イゼルローン攻防戦
いぜるろーんこうぼうせん
概要
銀河帝国と自由惑星同盟を結ぶ2つの回廊の1つ、「イゼルローン回廊」。もう1つの「フェザーン回廊」が中立の立場にある以上、双方ともに攻勢をかけるときに使用していた回廊に帝国が宇宙暦767年/帝国暦458年(以下宇宙暦/帝国暦で表記)にイゼルローン要塞を完成させた。
同盟が帝国へ攻勢をかけるには、この要塞を攻略することが必須となり、完成から作品終了までの34年間で11度に及ぶ攻防戦が展開されることになった。
第5次
792年/483年に発生。外伝「黄金の翼」で描かれた。また作中で初めて描かれた攻防戦でもある。
同盟軍は宇宙艦隊司令長官シドニー・シトレ大将を総司令官とする51,400隻の艦隊を投入。これに対しイゼルローン要塞はヴァルテンベルク大将の要塞駐留艦隊13,000隻で応戦したが、駐留艦隊が要塞主砲「トールハンマー」へ同盟艦隊を引き付けようと後退を始めた瞬間、シトレは同盟艦隊に突撃を命じ両艦隊が混在状態(並行追撃)となりトールハンマーが使用不可能となってしまった。さらに無人艦を要塞に突入させることで損傷を与えたが、恐慌状態に陥った要塞司令官クライスト大将が敵味方お構いなしにトールハンマーを発射、両軍ともに大損害を被り同盟軍は撤退した。
ラインハルト・フォン・ミューゼルは駆逐艦「エルムラント2号」の艦長(少佐)として、ジークフリード・キルヒアイスは同艦の副長(中尉)として参加し、巡航艦を沈める戦功をあげている。
ヤン・ウェンリーはシトレの副官(少佐)として参加し、「外側から」のイゼルローン攻略は不可能との結論を得た。
第6次
794/485年に発生。外伝「千億の星、千億の光」で描かれた。
同盟軍は宇宙艦隊司令長官ラザール・ロボス元帥を総司令官とする36,900隻を投入。それに対し帝国軍は宇宙艦隊司令長官グレゴール・フォン・ミュッケンベルガー元帥を総司令官に据え迎え撃った。
同年11月中は前哨戦として回廊内で小戦闘が繰り返された。ミューゼル少将は2,200隻の分艦隊でいくつかの分艦隊を殲滅するが、総司令部作戦参謀であったヤン大佐の献策により逆に追い込まれ、800隻の損害を出して撤退する羽目に陥った。なおこの戦いでフリッツ・ヨーゼフ・ビッテンフェルト大佐が艦長を務める戦艦「シュワルツティーゲル」が1撃で2隻を撃破するという離れ業を見せた。
12月1日より要塞正面で戦闘が始まり、同盟軍はウィレム・ホーランド少将とアンドリュー・フォーク中佐がそれぞれ献策した艦隊運動で陽動を行い、ミサイル艦による要塞への集中攻撃を行った。一定の効果は上げたもののミューゼル分艦隊がミサイル艦部隊を側面から攻撃したことで、同盟本隊が急進し帝国艦隊も出撃してきたことで要塞主砲が使えない混戦状態に陥った。
これにいら立ったラインハルトは自ら作戦案を献策、ミュッケンベルガーも若造の差出口にいら立ちながらも戦理にかなってるとし実行を命じた。ラインハルト艦隊の翻弄につられた同盟軍はそのまま追撃するもその間に帝国艦隊は要塞へ撤退、その瞬間にトールハンマーが発射され同盟艦隊は大損害を被り退却した。
この戦いでは本編の登場人物が多く参加しており、帝国軍ではウィリバルト・ヨアヒム・フォン・メルカッツが艦隊司令官(中将)の1人として、ウォルフガング・ミッターマイヤーとオスカー・フォン・ロイエンタールが小部隊の司令官(准将)として、カール・グスタフ・ケンプが戦艦艦長(大佐、石黒版では空戦隊長)として参加した。
同盟軍ではアレックス・キャゼルヌが総司令部補給参謀(准将)として、ダスティ・アッテンボローが駆逐艦「エルム3号」艦長(少佐)として、オリビエ・ポプランとイワン・コーネフが空戦隊員(少尉)として参加した。
第7次
796/487年に発生。歴史上初めてイゼルローン要塞の支配者が変わる戦いとなった。
同盟軍はヤン少将を司令官とするアスターテ会戦で壊滅した第4・6艦隊の残存戦力と新規戦力で編成した第13艦隊6,400隻を投入。しかしヤンは過去のイゼルローン攻略戦の経験から、要塞を落とすには潜入工作をするのが唯一の策であると判断していた。
