概要
スノーボールアースとは、過去に地球上に起きたとされる自然現象。
別名を全球凍結と言い、文字通りに地球の全てが完全に凍り付いた状態の地球である。
よく氷河期と混同されるが、氷河期とは地球上に氷河が存在している状況全般の事を指し、厳密には現在も地球は氷河期である。むしろ数万年前の氷河期に関しては、赤道周辺地域などの気温の高く氷で覆われていない部分には、今よりも豊かな生態系が形成されていた可能性もある。
これに比べてスノーボールアースとは、文字通りに海も地上も全てが完全に氷に覆われた状況であり、この状況では地上はおろか、海中でさえもがあまりの気温の低さに生態系が構築できず、生物の存在しない『死の惑星』であったと考えられる。
一度この状態に陥ってしまった惑星は、真っ白な氷に覆われたことで気温が下がり、多くの水分が氷と化して、その氷によって太陽光が反射されてしまい更に気温が下がり、更に氷が増えるという負のスパイラルに陥り、氷が溶けることはほぼないとされていた。
その為、近年になるまでは地球がスノーボールアースになったことはあり得ないとされていたのだが、火山活動によって温室効果ガスが地表に溜まり、それが数千年単位で蓄積されさえすれば、氷が溶けるであろうことが理論的に証明されたことから、がぜん注目され始めるに至った。
生物進化とスノーボールアース
ヒューロニアン氷期(24億5000万年前〜22億年前)
スノーボールアースと呼ばれる現象は地球の歴史上これまで2度発生しており、いずれも生物の進化に重大な影響を与えてきたとされている。
最初は、24億年前から22億年の間に起きたヒューロニアン氷期である。はっきりとした原因は不明だが、この時光合成を行うシアノバクテリアが土砂を絡め取ったストロマトライトの形で大発生。地球の生態系を支配し、二酸化炭素を大量消費して大量の酸素を放出。酸素の多くは海水中の鉄イオンを酸化させて現在も知られる鉄鉱床の多くを作り出した。だがそれでも酸素の放出は収まらず、今度は大気に含まれていたメタンを燃焼させてしまった。
二酸化炭素の数百倍の温室効果を持つメタンもが消費し尽くされ、地球上の殆どの炭素をシアノバクテリアが独占した時「何か」が起きた(一説では超新星爆発による放射線がたまたまストロマトライトの生息地を直撃、あるいは大陸分裂による土砂崩れと大津波がストロマトライトを生き埋めにした)。結果、ストロマトライトは大量絶滅。地球の炭素循環が滞り、大気は猛毒の酸素で満たされ、現在の9割ほどの太陽活動の中で地球を温和に保っていた二酸化炭素とメタンが失われてしまった結果、地球は両極から徐々に凍結を始めた。同時に、酸素を猛毒とする当時の生物(シアノバクテリアを含むバクテリアとメタン菌に代表される古細菌)に絶滅の危機がやってきた。地球が赤道まで凍りつくまでに多くの生物が酸素によって死滅したのである。
特にこれまで二酸化炭素からメタンを作り出して地球を温暖に保ってきたメタン菌は酸素から逃れるように深海底に居を移す。だがそこでメタンを発生させても低温高圧の深海ではメタンはメタンハイドレートとなって海底に降り積もり、もう地球を温めることはなくなった。そして地球の全てが氷で覆われ、太陽光が遮られるとクロレラの様な浮遊性のシアノバクテリアをも死滅。地球は文字通りの死の世界となったのである。
…それから数億年、地球に長い沈黙が続いた。
地球に温暖を取り戻したのは、その数億年の間の火山活動であった。当時の地球の地質活動は現代よりも活発で、大陸の形成が盛んな頃だった。火山性ガスに含まれる二酸化炭素が地球を氷地獄から解放したのである。その間、温暖な地中や熱水噴出孔で細々と生きていた生物の内、酸素を代謝に利用できる様になった者だけが浅海に戻って次の進化の担い手となった。その中の一つが、全ての多細胞生物の祖たる真核生物である。
