アースロプレウラ
あーすろぷれうら
概要
アースロプレウラ(学名:Arthropleura)とは、古生代石炭紀前期からペルム紀前期(3億3,500万から2億9,010万年前)にかけて生息したヤスデの種類(属)の1つ。
北アメリカとヨーロッパで外骨格や足跡の化石が発見されるが、ほとんどが断片的で、特に頭部は未だにほぼ不明である。
全長は種によって異なり、30cm程度のものもいれば、部分的な化石から2.5mに達すると推測されるものもいる。後者は2021年末に公表されたイギリス産の化石で、体長・体重(推定50kg)とも史上最大の節足動物として知られている(それ以前ではウミサソリのイェーケロプテルスが最大だった)。
最大の特徴は、長い胴部の背面を負いかぶさり、横で3パーツに分かれ、表面に大小のコブが生えた30節ほどの甲羅(背板)。知られる化石もほとんどがこの甲羅由来の断片である。
他のヤスデと同じく、ほぼ全ての体節ごとに2対の脚を腹面に持つ。脚は現在のヤスデよりも丈夫で、節ごとに棘が生えている。脚の間の外骨格は鱗のように畳んで並んでいる。
頭部はほぼ不明。かつて頭部の甲羅と考えられた部分は、現在では「頸板」(ヤスデのうなじを覆い被さるアーマーかフードのような部分)とされ、未だに不明な頭部はその下で覆われた説が有力。
一昔前の復元図では上記のイラストのように、ムカデやアリを彷彿とさせる禍々しい口元を描かれることが多いが、これはヤスデであることが分からなかった頃に推測されたものに過ぎない。ヤスデである以上、そのような構造を持つのはありえないだろう(実際、近縁種では普通にヤスデらしく「ω」の形の口を持つことが判明した)。
全体的には巨大で禍々しい奇虫というより、現生のオビヤスデを巨大化したものを想像する方が今のアースロプレウラのイメージに近いかもしれない。
生態など
断片化石がよく植物化石と共に見つかった状態から、長い間に石炭紀の緑豊かな熱帯雨林に生息すると考えられた。しかし足跡化石や比較的完全な体化石が生息時期では干潟や海岸だった地層由来のため、実際は森林に依存せず、平坦で植物の密度が低い環境を主に生息した説が有力(前述の森林由来っぽい断片化石は、化石化の前に甲羅が水などによって森林の植物断片と一ヶ所に流されたものと考え直される)。
口元の構造や消化器の内容物は不明のため餌を正確に推定できないが、一般に草食であったと考えられる(かつてシダなどの胞子を含む腸の内容物と思われた化石が、後に化石の腸部に属さない混入物であると判明)。巨体のエネルギー源を維持するため、主食は栄養価の高い果実や種子と考えられ、また巨体のため小動物まで捕食できた可能性もある。
巨大化について、かつては石炭紀の高い酸素濃度が主因と考えられた(現生の陸棲節足動物の大きさは大気の低い酸素濃度に制限され、呼吸器の構造上体が大きすぎると上手く酸素供給できない、という説を踏襲している)。しかし巨大なアースロプレウラは酸素濃度が現代と同じ程度だった時期にも生息するため、主因は別にあると考えられる(生息地の捕食者や競争者が少なかった・餌が豊かだったなど)。
分類
発見当初は断片な化石だけで、19世紀から20世紀中期では甲殻類か三葉虫に近いものと考えられた。20世紀後期では多足類であることまで判明したが、どの多足類に近い/所属するについては不明確で、多足類における独自のグループとも考えられた。21世紀以降では脚の配置や近縁種の発見により、ヤスデの種類として広く認められるようになった。近縁種とともに、ヤスデのうちアースロプレウラ類の一員として分類される。