概要
アメリカ軍(アメリカぐん、英語:United States Armed Forces、別名:合衆国軍、米軍)は、アメリカ合衆国が保有する軍隊。6軍で構成されており、大統領が軍の最高司令官である。1775年6月に発足して以来アメリカの歴史において決定的な役割を果たし、第1次・第2次バーバリ戦争での勝利の結果として、国民の統一・アイデンティティの感覚が生成された。
国防総省に属する陸軍・海軍・空軍・海兵隊・宇宙軍と、国土安全保障省に属する沿岸警備隊が存在し、陸軍と空軍については各州に州軍(州兵)が編成されている。アメリカ軍と呼ばれるのは主に連邦政府の指揮下にある連邦軍で、州軍は州知事の指揮下にあるが、連邦軍に編入されて海外に派遣される事がある。沿岸警備隊は通常は法執行機関として活動するが、戦時に海軍の指揮下に入る事が規定されている。他に各州が独自に編成した州防衛軍があるが、連邦政府からの部分的な統制及び支援を受けてはいるものの、州軍とは違って連邦軍の指揮下に入る事は無い。
特徴
アメリカ軍には以下の特徴がある。これらの能力は他の如何なる時代の如何なる国家・集団においても保持した事が無く、人類史上最強の軍隊と評されている。
- 実戦経験が豊富である。
- 陸海空の通常戦力・核戦力双方において他の国を圧倒している。
- 世界の軍需産業の中核となる大手企業が集まっている為、世界最高クラスの装備品を国内で開発・調達できる。
- 全世界に拠点を持ち、短時間で展開できる。
- 宇宙・サイバー空間において優越している。
- 国内に石油・鉄鋼資源が存在する事から高度な継戦能力を有している。
- 建国以来大規模なクーデターが発生していない。
- 他の国に比べて強力な軍を抑制する規定・法律が少ない。
世界展開
世界最強の軍隊を自負しており、世界規模で展開して統合軍として編成している。地域別では北アメリカ・中南米・ヨーロッパ・アフリカ・中東・アジア・太平洋に6区分し、機能別では特殊作戦・統合戦略(予備戦力訓練と研究開発)・戦力(核戦力と宇宙軍)・輸送の4つに分かれる。
部隊は世界各地に駐留しており、それを駐留している国が自らの国を防衛する見返りとして、駐留の費用の一部を負担している。日本の場合は安全保障条約によって沖縄・横田・三沢・横須賀・岩国・佐世保などに在日アメリカ軍が駐留しており、日本は最大の在外駐留拠点となっているが、その周辺ではその存在が政治的問題としてしばしば浮上する。連邦政府の予算の逼迫でアメリカ軍の規模は縮小傾向にあるが、中国人民解放軍・ロシア連邦軍の急速な軍拡に対抗する為、東アジアにおける軍事的プレゼンスはこれまで通り維持するとしている。
歴史
起源
アメリカ軍の起源は13植民地の各地で自主的に結成された民兵に過ぎず、この民兵たちが後に独立戦争で活躍する事になる。しかし民兵たちは本来イギリス国王に忠誠を誓ってアメリカ大陸に割拠するフランス軍・インディアンたちと戦って来た経歴を持ち、ほとんどは反乱など考えてもいなかった。イギリスとの対立の深まりによってマサチューセッツ植民地の指導者たちは、民兵からイギリス寄りの将校を排除した新部隊(ミニットマン、英語:minuteman)を組織する。
1775年4月に部隊はレキシントンで衝突し、この戦いから独立戦争が開始された。各植民地の代表は大陸会議に集合し、同年6月に民兵を改変してイギリス軍と戦う為の大陸軍を結成する。この部隊の司令官にジョージ・ワシントンが任命され、結成が一般にアメリカ軍の誕生と見なされている。ただし発足当時はボストン周辺のごく僅かなミニットマンだけがワシントンの指揮下にあっただけで、同年7月に各州で同じミニットマン部隊の組織が発足して大陸軍に兵力を供給した。
1776年9月に大陸軍は88大隊6万人・同年12月に110大隊7万5000人の組織に拡大し、数万人の兵力を投入したイギリス軍に対抗できるようになる。数々の困難な戦いを乗り越えてフランス・スペインなどの援護を得て、ワシントン将軍率いる大陸軍はイギリス軍を打ち破った。こうして発足したアメリカ軍であるが、独立戦争が終結するとワシントンが率いる大軍は議会に警戒されるようになり、次々と軍縮の議決が成立して一時はその規模数百人にまで縮小してしまう。
