概要
ヘレニズム時代に知識の神である両神格が融合して生まれた。
習合元の二神もまたそうであるように、その「智」は神秘的、秘教的色合いが非常に濃い。
「トリスメギストス」とは「三倍偉大な」という意味。
ヘレニズム時代のアレクサンドリアをはじめとするエジプトにおいて、人々が彼から伝わってきたという教えを記録し、それらは『ヘルメス文書』と総称されている。
その中身は新プラトン主義や魔術、占星術、錬金術、ピタゴラス数学と幅広い。
中には霊智の獲得を説くグノーシス主義っぽいものもある。
これは、当時の人々にとっての「真理の探究」がそのまま反映されているのだろう。
ヘルメス・トリスメギストスという神話的人物は、「真理を授ける者」として、教義の説き手・書き手として仮託されるのにうってつけの受け皿であったとも言える。
アブラハムの宗教(一神教)の隆盛とともにヘレニズムの神秘主義や信仰も、多神教ごと一掃されたが、伝説的人物としてのヘルメスは語り継がれ、旧約聖書の人物エノク(イスラム教では「イドリース」)と同一視されたりもしている。
ルネサンス期には『ヘルメス文書』が西洋における錬金術の発達に大きな影響を与えることになる。
朝日出版社から『ヘルメス文書』の日本語訳が出ているが、絶版中。古本市場ではおよそ二万円(定価の四倍近く)以上の高値がつけられている。