概要
背甲目(学名:Notostraca)の唯一の科、カブトエビ科(学名:Triopsidae)に分類される甲殻類のこと。オタマジャクシのようなシルエットが印象的で、そのため英語は「tadpole shrimp」(オタマジャクシエビ)と呼ばれている。
同じ甲殻類ではあるが、名前に反しエビ(軟甲綱十脚目)ではない。ミジンコやホウネンエビなどと同様、エビとは別系統の鰓脚綱に分類される。
体長は2cmから10cm、微小なプランクトンが多い鰓脚類の中では飛び抜けて大型。
頭部の大きな蹄鉄型の甲羅(背甲)が前半身を覆い被さる。学名(ギリシャ語 tría 三 + ops 目)の通り、正面には1対の複眼と中央の丸い「背器官」が生えて、目が3つあるように見える(本当の第3の目である「ノープリウス眼」は背器官の前にあるが、非常に小さく目立たない)。
長い胴部は数多くのリング状の節に分かれ、胸部から腹部前半にかけて無数の鰭のような脚(鰓脚)が並んでいる。途中(胸部最後)1対の脚に生殖器の穴を備え、メスの場合はこれが卵を保護するための袋に特化している。末端の尾には2本の長い鞭が伸びる。
甲羅の左右に突き出した長い鞭は触角に見えるが、実は感覚器に特化した前脚である。本当の触角は腹面の顎の前にあるが、退化して目立たなく、背面からでは全く見えない。
生態
日本の夏では田んぼなどに発生する。雑食性で、植物やミジンコなどのプランクトンを捕食する。
繁殖原則として雌雄異体で有性生殖を行うが、一部の種類は雌雄同体で、自ら体内受精した卵を産む。
生活環は生息地の長い乾期と短い注水期に適応している。何年かの乾燥も乗り越えて、水が戻れば急速に孵化するという頑強な耐久卵(休眠卵)を産む。成長はとても速く、寿命は2ヶ月ほど短い。
生きた化石
カブトエビは少なくとも3億6,5000万年前のデボン紀から出現し、長い進化史を持つグループである。それどころか、2億年前の三畳紀の地層には現生種そっくりな化石も見つかり、正真正銘の「生きた化石」と言える。
分類
前述した通りカブトエビは鰓脚類であり、軟甲類の十脚類に属するエビではない。
鰓脚類の中では甲羅を持たないホウネンエビやアルテミアなどの無甲類より、甲羅を持つカイエビやミジンコを含む系統に近い。
┗┳━カブトエビ
現生は20種(日本には5種)ほど知られ、長い前脚を持つカブトエビ属(Triops)とヘラ状の尾を持つヘラオカブトエビ属(Lepidurus)に分かれている。
なお、カブトエビは同種でも外見にバリエーションがあり、同種の共通点や種ごとの相違点は細部に限られるため、正確に同定するのは非常に難しい。
人間との関わり
カブトエビ属の種類の方が一般によく知られている。
耐久卵の性質を利用し、カブトエビ属の学名から「トリオップス」(Triops)と名付けて飼育セットとして発売されることが有名。
水田の雑草を食べることから「田の草取り虫」とも呼ばれる。
混同
同じ「生きた化石」で名前もよく似るため、しばしばカブトガニという全く別系統(クモやサソリなどと同じ鋏角類)の節足動物と混同される。