概要
V-22とは、米国のベル社とボーイング社が共同で開発した軍用垂直離着陸機である。公式愛称は「オスプレイ」(ミサゴの英名)。よく誤解されるがCH-47ヘリコプターと同じ位置づけの輸送機であり、攻撃機ではない(射撃装置やミサイルを装備した攻撃機型の計画はあるが)。現状では、武装も後づけの機銃程度しか装備できない。
ティルトローターという機構が特徴的であり、翼両端にある回転翼の向きを上向きから前向きにまで変えることが可能。それにより、ヘリコプターのようにも固定翼機のようにも飛ぶことができ、ヘリコプターのようなVTOL性能やホバリング能力と、固定翼機のような高速性や長い航続距離の両方を得ることが可能となった。
しかし、両者のいいとこ取りとはいかず、従来のヘリコプターや小型輸送機に比べて、機構の複雑さなどが災いし非常に高コストな機体となってしまう。さらに運動性などの弱点もあり、主力輸送機として大々的に運用するのには向いていない。
現時点では海兵隊仕様のMV-22(輸送機)、空軍仕様のCV-22(特殊戦用輸送機)が存在するほか、海軍でも艦上輸送機として納入が決定している。
アメリカ以外では汎用輸送機として陸上自衛隊の第1ヘリコプター団が運用しているほか、特殊作戦機として興味を示す国も。ただし、開発の遅れや高コストなことから真剣に検討している国はまだ少ないようだ。
pixivでは「オスプレイ」タグのほうが多く使われている。また、この航空機のみならず、それっぽい航空機が描かれたイラストにもこのタグがつけられている。
V-22の先駆者
ベルXV-3
1951年、垂直離着陸機という形で研究が始まり、1955年に初飛行に成功した。だが、プロペラ羽の異常振動、安定性の低さ、操縦性の悪さなどの問題が続発し、事故で機体が大破したことにより開発は終了した。
ベルXV-15
1971年、陸軍とNASAが共同で『垂直および短距離離着陸機研究』を開始。この計画にベル社の「モデル300」が採用され、1973年には改良が加えられた「モデル301」へと発展した。
本機は「V-22の縮小版」といえるほどよく似ており、1977年に初飛行(初ホバリング)、1979年には通常の飛行にも成功した。
JVX計画
1981年、当時の国防長官が4軍統合で使う「新型の垂直離着陸機」の開発計画を発表した。
この計画が『JVX計画:Joint-service Vertical take-off/landing eXperimental(統合垂直離着陸研究)』で、コンピュータが使えるようになったことが計画推進の決定打となった。このJVX計画で開発されるのが、のちの”V-22 Osprey"(オスプレイ)である。(1985年命名)
1988年、陸軍は予算の都合により計画から離脱。以降は陸軍の装備を搭載することは想定していない。
V-22のあゆみ
紆余曲折を経て1986年に試作機が完成し、1989年に初飛行が行われた。
だが、その後のテストで乗員や民間人まで死亡する深刻な墜落事故が連続して発生(1991年と1992年)。そののち『技術的問題はほとんど解決された』として1994年には量産に踏み切ったものの、事故対策やコストダウンのための再設計で配備計画は遅れに遅れ、2005年に本格配備が始まったあとも事故は何度も起きている。
しかし、それはオスプレイの根本的な欠陥によるものではないとして、米国国防総省は「オスプレイの安全性」を一貫して主張し続けている。2008年にはオバマ大統領自身も、オスプレイに乗り込んで安全性をアピールした。
VTOL機はそもそも操縦が難しく事故が起きやすい機体なので仕方がないところではあるが、それでも事故率は従来機と比べると極端に大きいわけではない。
日本でも、2012年に沖縄のアメリカ軍基地への配備後、不時着、墜落事故が続発したために(主に左の方々から)注目を浴びた。現在でも陸上自衛隊への納入によって(事故リスク以外に、防衛予算の圧迫という面でも)ふたたび注目を浴びている。
※余談であるが、海上自衛隊のUS-1の後継機として後述の救難機仕様の導入も検討されていた。
pixivでも、投稿されたイラストは2012年以降のものが多い。
性能
特性
固定翼機としては短めの主翼の両端にエンジンナセルを取り付け、これにローター(メーカーではプロップローターと呼ばれる)が直結されている。
