正式名は「巨大魚怪獣ムルチ」。
その登場エピソードの暗さと後味の悪さはジャミラやシルバーブルーメなどに勝るとも劣らない。そのため、ファンの間ではトラウマ怪獣として有名。
基本データ
身長:48メートル
体重:1万トン
(身長、体重は全て同じ)
デザインモチーフは鮭。
名前の由来は「カムルチー」という雷魚の一種だと言われている。
初代ムルチ
帰ってきたウルトラマンに登場。
魚が環境汚染によって突然変異したことで生まれた怪獣。
口から赤い光線「破壊ショット」を吐くが、怪獣としては特に目立った特徴はない。
初代は青い体をしている。
デザイン画では体表に模様が存在した。
2代目ムルチ
ウルトラマンAに登場した別個体。
初代と異なり、銀色の体をしている。
ウルトラマンAがメトロン星人Jr.とドラゴリーとの2対1の戦いをしているところへ乱入した。
なぜ現れたのかは不明だが、劇中での妖星ゴランの接近によって目覚めたのではないかと言われている。だが、誤ってAに避けられたムルチはドラゴリーに頭突きをしてしまう。するとブチギレたドラゴリーは何とムルチを自身の怪力でバラバラにしてしまい、ムルチは絶命した。何とも悲惨な怪獣である。
ゾアムルチ
ウルトラマンメビウスに登場。
メイツ星人によって改造され、強化されたムルチ。
後に、『大怪獣バトル』や『ウルトラマンギンガS』にも登場。
トラウマ要素について
※若干のネタバレを含みます
初代ムルチ
初代ムルチが登場した回は、帰ってきたウルトラマンの第33話「怪獣使いと少年」。
この話は人種差別・偏見・迫害といった非常に重いテーマを扱った作品であり、通称『11月の傑作群』にも数えられているほか、ウルトラ史上最大の問題作と言われることもしばしば。
劇中ではムルチは気象観測のために訪れた善良な宇宙人、メイツ星人によって封印されていた。
しかし、メイツ星人は宇宙人を敵視する人間たちによって殺害されてしまう。
それによってムルチの封印が解け、町を破壊し始める。
ムルチに驚いた人々はMATの隊員である郷秀樹=(帰ってきたウルトラマン)に「早く怪獣を退治してくれ」とせがむ。
その身勝手な態度に郷は心の中で「勝手なことを言うな。怪獣をおびき寄せたのはあんた達だ」とつぶやき、戦意を喪失してしまう。
ウルトラマンが人間を見限るという他に類を見ない展開は、視聴者たちに大きなインパクトを与えた。
さらなるトラウマ要素として、ムルチの鳴き声がある。
劇中でムルチの暴れっぷりを見た郷が「金山さん(=メイツ星人)の怒りが乗り移ったかのよう」と表現しているが、人が泣き叫んでいるかのように聞こえるムルチの鳴き声は、それに見事にマッチしているのである。
他にも、激しい雨の中での戦いで、ウルトラマンが泣いているかのように見えること。
荒々しい戦いがウルトラマンのやり場のない怒りを感じさせることなど、重いストーリーと数多くの演出が重なって初代ムルチのトラウマを形成している。更に、メイツ星人は地球の公害で汚染された大気の影響で身体が蝕まれたという設定があるためか、ムルチが破壊した建物の中には工場が含まれていたりするなど、この回は公害問題についても直接的にではないが触れられている。
この事件についてはウルトラマンメビウスにて一応の決着がついている。
本作においてメイツ星人ビオが地球に訪問した理由は「殺された仲間(さらに深く追求すれば、彼と殺された星人は親子関係にあたる)の賠償を要求するため」である。
メビウス32話の脚本家による小説『アンデレスホリゾント』ではゾアムルチの「ゾア」はメイツの言葉で「憎悪」を意味し、「金山」の友人が密かに回収したムルチの細胞をビオが憎しみを込めた念力で培養したものであると説明された。
ただ本作ではシリアスながらも希望のある終わり方をしており、ゾアムルチも初代ほどのトラウマはない。
昔の書籍などの記述でメイツ星から来た事にされているが、実際にはれっきとした地球出身の怪獣である。
2代目ムルチ
2代目は初代と違い、特別ストーリーが重いというわけではない。
だが、視覚的にはこちらの方が圧倒的にトラウマになる。
ムルチはメトロン星人Jr.とドラゴリーと一緒になってウルトラマンAに攻撃を仕掛けるのだが、突進攻撃をした際に誤ってドラゴリーに激突してしまう。
そして、逆上したドラゴリーによって体を引き裂かれてしまう。
ドラゴリーの腕の怪力によってムルチはアゴを裂かれ、さらにアゴが裂かれた勢いで腹の肉が大きくえぐれ、ついでに片足をもぎ取られるという凄まじく惨い死を遂げる。
このことはムルチのみならずドラゴリーのインパクトも強めており、「ムルチを引き裂いたこと」がドラゴリーのアイデンティティの1つとなっているといっても過言ではない。
このシーンで超獣は怪獣より強い!という事を視聴者にわかりやすい形で印象付けたわけだが、来年度にその超獣すら越える存在が出てくる事になる(奇しくもその存在の肩書き自体は過去の作品に登場しており、特徴も似通っている)。
余談ではあるが、デザインモチーフの鮭は『腹が裂けやすい』という特徴からサケと名付けられた説があり、2代目のムルチは面白い事にモチーフ元の語源通りの末路を迎える事になってしまった。
2代目ムルチのウンチク
- 2代目ムルチは、当初はムルチではなくシーゴラスを登場させる予定だった。
- 2代目ムルチがアゴを割かれた理由は上記の通りだが、メトロン星人Jr.はドラゴリーと何度も衝突したのに何もされていない(メビウスでドラゴリーが再登場した際は「メトロン星人Jr.はドラゴリーを指揮していた」と説明されていた)。
- 使用されたムルチの着ぐるみはアトラクション用の借りものだったのだが、上記のシーンのせいで使用不可能になり、スタッフはこっぴどく怒られたという。
- 後の新ウルトラマン列伝(実質ウルトラマンギンガの総集編)のドラゴリーの紹介シーンで現在ではさすがに放送できなかったのか、例のシーンに進行役のバルキー星人が両目を手で覆う映像を差し替えていた。
が、その後スパークドールズ劇場でドラゴリーが登場した際、彼のキャッチコピーが「得意技はムルチの三枚下ろし」だったりするなどネタにされていた。
その他の作品での活躍
ウルトラマンSTORY0
本作では怪獣ではなく、ウルトラマンジャックが訪れた海洋惑星に生息する普通の魚。
冒頭でイカを追っていたらタッコングに捕食された他、水棲人間たちの食糧にもなっている。
ウルトラ怪獣擬人化計画 feat. POP Comic code
怪獣墓場学園の生徒の1人として登場。
設定上は、人間の少女のような姿になっているはずだが、なぜか黒い怪獣のシルエットのような姿になっていた(後に、何かしら重大な校則違反を犯したことで一時的にこの姿にされてしまったらしいことが判明する)。メタな話をすると、ムルチの擬人化デザインが存在しないための苦肉の策である。
遠足の行き先を投票によって決定するということを聞いたメフィラスとテンペラーから、地球に行かないかと勧誘を受けるが、「バラバラに引き裂かれた苦い思い出があるから」という理由で断った(ちなみに、その次のコマではそのバラバラに引き裂いた張本人が登場している)。