手始めに鹵獲した帝国艦で陸戦部隊「薔薇の騎士連隊」を送り、変装した薔薇の騎士連隊が緊急事態を伝えて要塞司令官トーマ・フォン・シュトックハウゼン大将への面会を求めた。シュトックハウゼンは面会した連隊長ワルター・フォン・シェーンコップ大佐によって捕虜にされ、要塞のシステムも無力化されてしまう。駐留艦隊司令官ハンス・ディートリッヒ・フォン・ゼークト大将は第13艦隊が発した偽情報により回廊へと出撃しており、その間に要塞を占領され帰路を絶たれてしまった。ヤンの降伏勧告に逆上したゼークトは艦隊突撃によって玉砕しようとしたが、ヤンはゼークトの旗艦に対しトールハンマーを発射、撃沈することによって残りの帝国艦隊を敗走させることに成功した。ただし艦隊参謀のパウル・フォン・オーベルシュタイン大佐は直前にゼークトを見限り脱出、帝国へ帰還し敵前逃亡で厳罰が下される予定だったが、元帥となったばかりのラインハルトに自らを売り込んで助命された。
ヤンは味方の損害0で難攻不落を謳われたイゼルローン要塞を占領したことで、「魔術師ヤン(ヤン・ザ・マジシャン)」「奇跡のヤン(ミラクル・ヤン)」の異名をとることになる。ちなみにヤン本人はこれを花道に退役するつもりだったが、結局中将昇進と第2艦隊の残存戦力も加わり正式に1個艦隊に再編された第13艦隊を指揮することになった。
第8次
798/489年4~5月に発生。
リップシュタット戦役と救国軍事会議のクーデターの結果、帝国側の優位が決定的になったことでフェザーン自治領主アドリアン・ルビンスキーが「帝国に同盟を滅ぼさせる」ことを目的に起こした。その手始めに戦いの前に同盟政府に圧力をかけ、ヤンを査問会と称しハイネセンへ召喚しイゼルローンから引き離させた。帝国では科学技術総監アントン・ヒルマー・フォン・シャフト大将の献策により、ガイエスブルク要塞にワープエンジンを取り付け、イゼルローン攻略の橋頭堡として移動・使用する案をラインハルトに承認させた(ワープエンジンの技術はフェザーンからの横流し)。
帝国軍はケンプ大将を総司令官に、ナイトハルト・ミュラー大将を副司令官とする16,000隻の部隊をガイエスブルク要塞とともに投入した。
同盟軍は要塞事務監キャゼルヌ少将が代理司令官となって応戦。要塞防御指揮官シェーンコップ少将や客員提督メルカッツ中将らの補佐により、陸戦部隊や艦隊による攻撃に耐え続けた。また帝国軍では相次ぐ作戦失敗で功を焦るケンプとミュラーの間で不協和音が生じていた。
5月、ヤンが増援部隊5,000隻を指揮してイゼルローン回廊へ到着するとケンプは時間差を置いての駐留艦隊と増援部隊の各個撃破をもくろんだが、司令官付従兵ユリアン・ミンツ曹長がケンプの作戦を看破。同盟軍に挟撃され全滅の危機に陥ったケンプは最後の手段としてガイエスブルクをイゼルローンに体当たりさせることを思いつくが、既に織り込み済みであったヤン(ラインハルトも攻略当初から考慮していた)はワープエンジンの1基に集中攻撃を加え、さらにトールハンマーによってガイエスブルクは崩壊。要塞にとどまっていたケンプは戦死、艦隊や将兵の脱出を指揮していたミュラーもガイエスブルク崩壊の衝撃により重傷を負った。
ヤンは追撃を不要としていたが、増援部隊の分艦隊司令官サンドル・アラルコン少将と要塞駐留艦隊分艦隊司令官グエン・バン・ヒュー少将が5,000隻を指揮して命令を無視し追撃した。しかし援軍としてイゼルローンへ向かっていたミッターマイヤー、ロイエンタール両艦隊に逆撃され全滅した。
戦後ケンプは上級大将へ特進したが、シャフトはフェザーンからの密告により汚職などの罪で逮捕された。
第9次
798/489年10月~799/490年1月に発生。帝国による同盟領侵攻「ラグナロック作戦」の陽動として行われた。
帝国軍はロイエンタール上級大将を総司令官、ヘルムート・レンネンカンプとコルネリアス・ルッツ両大将を副司令官とする36,000隻の艦隊を投入した。
陽動ではあったものの、ロイエンタールは並行追撃による艦隊の混在状態を生み出しトールハンマーを封じるなど一切手を抜かなかった。それに対してヤンは自らの旗艦「ヒューべリオン」を囮にロイエンタールを誘い出し、旗艦「トリスタン」に薔薇の騎士連隊を送り白兵戦を挑ませその間に艦隊を後退させた。