このエンジンナセルを飛行形態に合わせて回転させ、ローター回転面を調整する構造になっており、回転面を上に向けてヘリとして垂直離着陸、正面に向けて固定翼機として水平飛行が可能。ヘリコプターモードと固定翼モードの転換には最短で12秒ほどかかる。
ローターが大きすぎるため離着陸は基本的にヘリモードで行われている。また、回転面を斜めに向けた転換モードで短距離滑走離陸を行うことも可能。垂直離陸はエンジンの負荷が大きいので、必要がない限りは滑走離陸をすることになる。
最大搭載時は垂直離陸ができなくなるため滑走離陸を余儀なくされるが、それでも460mでの離陸が可能。
万が一故障でヘリモードに転換できなくなった場合の緊急着陸も想定されており、ローターは地面に接触後、過度に破片を散らすことなく安全に破損するような構造になっている。
主翼内には両エンジンを繋ぐ動力伝達用のシャフトがあり、エンジン出力にも余裕があるので、エンジンの一方が停止してももう一方のエンジンで両方のローターを駆動させることが可能となっている。
ただそれなりに無理をすることになるため片肺飛行は短時間のみで、できる限り速やかに着陸しなければならない。
オスプレイのローターは既存のヘリコプターのローターより径が小さいため、ヘリコプターに備わっているオートローテーション(エンジンが停止した場合にローターをフリーにすることで揚力を発生し着陸する緊急手順)は通常のヘリと比べて高度、速度の条件が厳しい。
実用上、可能な高度、速度ではほぼ間違いなく固定翼モードなので、オートローテーションは行われないものと考えていい。
機体重量が大きいわりにローター面積が小さいため、ダウンウォッシュ(下降気流)がかなり強くなる。近くに立っていると直立することが困難なほどの強風であり、ロープを使った歩兵の降下訓練ではダウンウォッシュにロープがあおられてかなり苦戦している様子がうかがえる。
また、ヘリモードではエンジン排気が地面に直撃するため、船への着艦の際は耐熱板の用意などの対策がないと甲板を痛めてしまう恐れがあり、実際地面の草を焼いてしまったという報告もある。同じ理由で斜面への接地着陸は行えない。
輸送能力
人員であれば25名輸送可能(機体左右に向い合せになった長椅子型が24席+指揮官用が1、さらに操縦席2席に加え予備員席が1)。また、担架なら上下に3段重ねることで12床設置可能で、長椅子と組み合わせて設置できる。
機内に車両を自走搭載することもでき、また野戦砲など機内に収まらない物でも吊るして運搬することが可能。
前述のように陸軍はプロジェクトから離脱したため、陸軍の装備の輸送は考えられていない。例えばHMMWV(ハンヴィー)は機内に搭載することはできず、元から大型汎用輸送ヘリコプターでしか輸送できない榴弾砲といった重量物の吊り下げも考えられていない。(中型汎用輸送ヘリでも輸送可能なように軽量化がされた軽量榴弾砲の吊り下げは可能)
最大積載量は9,070kg。回転面を傾ける機構や中途半端なローター、主翼面積により、出力のわりに少なめになってしまっている。
飛行性能
航続距離は954km(強襲揚陸作戦)である。これは従来の輸送ヘリコプター(CH-53)の約2倍にあたる。
そのうえスピードも従来機の約2倍(最大565km/h)となっており、ここでもヘリコプターを遥かにしのぐ飛行能力を誇っている。
しかしながら、ローター面積の小ささが災いし、ヘリモードでの運動性は本業のヘリコプターに劣る。しかも、ヘリコプターモードと固定翼モードの転換に時間がかかる特性上、着陸の際はかなり遠くから着陸地点を見極めて転換に入らなければならない。
このため、離着陸やホバリング時は旧来のヘリ以上に無防備な時間が長くなることから、ヘリボーン作戦では敵の攻撃を避けるための念入りな事前偵察、そして手厚い火力支援が必要となる。
格納形態
海兵隊の強襲揚陸艦などスペースが限られる艦上での運用を考慮し、オスプレイは格納形態に変形することができる設計となっている。
エンジンナセルを水平にし、三本ずつあるローターを折り曲げて機体方向に揃え、この状態で主翼を水平に90度回転させて機体に添わせる。この形態であれば機体の横幅を格段に減らすことが可能で、艦内でのスペースをかなり節約することが可能。
この変形機構は書籍でよく『トランスフォーマー』と表現されている。
武装
ドアガンとして後部ランプドアに機関銃を取りつけることができる程度。ほかには敵から発射された対空ミサイルを探知したり撹乱する自衛のための欺瞞(ぎまん)装置を装備するに留まる。まあ輸送機だしね。
