概要
端的に言えば盾を持って、ずらーっと並んで戦う歩兵のこと。
歴史上、古代ギリシアのホプリタイ、ローマのレギオンなどが有名。中世以降、戦列歩兵に取って代わられ、消滅した。
歴史
歩兵の中でも比較的、重い装備を着けるものを指す。
当時、重装歩兵部隊は、軍の主力であり、基本的に集団で運用され戦列を形成する。また構成される兵士は、武器を自分で購入することができる富裕層であり、政治の基盤ともなっていた。
古代の主力
代表格といえるギリシアのホプリタイで説明するとホプロン(円盾)と長槍を持って複数の歩兵が並び、ハリネズミのように一塊になって戦う。この時、隣の兵士の盾で自分を守るため、微妙に列が乱れていくという弱点があった。また接敵を警戒し、剣を扱う者が四隅に配されている。さらにペルタストと呼ばれる投石、弓などを扱う軽装歩兵に周囲を守らせていた。
時代が下ると様々な改良を加えられたが、特徴的なのがマケドニア王フィリッポスによって考案されたマケドニア式密集陣形(ファランクス)である。
これは、大まかには従来のホプリタイより長いサリッサという長槍を使用し、円盾を小型化して攻撃力を高めたものであるが反面、ファランクスの持つ柔軟性を損なっている欠点があった。
ローマ共和国(古代ローマ帝国)も建国当初は、当時の先進文明だったギリシアの影響を受け、ホプリタイに似た装備を運用していたと考えられている。
しかし黎明期のローマでは、長い槍を振り回す訓練は、習熟に時間を要することもあり、剣が主体となった。その後、様々な異民族との戦いを経験し、敵の戦法・装備を取り込む間にレギオン(ローマ軍団)、レギオナリウス(軍団兵)という軍事技術が誕生した。ただ帝国期に入ると長槍による密集隊形に移行している。
これは、マリウスの改革により食料などの荷物も補給部隊ではなく自分で運ぶという制度、給料・除隊後の年金体制、市民権が与えられる除隊までの期間、階級制度などが加えられ、ホプリタイよりも複雑な軍事技術として長くローマを支えた。
重装歩兵の密集隊形は、前方に展開する敵に対して非常に有効な戦法であった。
当時は、通信機も伝令手段も未発達であり、全ての兵士は指揮官の声が届く範囲にいなければ有効的に運用することが難しかった。確かに装備の重さのせいで小回りが利かず、騎兵などの攻撃を受けると一溜りもなかったが、そこまで騎兵を自在に扱える指揮官が少なく総合的に考えれば問題にならなかった。
重装歩兵の崩壊
戦場を素早く移動する騎兵に対して重装歩兵は、圧倒的に不利であり騎兵の台頭と共に徐々に廃れていった。
事実、東ヨーロッパへのモンゴル帝国侵攻でモンゴル騎兵の前に重装歩兵は、全くの無力であったことが証明されており、「兵士に求められるのは防御力よりも身軽さ」となる時代の幕開けであった。
中世が騎士の時代になったのは、経済規模が縮小し、兵数が少なくなったことに原因がある。
重装歩兵は、騎兵より短い訓練期間、費用で動員できるものの、ローマ帝国の崩壊後、武器を自分で用意できる有産階級が没落し、貧富の格差が開いた。
それまで重装歩兵は、数で騎兵の突撃を跳ね返して来たが、人数が揃わなければ対抗できない。何より兵数が多ければ、自然と戦闘回数は多くなり、少数の騎兵が何度か活躍しても戦局に響くことはなかった。現にハンニバルがローマに何度勝っても重装歩兵が補充出来る限り、鮮やかな騎兵の一撃は、戦場の勝敗に結びついても全体として戦争の決定打にならなかったのである。
また騎兵に対しては、弓や投石で対抗する軽装歩兵の方が遥かに安い費用と短い訓練期間で動員できるため、騎兵は主力にならなかったのである。
しかし大規模な戦力を動員できる国家は、ローマ崩壊後の欧州・中東・西アジアには残っておらず、戦場で戦う人数が少なくなった以上、個として絶対的に強い騎兵が主役になったのである。
全体が弱体化したことで集団戦法より、個人の戦闘力が重視される時代になった。これにより騎兵は、重装備化し、東ローマ帝国のカタフラクト、日本の鎌倉武士に代表されるように大鎧に槍、弓などを装備して一個人の戦闘力に偏重した時代を表している。
再建と消滅
欧州では5世紀から15世紀の間、騎兵が戦場の主役に君臨した。
しかしクロスボウやスイスのパイク歩兵が登場すると立場を奪われてしまう。
パイク歩兵は、戦場に突き立てた騎兵避けの杭を歩兵が手に持って使うようになったことが由来とされている。その運用は、ギリシアのホプリタイに似ているが円盾を持たず、歩兵たちは兜と鎧で身を守っているだけであり、より攻撃的な役割を持たされていた。ドイツのランツクネヒトは、有名なハルバードや両手剣などを用い、騎兵に対抗した。スペインでテルシオと呼ばれる歩兵の隊形を完成すると騎兵の突撃は有効に働かなくなった。
この戦場の変化は、ルネサンスを経て混乱が終息し、経済的にも豊かになった西欧諸国は、集団戦法を採用し、騎兵の個人に頼る先方から脱却し始めたためである。
しかし重装歩兵の復活は、短い期間で終わりを告げる。
大砲や銃などの火器が戦場の主力になると重装歩兵は、戦列歩兵に取って代わられ、消滅した。戦列歩兵は、銃を持った兵士が大勢が並び、射撃技術も訓練も関係なく、ただお互いを撃ち合うだけという恐ろしく洗練されていないものになった。
フィクション
近年では、いわゆるパワードスーツによる重装化も研究されつつあるが、これは個人単位での装備品が増えすぎたためのパワーアシストが主目的であり、防御力は無視されてはいないが、あくまで副次的な目的でしかない。
このほか、フィクション作品…とりわけファンタジー創作物ではある種の花形職業のようなもので、必ずといっていいほど登場することが多い。
傾向としては前述通り重装備によって耐久面が高いことが多く、また槍などの長柄武器や大型の武器を装備していることもあり、攻撃面においても高く設定されていることがある。
反面、その重装備が仇となって鈍重な兵種として描かれ、機動力が軽装歩兵や騎兵に比べて大きく劣っていることが多い。