ワシントンの猛抗議と運動によって1万人前後にまで復活するが、ワシントンの懸念は続く1812年戦争で現実のものとなる。イギリスと組んだインディアンとの戦争を有利に進めたい思惑・勝利してイギリス領カナダを奪取したい思惑などから、1812年6月にアメリカ議会はイギリスに宣戦布告するが、アメリカ軍の正規軍は少数で主力は数十万人の民兵であった。そして民兵には所属する州を離れて活動すると急激に戦力が低下する弱点があった。
カナダ侵攻は当初こそ順調であったが、クイーンストン・ハイツの戦いとストーニー・クリークの戦いなどに敗北して撤退に追い込まれる。さらにイギリス本国からの援軍が押し寄せて1814年6月のブラーデンスバーグの戦いに敗北し、首都のワシントンが陥落してホワイトハウス・連邦議会議事堂が炎上するという惨敗になる。アメリカ軍は抗戦を続け、地の利を生かして長期戦に持ち込み講和に行きついたが、この戦いは多くの戦訓を生む事になった。
その後のアメリカ軍は質量共に大規模化を進め、アメリカの歴史において決定的な役割を果たしてきた。1846年4月に発生したメキシコと交戦した米墨戦争の際には、正規軍3万人以上に義勇兵約6万人となる。1847年3月にベラクルスを包囲・降伏させ、同年9月には首都のメキシコシティを陥落させて完勝した。続く南北戦争の内乱に苦しむが、その過程でそれまで南部に偏っていた軍将校が北部からも輩出するようになる。そして2度の世界大戦の勝敗を左右する事によって、アメリカ軍は超大国の軍隊としての地位を確立した。
戦後
1947年9月に採択された国家安全保障法は現代のアメリカ軍の枠組みを構築し、この法律は国防長官が率いる国家軍事施設を設立し、空軍省と国家安全保障会議を設立した。1949年8月の法改正で国家軍事施設は国防総省に改称され、陸軍省・海軍省・空軍省が国防総省に統合された。現在では予備役を含めれば200万人に及ぶ兵力と多数の艦隊・1万機を越える航空戦力を有している。防衛予算は1国だけで全世界の防衛支出の3割を占めている。
だが2020年代になるとZ世代の多くが兵役不適格であることから空前の人手不足に陥っている。2022年、アメリカ陸軍は兵士採用目標人数に対して25%、1万5000人不足しているという。2020年のアメリカ国防総省(Pentagon)の調査によると、17歳から24歳の77%が兵役に不適格だったことが判明し、2017年に行われた前回の調査から6%増加したという。同報告によると、「肥満」「薬物・アルコール乱用」「医療・身体的な健康問題」「精神疾患」「刺青」などが主な欠格事由となっている。参考
陸軍も無策ではなく、初任地を兵士自らが選べるようにする、職務によって5万ドル(2023年4月時点のレートで約650万円)を超えるボーナスを支給したりするといった対策を打っている。さらに2023年には兵士が紹介した者が入隊すると、兵士自身が1階級昇進するという型破りな制度も試験的に導入されている。参考
機構
軍種 | 特徴 |
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アメリカ陸軍(United States Army) | 1775年4月から1783年9月まで続いた独立戦争を戦う為に発足した大陸軍がルーツである。 |
アメリカ海軍(United States Navy) | 原子力空母11隻・揚陸艦31隻・原子力潜水艦71隻などを有する世界最大規模の部隊。 |
アメリカ空軍(United States Air Force) | 7000機以上の航空機を有するなど世界最大の部隊であり、世界各地に空軍基地を持つ。 |
アメリカ海兵隊(United States Marine Corps) | 海外での武力行使を前提とし、アメリカの国益を維持・確保する為の部隊。 |
アメリカ沿岸警備隊(United States Coast Guard) | 6軍で唯一国土安全保障省の配下にある部隊。ちなみに他の5軍は国防総省の配下にある。 |
アメリカ宇宙軍(United States Space Command) | 2019年12月に国防権限法及び宇宙軍法の成立によって発足した部隊。 |
関連タグ
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