において、未だ記載されざる種は「未記載種(みきさいしゅ)」といい、国際名(英語名)では「記述されていない種」という意味で "undescribed species" という。
そして、記載論文という形で記載された段階で初めて未記載種は「新種」になる。
したがって、あえてここで学術的厳密性を背負って言うならば、例えばテレビ番組で「専門家の監修の下で芸能人が新種を発見した!」などという謳い文句は、キツい言葉を使えば詐称かつ勇み足であり、「芸能人の新種探しに随伴していた専門家が(知識を持たないがゆえに見付ける術の無い芸能人に代わって)未記載種を発見した!」「その後、専門家が当該種を研究して既知の種ではないとの確証を得、標本と学名を整えたうえで論文に記載し、これをもってあのとき見付けた種は晴れて新種と認められた(記載論文を査読されたうえで異論が出ていないので広く『新種』と認められたと考えて問題ない)!」というのが実際ということになる。
もっとも、この件について最も深く掘り下げた書物の一つと言える、ジュディス・E・ ウィンストン著、馬渡峻輔・柁原宏 翻訳『種を記載する 生物学者のための実際的な分類手順』に「新種を発見したら 」という帯が付いているように、専門家であっても用語を厳密に使っているわけではない。
参考資料
※泉1 「【専門家が講義】熱血★分類学講義!~第7講・新種記載~」水族館マスター · クラゲさんラボ (Dr. クラゲさん)(YouTubeチャンネル)、2021年4月5日投稿。※2017年の新種(新属新種)「テンプライソギンチャク」の記載者による解説動画。※【注意】無駄に元気な熱血おじさん(分類学者・泉貴人)が冒頭で雄叫びを挙げる仕様になっています! ※当該部分は 1分36秒から21分13秒あたりまで。
関連イラスト
1. 古生物の知見を記載する論文などでよく見られる図解の例。ここでは、本題としている恐竜の部分骨格化石と、それを基にしつつ既存の知見に鑑みて推定される全身のフォルムを示してみせている。もちろん、記載される内容のメインは詳細な解説文であるが、こういった画像も内容の一部である。記されている文字列は学名であるが、最後の数字はこの種(Santanaraptor placidus)が新種として「原記載」された年(1999年)を表している。厳密に言えば[ 学名(イタリック体で記すのが本来)+ 命名者名=原記載論文の著者名(Kellner|基本的には名字のみ)+ 原記載年 (1999) ]という構成になっている。
脚注
出典
※a1 「記載」 コトバンク > 小学館『精選版 日本国語大辞典』
※a2 「記載」 コトバンク > 小学館『デジタル大辞泉』
※a3 「記載」 コトバンク > 小学館『日本大百科全書(ニッポニカ)(cf.Wikipedia)』、加藤昭、2015年9月15日。
※a4 「記載」 コトバンク > 平凡社『改訂新版 世界大百科事典』、岩槻邦男
※b 「「記載」と「記入」はどう違う? 使用する場面や類語・英語訳を紹介」 小学館『Oggi.jp』、2023年9月27日作成。
※c 「命名規約」 北海道大学、露崎史朗、2021年4月5日更新。