そのような本機だが、BAE Systemsが開発した『リモートガーディアン』と呼ばれる電子光学/赤外線(EO/IR)センサーとアナログジョイスティックで制御する汎用の自動機銃を腹部に搭載する研究もされている。側面ドアにドアガンを設置しようとすると有効な射角が得られない欠点があったが、このシステムによりその問題を解決することができるといわれている。また、このシステムはパイロットではなく専門のガンナーにより操作される。
現状では一部の機体で試験運用をおこなっている段階であり、これが大々的に運用されるかについては不明となっている。
派生型
オスプレイは基本的には輸送目的だが、救難機仕様もある。
また、配備される組織や運用形態によってそれぞれ名称が異なる。
MV-22B
米海兵隊向けの輸送型。
CH-46やCH-53の後継とされ、強襲揚陸作戦の支援、地上での作戦行動の維持、自軍の展開に用いられる。
360機が装備される予定とのこと。
HV-22B
米海軍向けの戦闘捜索救難型(救難機)であり、戦闘捜索・救難、
艦隊兵站支援(艦艇同士の補給)、特殊作戦に用いられる。
48機が装備される予定であったが、計画が棚上げされ後述のCMV-22に計画が移行。
CV-22B
米空軍向けの特殊作戦型。
MH-53Jの後継とされ、長距離特殊戦活動、不測の事態での作戦、脱出および海洋特殊作戦に用いられる。
53機が装備される予定。
CMV-22
米海軍向けの艦上輸送型。
C-2(愛称 グレイハウンド)の後継機になるものと見られる。陸上~空母間の輸送を主な任務とし、空中給油装置付き外装燃料タンクを装備することで艦載機に空中給油を行える。
44機が装備される予定。
構想段階
現状具体的な開発、調達計画はないものの、考えられている仕様。
- 攻撃機型
攻撃ヘリコプターのように機首に旋回式の機銃をつけたり、スタブウイングを追加してそこに機銃などを懸架し近接航空支援機とする。また、自衛用に機首側面に前方発射型ミサイルを取り付け、運用する実験も行われている。
- EV-22:早期警戒機型
イギリスで提案・研究されており、軽空母などで運用を行う。
主翼上部にレーダーを搭載しており、カーゴランプ部に対潜レーダーを搭載する案もある。
- KV-22(仮称):空中給油機型
カーゴベイ内に増槽および給油装置を設置して空中給油母機とする計画。
機種を流用すればコストダウンが狙えるほか、特殊な飛行特性のオスプレイにはオスプレイで給油する方がやりやすい、という利点もある。
空中給油装置は現在開発中であり、現状では地上給油キットにより駐機中の機体および車両への給油能力を持つのみとなっている。
予定されている海軍のオスプレイ空中給油機化キットでは、後部ランプドアよりドローグを曳航して給油機とするが、キットの取り外しにより通常の輸送機としても使用可能となっている。
登場作品
ほかの航空機には見られない独特の機構や形状もあり、近未来を描いたフィクション作品では当機、あるいは類似した架空機が登場することがある。
- 特攻野郎Aチーム:先述したリモートガーディアンに似た武装を搭載して登場。
- トランスフォーマー 実写版でアメリカ軍に運用されている。ローター4枚の架空の派生型もわずかにだが登場した。
- ジオブリ-ダーズ:OVA2および原作漫画後半に手厚生省衛生二課のハウンドに配備された「バラクーダ2」が登場。非常識と評される「MH-1C バラクーダ」はティルトローター機ではあるが、別物となっている。
- スプリガン:劇場版の終盤に登場。カラーリングは民間機風となっている。
- ジパング:架空のイージス護衛艦「みらい」の艦載機として、オスプレイをモデルとした架空哨戒機であるMV/SA-32J「海鳥」が登場する。(ただしオスプレイよりもかなり小型化されている)
- COD:MW3:アメリカ軍の航空機としてキャンペーンとマルチプレイの両方に登場。キャンペーンでは強襲揚陸作戦や特殊部隊の回収に用いられ、マルチプレイでは火力支援や物資投下を行う強力なキルストリークとして活躍する。
- バトルフィールド2042:プロペラの代わりにジェット噴射で飛行する架空の派生機「MV-38 コンドル」が登場する。
関連イラスト
関連動画
陸自V-22(オスプレイ)の教育訓練の状況 - 陸上自衛隊公式チャンネル(2019年7月)
V-22の安全性に関する広報動画 - 陸上自衛隊公式チャンネル(2022年1月)