1月、同盟宇宙艦隊司令長官アレクサンドル・ビュコック大将より自由裁量権を与えられたヤンはイゼルローンの放棄を決定。作戦準備中に分艦隊司令官アッテンボロー少将の献策で老朽輸送船を使った囮作戦でレンネンカンプ艦隊に2,000隻の損害を与えた。
1月19日、ヤン艦隊の脱出の後ロイエンタール軍はルッツの献策によりヤンが事前に仕掛けた極低周波爆弾を回収した後イゼルローンを占領した。
第10次
宇宙暦800年/新帝国暦2年(以下宇宙暦/新帝国暦で表記)1月2日~14日に発生。
同盟より離反し、エル・ファシル独立政府傘下の革命予備軍となったヤン一党とローエングラム朝銀河帝国軍との戦闘。この直前帝国軍による同盟に対する再侵攻(第2次ラグナロック作戦)が始まり、対抗拠点としてイゼルローン要塞が必要になったのが攻略目的となっている。
ヤンは独立政府の思惑でエル・ファシルに留め置かれたため、艦隊指揮はメルカッツ上級大将に任された。
1月2日より情報主任幕僚バグダッシュ大佐が要塞司令官ルッツ上級大将に対し、皇帝ラインハルトの名を冠した偽の出撃・待機命令を繰り返し送り付けて疑心暗鬼に陥りさせた。そして7日に本物の命令が届いた際にも出撃してこないことを確認した後、脅迫めいた通信を送り付けた。ルッツは逡巡の結果この通信をヤンの罠と考え、艦隊と要塞で挟み撃ちにすることを考えた。
12日に帝国軍は出撃し、それを察した革命軍は13日に「健康と美容のために、食後に一杯の紅茶を」というキーワードを送信し、要塞の制御システムを封印した。これこそが第9次攻防戦の際にヤンが仕込んだ真の隠し玉だった。
革命軍はシェーンコップ中将指揮の下、薔薇の騎士連隊と志願者からなる陸戦部隊を送り要塞守備隊と白兵戦を展開。AS24ブロックの第4予備制御室を占拠し、「ロシアン・ティーを一杯。ジャムではなくママレードでもなく蜂蜜で」という解除キーを送信し、ルッツ艦隊へトールハンマーを発射し潰走させた。
14日0時45分、守備隊司令官ウェーラー中将が守備隊の退去と引き換えに要塞の開城を宣言し自殺。イゼルローン要塞は革命予備軍によって再占領された。
第11次
801年/2年に発生。ヤン没後始めて行われた帝国と民主共和勢力の戦い。
本年初頭より旧同盟領で経済混乱により大規模な反帝国運動が発生するようになっていた。帝国上層部ではイゼルローン要塞に立てこもるイゼルローン共和政府をあてにした運動とみており、沈静化のためにも武力侵攻が必要との意見が出始めていた。いっぽう共和政府側では運動の背後にヤン暗殺の実行犯である地球教がいるとの考えを捨てきれず判断に迷っていたが、同時に前年発生したロイエンタール元帥叛逆事件時に帝国軍に回廊通過を認めたのはイゼルローンのみの保全を図ってのことではないかとの猜疑が出ているとの情報が入ったことで、旧同盟領の共和主義者鼓舞のため帝国軍との戦いを決断した。
2月7日、イゼルローン革命軍司令官ユリアン・ミンツ中尉率いる6,600隻が帝国側出口へ向けて出撃。8日、その報に接したアウグスト・ザムエル・ワーレン上級大将率いる15,600隻が回廊に侵入を開始した。
2月12日、ヴァーゲンザイル大将率いる8,500隻と革命軍が交戦状態に入った。艦隊戦は一進一退であったが、空戦ではポプラン中佐率いるスパルタニアン隊が損害16機に対しワルキューレ撃墜104機の戦果を挙げた。
それから後退戦闘を続けた革命軍は14日、出鼻をくじく形でヴァーゲンザイル艦隊へ攻撃し混乱させた上でトールハンマーを発射、壊乱状態となった。
一方ワーレン艦隊もヴァーゲンザイル艦隊の撤退援護のため要塞へ肉薄しようとしたが、伏兵であったメルカッツ分艦隊による側面攻撃で足止めされ、その間に準備を整えたトールハンマーを2度受けたことで艦隊に損害が出たことで撤退した。
この戦いにより共和政府は疑念払拭と民主共和勢力の鼓舞という2つの作戦目的を達成した。一方の帝国は力量定かでなかったユリアンを油断ならぬ相手と定めるとともに、大将以下の力量不足(ヴァーゲンザイル艦隊からメルカッツ分艦隊を捕捉できていたにもかかわらず、退避を優先してワーレンへ通報していなかった)を深刻な問題ととらえることになった。