概要
古代エジプトで知恵を司る神。古代エジプト語ではジェフティ(ジェフゥティ)という。トートやトトという呼び名はギリシャ語表記Θωθに由来する。力量は主神オシリスや太陽神ホルスと互角とされる。
数学や計量を司る女神であるセシャトを妻(または妹)としている。
聖獣はトキ。生まれは諸説あり、自らの力で石から生まれたという説が有力で、セトの頭を割って生まれたというものもある。ヘリオポリス創世神話では、石の息子、卵から生まれた者と呼ばれた創造神で、言葉で宇宙に秩序を与え、宇宙に法則を生み出したと言われている。神々の書記であり、ヒエログリフを生み出した事から書記の守護者とされ、死者の審判の際には死者の名前を記す役目を負うという。
ラーの目である遠方を守護する女神がある時、父と共に居る事を拒み、遠くへ行ってしまった際に連れ戻した事もある。オシリス達が生まれる際に月との賭けに勝った事で時の支配権を得ており、太陽が沈んだ夜には太陽に変わって地上の守護者となる。そして魔術にも通じており、イシスに数多くの呪文を伝えた。病を治す呪文にも通じている事から医療の神でもあり、セトに毒殺されたホルスを復活させている。他にも、楽器の開発者、暦(太陰暦)を司るといった面も持つ。
ラーの敵対者を倒す攻撃的な面を持ち、エジプトの国境を守るため異民族と戦い「アジア人と異国の領主を打ち負かす殺戮の主人」の称号を持つ。後にラーから彼を支配できる本当の名を教えられ、その座を譲られることになった。セクメトの殺戮を停める際に知恵を貸したとも言われるが、後述のヘジュウルの功績であり、習合された為にトートの功績となっている
知恵の都「ヘルモポリス(上エジプトの現エル・アシュムネイン)」で信仰されていた知恵の神ヘジュウル(マントヒヒの姿)との習合によりヒヒの姿で描かれる事もある。
また、ローマ帝国に併合された際ギリシア神話のヘルメスと同一視された。オウィディウスの『変身物語』ではテュポーンの猛威から逃れるためにエジプトに渡った神々が動物に変身したという神話を取り上げ、ヘルメスはトート本来の頭部である朱鷺の姿になったとしている。ヘレニズム期にはトートとヘルメスが習合したヘルメス・トリスメギストスが成立する。
トートの書
トートが書いたとされる書物。巻数は言及例によって異なる。紀元前三世紀のエジプトの歴史家マネトによると、トートは36525冊の本を書いたいう。
伝説の題材にもなり、プトレマイオス朝時代の物語では、神話時代から歴史時代に移った後のストーリーが語られている。ナイル川の底に隠された『トートの書』を盗み出した王子ネフェルカプタハの物語では、絶大な力を持つ二つの呪文を記した本として登場する。
二世紀のキリスト教著述家アレクサンドリアのクレメンスの著作『ストロマテイス』ではヘルメス(トート)が書いたと位置づけられる42冊の本についての言及がある。古代エジプト人の哲学の全てが記されたもので、この他にも神殿での儀礼や賛歌、占星術、地理学、医学なども含んだ総合的な内容のものだったという。法律についての内容も多く含み、エジプト第18王朝時代には文字通りの法律書として参照された。
後世においてはオカルト的イメージにおいて語られ、18世紀フランスのエテイヤ版タロットは『トートの書』を元にした、という体裁で制作された。
近代イギリスの魔術師アレイスター・クロウリーは同名の『トートの書』を自ら著している。こちらもタロットと関連しており、自身が考案した(イラストは別人が担当)「トート・タロット」の解説書となっている。
関連タグ
ヘルメス・トリスメギストス:トートとヘルメスの習合神。
アザトース一説では名前の由来が「イズ・トート(トートの力)」であると言われる。
ウムル・アト=タウィル 『銀の鍵の門を越えて』では、『トートの書』にこの存在についての記述があるとされる。
ナイアルラトホテップ:ウィリアム・ハンブリンによるクトゥルフ神話TRPGシナリオ『トートの短剣』では古代エジプトのケメンヌ(ヘルモポリス)で、トート崇拝の形でナイアルラトホテップが信仰されていたとされる。トートがこの邪神の顕現とされる事もある。
ブラックアダム:DCコミックスのヒーロー・シャザムの宿敵。エジプト6柱の神々から力を得たヴィランであり、トート(ジェフティ)からは知識を与えられている。
トート星人ブンター:トートが名前の由来である『特捜戦隊デカレンジャー』の登場人物。元ネタと異なりゴリラが外見のモチーフに使用されている。