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成形炸薬弾の編集履歴

2025-01-18 14:22:10 バージョン

成形炸薬弾

せいけいさくやくだん

成形炸薬によって装甲を貫く仕組みを持たせた砲弾・弾頭のこと。

解説

 成形炸薬弾は、炸薬を特定の形状に成形することで装甲を侵徹する効果を持たせた砲弾弾頭のこと。

 モンロー・ノイマン効果という、爆薬の衝撃波を一方向にコントロールする技術を応用したものである。もともとは強固なトーチカの破壊機材として開発が進められた。


 理論上、着弾時の状況さえ整っていれば弾頭部の速度を問わず同じ厚みの装甲を侵徹できるので、高速で飛ばす砲弾であっても、設置型の地雷手投げ弾であっても同じだけの効果を発揮する。

 極端な話、人が手に持って叩きつけても貫通力が変わらない。

 通常の徹甲弾に代表される運動エネルギー弾は弾自身の運動エネルギー(速度)で貫通力を得ているので、成形炸薬弾の場合は化学エネルギー弾に区分される。

 軍用の対戦車兵器としては「High-Explosive Anti-Tank」の略語から「HEAT(ヒート)」とも呼ばれるが、HEATヒート)という表記はあくまでも英名の頭文字を羅列しただけで、「熱」という意味ではない。

 また、物体の熱伝導がほとんど起こらないほどの極短時間に効果が起きるため、装甲貫徹の原理に熱は事実上関与していない

 一時期のミリタリー雑誌などには「戦車内部に高熱でダメージを与える」性質の砲弾かのような説明が見られたが、これは被弾による燃料や弾薬の引火等で炎上した車両をHEATそのもので発火したように勘違いした、あるいは侵徹痕から燃焼ガスが吹込むことで内部が焼かれる事もある為、それが主な破壊効果であると勘違いされた可能性もある。


 英名に「Anti-Tank」が入っているので、和訳では「対戦車榴弾」と呼ばれることがあるが、実際の用途は対戦車ミサイルロケット弾対戦車手榴弾といった対戦車兵器のみに留まらず、魚雷の弾頭、不発弾処理機材、金属切断用爆破線に用いられることもある。



構造・仕組み

 爆薬漏斗型のくぼみが成形されていて、漏斗の広がった側が目標に向いている。これを起爆するだけでも貫通力が発生するが、実用上では薄い銅などで作った金属板(ライナー)を漏斗面に貼り付け、さらに貫通効果を増すようにされている。

砲弾やミサイルの場合は飛ばした際の空気抵抗を避けるため、この先にさらに風防がかぶさっているので、外見的には漏斗型になっていない成形炸薬弾も多い。


 起爆すると爆薬の爆轟で生じた衝撃波が漏斗の頂点に一点集中して、金属でも耐えられないほどの高圧力を発する。

 これを受けたライナーは圧力に負け、頂点部分から粘土のように強引に潰されていく「塑性流動」を起こして前方に絞り出され、秒速数kmもの超高速で移動する「メタルジェット」と呼ばれる状態になる。

 メタルジェットが対象に到達すると、今度は対象を塑性流動させて侵徹し続け、十分なエネルギーと重量を持ったまま侵徹しきると裏側に超高温・超高速で突き抜ける

 ライナーのメタルジェット化はほぼ爆薬の圧力だけで発生するため、「爆発の熱で溶けた金属が噴き出す」といった効果ではない。

 兵器として使用する場合は、メタルジェットが装甲を突き破って内部に損傷を与える形で利用される。戦車などの装甲に当たれば、強烈な圧力による衝撃や、それで飛び散る破片などでも車内にダメージが生じることになる。


 起爆で生じたエネルギーのうち、メタルジェットの生成に使われるのは3割ほどで、残りは普通の爆弾のように周囲に爆風として放出される。この爆風によって一応は榴弾のように周囲を巻き込んで破壊する効果もある。ただ、本職の榴弾よりも炸薬量に劣り、意図して破片をまき散らし攻撃する機能もないので、その威力は比較的低い。

 榴弾としての効果が高まるように、割れて散弾化する外殻や鉄片などを詰め合わせにしたものは「多目的対戦車榴弾(HEAT-MP)」と呼び、あまり貫通力を必要としない軟目標(トラック歩兵など)も破片に巻き込んで効果的にダメージを与える。


 戦車砲用のHEAT-MPはイラク戦争などにおける市外戦で歩兵の援護にも活用された。敵兵の立てこもる陣地や家屋は徹甲弾や重機関銃で撃つとむしろ綺麗に貫通してしまいなかなか打ち崩せなかったのに対して、HEAT-MPは爆発して巻き込むため効果的だったとされている。「だいたいなんにでも効く」ので、明らかに戦車戦が想定されない場合は万能弾としてこちらを装填しておくことが多いらしい。

