概要
日本の昔話の一つ。「頭をそられた男」というタイトルの場合もある。
あらすじ
昔、ある野原にいたずらな狐の一族が住んでいた。この狐どもは、人をたぶらかしては頭をつるつるに剃ってしまうそうだ。そんなわけで、この狐達には「かみそり狐」という呼び名がついていた。
ある日、このかみそり狐を退治しようと村の衆が集まったが、村でただ一人、狐に頭をそられていない才造(さいぞう)という若者が名乗りを上げた。才造はちょっと知恵があるのが自慢で、村の衆にも一目置かれていた。だから、才造なら退治できるかもしれないと思った。だが心のどこかで、才造もつるつるにされてしまうのではないかとも思っていたそうだ。
さて、才造は野原の真ん中で狐が姉さに化けるのを見つけた。狐の化けた姉さは、才造が見ているとも知らず歩いて行った。しばらくいくと、姉さは道端にしゃがみこんで、枯れ草を引っこ抜いてなにやらこしらえ始めた。やがて枯れ草の人形ができあがると、それが生きた赤ん坊に変わった。才造は狐の化けた姉さが何をするつもりかわからないので、そっと後をついていくことにした。
そうして姉さは、一軒の家へ入って行った。「遅くなっただな」家の中にはおばばがいて、枯れ草が化けた赤ん坊をあやし始めた。そこへ才造が駆け込んで、槍を姉さに向けながら言った。「おばば、騙されちゃなんねえ。この嫁さは狐が化けてるんだ。おばばの抱いている赤ん坊は枯れ草の人形じゃ。おら、この目でしっかり見てるんだ」「なにするだ、おらの大切な嫁こを殺す気だか?」「嫁っこでねえ、狐だ」「いや、嫁こだで」言い争ってもきりがない。そこで才造は知恵を働かせることにした。
才造は、姉さと赤ん坊を縛り上げると、杉の葉を燻し、その煙を浴びせ始めた。姉さと赤ん坊は煙を浴びて咳き込みだした。だが、いつまでたっても正体を現さないので、才造はだんだん心配になってきた。そしてとうとう、姉さと赤ん坊はパッタリと倒れてしまった。「死んでしまった!これでもおらの嫁こと孫が狐か?」
おばばは才造を責めた。「起きてけれ、返事してけれ」と、才造が呼びかけても姉さは返事をしなかった。「どうすべどうすべ、おらとんでもねえことをしてしまっただ」才造が困っていると、偉いお坊様が現れた。坊様は才造をなだめたが、気が済まない才造は、死んだ嫁さと孫を弔いたいと、坊様に弟子にしてくれるように頼んだ。坊さんもそれではと、才造の頭を丸めることにした。
だが実は、この坊さんも、おばばも、姉さも、みんなあの「かみそり狐」が化けていたのだった。そうして見事、才造もつるつるに剃られてしまったのだった。
余談
『まんが日本昔ばなし』で放送されたお話の内容は上記の通りだが、伝わっている内容によっては、姉さがこしらえたものが、赤ん坊ではなくごちそうの重箱になっていたり、向かう先が「これから嫁ぐ長者の家」となっていたりする。そして、「姉さが狐だ」と言い張る男の言葉に姉さが涙した事で、長者が刀で殺そうとしたところにお坊さんが通りかかるという流れにつながる。
三本枝のかみそり狐
しかし、同じ「かみそり狐」でも、上記とは比べ物にならないくらいホラーな内容のお話が、『まんが日本昔ばなし』で放送されていたのだ。
それが、「三本枝のかみそり狐」である。
あらすじ
昔、ある村はずれの「三本枝」という竹やぶに、人を化かすキツネがすんでいました。
村人たちがキツネを恐れる中で、この村の「彦べえ」という若者だけは、少しも信じていませんでした。彦べえは、たそがれ時になって一人で竹やぶに出かけていきました。
すると暗い竹やぶの中を、赤ん坊をしょった娘が一人で歩いていました。何となく怪しいと思い娘の後をつけていくと、「おっかあ、泊まりに来たよ」と、娘は一軒のあばら家へ入って行きました。
この様子を見た彦べえは「婆さん、娘はキツネで赤ん坊は赤カブだ」と、あばら家へ押し入りました。そして赤ん坊を婆さんから取り上げ、いろりの火に投げ込みました。ところが彦べえの予想に反して、赤ん坊はそのまま焼け死んでしまいました。
彦べえは、恐ろしくなってその場を逃げ出しました。孫を殺された婆さまは、包丁を持ち出し「孫を殺した奴を生かしてはおけない、命を取ってやる」と、ものすごい形相で彦べえを追いかけました。
彦べえは、命からがら山寺に逃げ込み、かくまってくれるように頼みました。山寺の坊さまは、彦べえを本堂に隠し、追ってきた婆さまをなだめて、その場を何とかやり過ごしてくれました。そして坊さまは「人を殺してしまったからには坊主になりなさい」と言い、彦べえの髪をカミソリで剃りおとしました。
その夜、彦べえは本堂に布団を敷いて眠りましたが、ふと目を覚ますとそこは竹やぶの中でした。しかも彦べえの髪の毛は全部むしりとられ、頭は血だらけになっていました。これまでの事は、全て三本枝のキツネたちの仕業だったのです。
それからというもの、彦べえは決して見栄をはったり強がりを言ったりしなくなったそうです。
大まかな内容は、先に紹介したものと似ているが、太字にした点が相違点である。そして何よりも、作画も相まって雰囲気が終始ホラーであり、特に婆さまの表情が豹変して彦べえを追いかけるシーンは、まんが日本昔ばなしの中でもトップクラスに「みんなのトラウマ」である。
この「三本枝のかみそり狐」は、まんが日本昔ばなしファンを自称する伊集院光氏も、「嫌いだ」と語っている。