スターチアン氷期及びマリノニアン氷期(約7億3000万年前~約6億3500万年前)
実はそれからの10数億年の間地球の生物は全くと言っていいほど変化がなかった。ほとんどが単細胞生物のままだったのである。この状況を変えたのもやはりスノーボールアースであった。7億年前、原生代後期のスノーボールアースの原因は大陸集結によって生まれた超大陸ロディニアであったと言われている。ロディニア大陸が南半球を埋め尽くす形になったため地球の熱循環に滞りが発生したのだ。ロディニア大陸は現在の南極大陸の様に凍りつき、そのまま地球全体を冷やしていった。
原生代後期のスノーボールアースを終わらせたのもまたロディニア大陸であった。大陸の分裂とそれに伴う火山活動や異常気象などの天変地異が地球を氷地獄から救い出したばかりか凍結中に深海に溜まりに溜まっていたリン酸などの栄養分を浅瀬に押し上げた。これらの栄養分と活動を再開した光合成生物が生み出した酸素が真核生物にコラーゲンの生成を促した(コラーゲンは元になるタンパク質に酸化酵素でヒドロキシ基を与えることで作り出される。この時酸化酵素自体も次第に酸化するが、これを元の状態に戻すのが強力な還元能力を持つアスコルビン酸=ビタミンCである)結果、細胞同士が結びつきやすくなり多細胞生物への進化を即したのである。結果誕生したのは未だその進化的位置が不明なエディアカラ生物群。彼らはロディニア大陸の分裂した境で繁栄した。ロディニア大陸の語源はロシア語で「故郷」を意味する「ロージナ」。ロディニア大陸は全ての多細胞生物にとっての「故郷」なのである。
太陽系から見たスノーボールアース
太陽系において、水素・酸素および両者の化合物であるH²Oすなわち水は、「ありふれた」といっていいほど大量に存在する元素・物質である。
しかし小惑星帯以遠の空間では、太陽光のもたらす熱エネルギーが氷の融点をはるかに下回り、H²Oはもっぱら氷として存在する。また、氷を主成分とし大気を持たない天体が、太陽光が氷の融点を超える空間(ハビタブルゾーン)に移動した場合も、氷は液化せず(水にならず)直接気化(昇華)する(彗星の尾がその例)。
木星以遠の巨大惑星の衛星、その外側の準惑星その他太陽系外縁天体の多くは、表面が氷で覆われ、地球の地殻にあたる層を形成している。したがって太陽系全体で見れば、天体表面の水の状態はむしろ「スノーボール」のほうが一般的といえる。
このように見ると、ハビタブルゾーンにあり1気圧の大気に覆われている地球は、「一時期(本記事で扱うスノーボールアース)を除いて、液体の水が持続的に表面を覆っている」という、太陽系の中でも珍しい、際立った特徴を持つ天体といえる(他には、後述する金星と火星が過去に液体の海を持っていたと推測されている)。
ちなみに、地球の隣人である金星、火星はともにハビタブルゾーンにあるものの、金星は大気中の二酸化炭素の温室効果によって、400℃以上の灼熱地獄(水はすべて水蒸気と化す)。火星は逆に大気が希薄で気圧が低いため、かつて表面に大量にあったと推測される水は気化して宇宙空間に消えたか、酸化鉄の赤い地面の下に氷として存在しているとみられる(その意味では、火星はいわば「赤く塗ったスノーボール」状態といえる)。
登場する作品
- ドラえもんのび太の南極カチコチ大冒険…スノーボールアース時代の地球が物語の主な舞台であり、作品そのものの重要なカギを握る設定となっている。
- 地球大進化…人類滅亡シリーズの影響で小惑星衝突ばかり有名だが、スノーボールアースについても取り上げており、元にしたMUGENキャラも関連する技を持っている。
関連タグ
- 氷河期…イメージ的によく混同される時代。