 


ライフリングとの相性

 一般的な銃砲の多くに施されるライフリングは、砲弾に回転の力を加えてその直進性を高める効果を有する。

 …が、これは成形炸薬弾とは非常に相性が悪い。

 砲弾に回転で遠心力が加わった場合、着弾時に回転の作用で位置により速度の異なるメタルジェットは断片化し、断片化したメタルジェット同士が干渉しあうことで侵徹能力が激減してしまい、侵徹効率が大きく低下してしまうのだ。

 戦後第三世代戦車ではライフリングのない滑腔砲が普及していたので問題なかったが、まだライフル砲が一般的だった戦後第二世代あたりの戦車が使うHEAT弾では、弾の外殻である装弾筒との間に「スリップリング」という滑りやすい素材を挟み込み、わざわざライフル砲の回転を殺す仕組みになっていた。

 中にはG弾のように外殻を二重構造として間にベアリングを入れ、回転する外殻と回転しない内殻という構造のものもあった。こちらは二重構造とする関係でより小径となっており、侵徹力は劣る。


 生成されたメタルジェット自体に回転モーメントを付与できるように設計し、砲弾が姿勢安定できる最低限の旋動状態でもメタルジェットが断片化せずに最大に効果を発揮するように設計された成形炸薬弾も登場している。

 こうした構造のHEAT弾はスリップリング等を用いることなくライフル砲に対応し、弾道を安定させて長距離での命中精度を向上させている。一方でこのような構造を持った砲弾は回転のない静爆状態では本来の性能を発揮しないため、テスト時や砲で使用しないイレギュラーな運用時では問題となることもある。


 逆に滑腔砲で用いられる成形炸薬弾は、APFSDS(翼安定徹甲弾)同様、尾部に安定翼が設けられている。これは、ライフリングによる回転が無い砲弾に安定翼で直進性を与えるため。初速を高められるが横風の影響を受けやすいなど一長一短がある。

 ライフル砲用のものも、スリップリングなどで回転させない70式HEAT-Tなどは直進性を得るため安定翼が付けられている。

 こうした安定翼付きのHEAT弾は「翼安定対戦車榴弾」、英語ではFSHEATやHEAT-FS(FS=Fin-Stabilized)とも呼ばれる。


対策・対策の対策

 近代的な徹甲弾やHEAT弾の「塑性流動化による侵徹」は、傾斜や丸みをつけた避弾経始で弾をはじくといった理論を無効化するため、戦車などの装甲防御に対する考え方を大きく変えるほどの効果があった。

 「もはや従来の装甲では防ぎ切れないので、諦めて機動力を重視しよう」という設計思想の戦車が出て来るほどだったのである。

 しかし、適切な距離に達する前に障害物などに当たって起爆してしまうと対象に何のダメージも与えない場合や、着弾時の姿勢などが悪いとメタルジェットがあらぬ角度に飛んでいくといった弱点があるので、この弱点を突く形でHEATに対する防御方法がいくつか実用化されている。


  • 装甲から離れた位置で起爆させ無効化する
  • 起爆前にライナーを破壊する
    • 弾頭信管(起爆装置)より大きく、砲弾全体より小さいぐらいの隙間がある金網や金属繊維製ネット等を貼り、隙間に入った砲弾をひっかけてライナーを破壊する。ライナーの形状が崩れると起爆してもメタルジェットが生成されず、貫通力が生じない。
    • 射程ぎりぎりで低速になっていたロケット弾などはネットにひっかかったり、砲弾先端の信管やその周辺が破壊された事で不発になることもある。
  • 爆発反応装甲や着弾時に高い圧力を発生させる材質でメタルジェットの侵徹効果を減ずる、または砲弾を破壊する
  • アクティブ防護システムにより砲弾を迎撃、破壊する
  • より高性能な装甲で防ぐ
    • 塑性流動しにくいユゴニオ弾性限界の高いセラミックや劣化ウラン等を装甲に使用することでメタルジェットを防ぎ切る
    • 拘束セラミックやガラス繊維等を用いた複合装甲(積層装甲)として、装甲材の塑性流動を阻害し侵徹を防ぐ
    • 近代的な装弾筒付き翼安定徹甲弾(APFSDS)も硬い弾芯を高速でぶつけることによる塑性流動で侵徹するので、対APFSDS用に作られた装甲は大抵の場合HEAT弾にも防御効果を発揮する。一方で、HEAT特有の弱点を突くタイプの防御手段はAPFSDSの被弾には無意味なこともある。


