概要
歌舞伎において女役を演じる男優、またその役柄のことを指す(※原義に則れば必ずしも男性とは限らないが、現代では男性のみが演じる舞台が普通のため、ここでは男性に限定して紹介する)。
基本的には「おんながた」と読み「立女形」「若女形」などの場合「女形」と書いて「おやま」と読ませる。
「かた(がた)」というのは、能におけるシテ方(主役を演じる俳優)やワキ方(主役と相対する役の俳優)のように役職、役割を示す「方」に由来するとされる。このため、「女方」と表記されるのが正式という考え方もある。
歌舞伎の起源は女性によるものというのが通説であるが、江戸時代はじめのころに、女歌舞伎に影響を受けた遊女たちによる遊女歌舞伎、元服前の少年たちによる若衆歌舞伎が流行し、これらが風紀を乱すとして禁止されたことにより、男女が同じ舞台に立つことはなくなり、現在に通じる概ね成人した男性のみで演じられる「野郎歌舞伎」が生まれることとなった。女形はこの野郎歌舞伎が基本となってから登場した存在である。
なお、より古典的な演劇である能についても「男性が演じる女性役」というのはいるが、特に呼び分けることはない。
近代に入ってからは、大衆演劇においても同様の役割を持つ俳優のことを「女形」と呼ぶようになった。
日本だけでなくヨーロッパのオペラ(バロック・オペラ)や中国の京劇など、さまざまな舞台で洋の東西を問わず存在する。ただし、時代が進むにつれて普通に女性が演じることが多くなったものも多い。
女形を起用する理由としては、文化的・政治的な背景もあるが、重量のある衣装を身に纏ったままハードな動作を演じることや、声量など体力的な事情も大きく、また(特に男女が同じ舞台に立つのが当たり前になっている現代においては)「男性が演じる誇張された女性役」として培われてきたノウハウと現実の女性像、「女性が演じる女性役」との乖離があることも関係しているとされる。
役柄
「女形」というときは、基本的に姫君や花魁や若い娘や人妻、奥女中などの中年以前の若い女性を専門に演じる俳優のことを指す。幼い少女は子役(現代では女の子のことも多い)が演じ、中年以上の年配の女性役は同じく男性が演じるものの「花車方」「老女方(ふけおやま)」などと呼び分けられる。
「惚れた男性のため悪事を働く女」の女形を「悪婆(あくば)」と呼ぶ。
「婆」の字を含んでいるが、中年以降の女性を指す。盗みや殺し、男勝りな態度が特徴。それでいて意中の男性の前では恥じらう、または悪く世慣れしていて厚かましく、身持ちが悪いというのが定番。服飾も決まった装いだ。
意味は毒婦(無慈悲な性根の悪い女)という言葉に近いが、それと違って歌舞伎の役柄を指す言葉であったため、人物を形容するのに使われることはなかった。
かつて歌舞伎の女性は類型化されたもので、本質的に善だった。しかし徐々に役の性格が複雑になってくると、悪の要素を持つ女性も少しづつ登場するようになった。これが「女武道」の成立に繋がった。
江戸時代の爛熟期に発生したこの悪婆という複雑な役柄も、女武道の一種だった。女形にどうしても付いて回った鬱屈さや陰湿さを払拭する爽快さを演じる役柄であり、正義とは少し異なるものだった。
女の敵役は「女形」ではなく「敵役」に分類される。もっとも現代では敵役という分類自体が「立役」に吸収されているため分けられることは少ない。
そのほか
ヴィジュアル系バンドにおいては、ほぼ全てのバンドでメンバー全員が男性であることから、女装してステージに登場するメンバーのことを「女形」という。「おやま」と呼ぶこともあれば「おんながた」と読む場合もあるが、概ね「おんながた」と言うことが多い。女形のメンバーを特定する場合は「女形麺」と称する(麺=メンバーもしくはメンズ)。
女装といっても、本人に女性化願望や女性として可愛らしく見られたいという考えがあるわけでも、歌舞伎のように役として女性を演じているというわけでもなく、耽美なイメージや作品群中のキャラクター担当を打ち出すべく中性的な装いになっている、複数いるメンバーの中で個性を持ったステージ衣装の一環としてロリィタファッションやゴシックファッションを身に纏っている、というスタンスの人物が大半である。なので、ライブ中のMCだと普通に男言葉で喋っている方が殆どでありmana様のように「喋らない」等のように徹底した設定を長年やっている人はごく稀である。
一般に広まったのはSHAZNAのIZAMや、MALICEMIZERのMana様の影響が大きいとされ、いわゆる全盛期の1990年代よりも「ネオV系」と呼ばれる世代が流行するようになってから女形のいるバンドも増えている。
パートはあまり関係がなく、大抵は一つのバンドにつき一人である。中にはコンセプト上全員女形のバンドもある。前のバンドで女形をやっていてもコンセプトの変化や、新バンドを組んだ時の他メンバーとのバランス上女形を止める場合もよくある。同じバンドを続けてもその時期のコンセプトに応じて女形になったりならなかったりする場合と、ほぼ固定で女形をやる場合とある。体型維持や肌・髪の手入れも相応に大変なので加齢により続けられないとしてやめてしまう者もいるが、中高年に差し掛かっても貫徹している者もいる。
特撮のスーツアクターなど、元々女優が担当している役が変身後の姿(で激しいアクション)を演じる際には、小柄な男性が演じる場合が多く、女形スーツアクターと呼ばれる。
専業のスーツアクター以外では、俳優の寺島進が下積み時代ヒーローショーで女性役を演じたことがあり、映画『イン・ザ・ヒーロー』でも「小柄な体格を活かして女性役を多く担当するスーツアクター」という役どころを担当している。
近年では「スーツアクトレス」として、女性がそのまま女性役を担当することも増えている。
関連人物
実在の人物
ヴィジュアル系の女形担当
- IZAM(SHAZNA)
- mana様(MALICEMIZER,Moidixmois)
- HIZAKI(Versailles)
- TERU藍華柳時代。 Versailles以降は少年系に変えている。
- Tsunehito(D)
- 緑川裕宇(0.1gの誤算)楽曲や時期によって女形に寄ったり寄らなかったり。
- AYA(PsycholeCemu)
- Sena(JILUKA)
- ラメ(ヴィドール)
- MACHI、EMIRU(LAREINE)
- Kaya
- 鐚依(DEATHGAZE)Ba担当でこの表記だった時。Voに転向して「藍」になってからは男らしい外見にしている。
架空の人物
- 早乙女アルト(早乙女有人) 『マクロスF』
- 國崎出雲、皇加賀斗 『國崎出雲の事情』
- 藤井菊之助 『オヤマ!菊之助』…題名は「おや、まぁ」とのダブルミーニング
- イゾウ 『ONEPIECE』
- 荒川真澄(少年期) 『龍が如く7』
関連タグ
男役:対義語。女性が演じる男性役
京劇:中国の伝統劇