概要
辺境伯は爵位の一つで、ドイツ語のMarkgraf(Mark=辺境、Graf=伯)の訳語として当てられる。この語は「侯爵」と訳されるフランス語のmarquis、英語のmargraveやmarquessと同語源で、英語版wikipediaのMarquessの項では等価な語であるとしており、Markgrafはmargraveにリダイレクトされる(=同一語とみなされている)。
同じ語が「辺境伯」「侯爵」と別の訳語が当てられるようになったのは、他国ではDukeとPriceが同格扱いで公爵相当となるのに対して、ドイツ史ではDuke相当のHerzogとPrice相当のFürstの格付けが異なり、Fürstに侯爵の訳語を当てたため、それとMarkgrafを区別する必要が生じた事情による。このため、「伯」と訳されているものの、五等爵の序列に当てはめた場合は侯爵相当とすることが多い。
詳細
文字通り「国の端の領主」と言える地位で、フランク王国(神聖ローマ帝国)がその四方の辺境に作ったもので、国境を守る領主であるため、他の伯爵より強い権限が与えられた。国境沿いとそうでないところで統治者の格を分ける手法は、帝政最初期の古代ローマでアウグストゥスが統治領域を皇帝属州と元老院属州に分けたことが慣習として引き継がれたためとされる。
フランク王国では、スラブ人、イスラム教徒、ブリテン島のケルト地域など非キリスト教信者が住む地域との境界に設けられた。ゲロ辺境伯のように、異民族に破れて消滅するものもあったし、異民族に勢力を拡大し、ほかの爵位を手に入れて雄飛するものもあった。
後者の例として有名なのは、ニュルンベルク城伯からブランデンブルク辺境伯、選帝侯を兼任し、やがてプロイセン公からプロイセン王となりドイツ帝国を興したホーエンツォレルン家である。またフランク王国がイベリア半島に作ったスペイン辺境伯は、やがてナバラ王国とバルセローナ伯爵領に発展し、そこからカスティーリャ王国、レオン王国、アラゴン王国が生まれていった。これらを統合して生まれたのがスペインである。
前述の通り五等爵の序列に当てはめた場合は侯爵相当とすることが多いが、教皇庁序列資料でのブランデンブルク辺境伯の序列は諸国の公爵よりも上であった(選帝侯だからだと思われる)ように、古くから存在し歴史の中で繁栄するものと衰退するものが分かれていったため、肩書と実際の格付けがばらつきやすい。
なお日本では「辺境」と言う訳語の響きのせいか、「伯爵より扱いの悪い田舎貴族」と勘違いされる事も多いが、決してそんな事はないので注意。
全く同一視はできないが、その立場や権限から日本的に言えば征夷大将軍や鎮守府将軍が類似する。
フィクションにおける辺境伯
辺境伯はファンタジー作品でも人気の爵位である。
作品にもよるが
- 領地の外側に接する貴族で、多大な権限を持ち、強力な騎士団や交易ルートを持つ
- 一方で中央の社交界から離れ、外敵の対処など野蛮な役割をすることから、周囲から軽んじられたり、偏見の目で見られることがある
- 外側にあるので異民族やモンスターの侵攻など色々と事件が起きがち
といった扱いが多く、高い実力を持ちつつトラブルに事欠かない便利な爵位・領地として「恐れられる辺境伯家に嫁入りしたら…」「冒険のために辺境へ…」など色々扱われる。
また近年ではフィクションでの扱いから逆に「字面では下等な貴族と誤解されやすいが実際は違う」という事実だけ有名になっているところすらある。