 しかし、成形炸薬弾側でも対策に対する対策が講じられている。

  • タンデム弾頭
    • 最適な貫徹力を発揮する距離が異なる弾頭を2段もしくは3段備え、反応装甲や障害物等の効果を減じ、複数侵徹することで複合装甲の特性を弱める。
  • デコイロケットを用いたアクティブ防護システムの対応能力への負荷
  • 技術向上による着弾姿勢や状況によらないメタルジェットの貫徹能力最適化

などなど。装甲と貫通手段はいたちごっこで追いつけ追い越せの進歩をしている状態である。


ゲームなどの創作物において

 ミリタリー系のゲームなどでは、HEAT弾に相当する武器が「化学エネルギー属性」のように区別されている場合があり、防御手段も「化学エネルギー属性と運動エネルギー属性は別」という形になっていることがある。

 しかし実際は上記のように、APFSDSとHEATは塑性流動による侵徹という点では原理が同じなので、近代的な運動エネルギー弾防御を目的にした装甲はHEATに対しても上位互換に近い性質を持つことが多い。

 創作などで装甲防御を取り扱う際にはゲーム的な都合といった現実とは異なる理由なしに「運動エネルギー弾に強い装甲なのでHEAT弾が弱点だ」といった展開は不自然になりかねないことに注意しよう。

 構造・仕組みの項目で書かれているように効果が少し複雑という事もあって、情報が少なかった時代にはまるで焼夷弾のように書かれていたり、焼夷弾の名称としてヒートの名が使われている作品もあった。


自己鍛造弾

 HEATとは別種の成形炸薬弾。「爆発成形侵徹体(EFP)」とも言う。

 爆薬とライナーは漏斗型のHEAT弾よりもさらに平たい「」のような形に成形されていて、周囲を強固な外殻で覆うことで爆発の衝撃波が外部に逃げにくい構造になっている。

 爆薬部分は「爆薬レンズ」と呼ばれる形に加工されていて、起爆により均一平面状の衝撃波がライナーに当たるとライナーが押しつぶされ、名前の通りひとりでに(自己)弾丸に変型して(鍛造されて)超高速で撃ち出される


 爆発を外殻で閉じ込めるのでHEATよりエネルギーの利用効率が良く、HEATが3割ほどだったのに対して、EFPでは5割ほどが侵徹体の形成と発射に利用される。

 それでも残りの5割は外殻を破壊して放出されるので、HEAT-MP同様、これを利用できるように破片弾を同梱してまき散らす効果を追加したものもある。しかしEFPが必要になるシチュエーションでこのような構造を採用する意味は薄く、周囲を強引に巻き込むようなIEDで行われている。


 侵徹体はHEATのメタルジェットとは異なり冷間鍛造されたカッチカチの固体であるため、メタルジェットより遥かに遠くまで飛び、硬さと運動エネルギーによる高い貫通力は二重装甲のようにメタルジェットを攪乱するタイプの防御手段でも貫いてしまう。

 さすがに砲から発射する徹甲弾などに比べれば有効射程は短いが、基本的に飛距離の長さを活かして離れた場所で起爆して撃ち込むので、メタルジェット対策を前提にしたHEAT用の防御手段は効かない場合が多い。


 一枚のライナーに複数のくぼみをつけることで侵徹体を多方向にいくつも射出したり、ライナーを重ねることでさらに多く撃ち出せる「高密度EFP(マルチプルEFP)」など攻撃範囲を改善したものもあり、ミサイルなどに搭載すると広範囲に貫通弾を雨あられと撒き散らす対装甲兵器にもなる。

 一方で、調整破片や散弾を詰め込んだ榴弾よりは飛び散る数が少なく、ライナー直径に対する貫通可能な厚みはHEATの方が効率が良いなど一長一短がある。

 単一の目標の装甲を破るには大型のHEAT弾頭、広範囲を攻撃したい場合は破片を撒く榴弾、効果範囲を取りつつ装甲に対しての有効打を両立したい用途ではマルチEFP弾といった使い分けがされる。


 非軍事用途だと、宇宙探査機はやぶさ2も自己鍛造弾ランチャーを積んでいた

もちろん、宇宙怪獣との戦闘用…といったものではなく、着陸した小惑星にEFPを撃ち込み、劣化していない内部の岩石を採取する穴を開けるための装備である。

 これにより小惑星からのサンプルリターンという偉業を成し遂げた



関連タグ

HEAT(軍事)対戦車榴弾 Heat

砲弾 手榴弾 対戦車ミサイル 地雷 IED

RPG-7 刺突爆雷 パンツァーファウスト3

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